日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成11年仙審第43号
    件名
漁船第11漁栄丸漁船第八かもめ丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年12月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

長谷川峯清、高橋昭雄、上野延之
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:第11漁栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第八かもめ丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
漁栄丸・・・・左舷船尾外版に凹損等の損傷
かもめ丸・・・左舷船首外板に破口を伴う損傷

    原因
かもめ丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
漁栄丸・・・・警告信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第八かもめ丸が、見張り不十分で、トロールにより漁撈に従事している第11漁栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第11漁栄丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年6月13日18時15分
青森県八戸港北東方沖合
2 船舶の要目

船種船名 漁船第11漁栄丸 漁船第八かもめ丸
総トン数 14.98トン 7.21トン
全長 20.32メートル
登録長 11.72メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 264キロワット 264キロワット

3 事実の経過
第11漁栄丸(以下「漁栄丸」という。)は、小型機船底びき網漁業に従事する中央船橋型の鋼製漁船で、A受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首1.8メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成11年6月11日02時00分青森県八戸漁港を発し、同漁港北東方沖合で水深100メートル前後の底びき網漁場に向かい、トロールにより漁撈に従事していることを示す灯火及び形象物を表示し、かけ廻し式の底びき網操業を繰り返した。
翌々13日18時05分A受審人は、鮫角灯台から006度(真方位、以下同じ。)8.4海里の水深約70メートルの漁場で、自ら船橋当直に就き、船首尾各甲板にそれぞれ2人の甲板員を操業配置に就かせ、直径35ミリメートルのコンパウンドロープ製の曳網索(以下「曳網索」という。)の先端に取り付けた樽を投入して同日9回目の投網を開始し、針路を280度に定め、機関を全速力前進にかけて8.2ノットの対地速力で、船尾から曳網索の手綱と称する部分1本を繰り出しながら、手動操舵により進行した。

18時11分少し過ぎA受審人は、鮫角灯台から000度8.6海里の地点に達し、長さ1,600メートルの手綱を繰り出し終え、引き続き底びき網本体の左袖網に接続した曳網索の出カタと称する部分長さ400メートルを繰り出すため、針路を200度に転じたとき、左舷船首82度1,410メートルのところに、第八かもめ丸(以下「かもめ丸」という。)を初めて認めたが、投網中であったことから、気にも留めずに続航した。
18時13分少し前A受審人は、鮫角灯台から359度8.3海里の地点に達し、出カタの繰り出しを終え、引き続き底びき網本体を投入するため、針路を150度に転じて機関を微速力前進に落とし、4.0ノットの対地速力として投網を始めたとき、かもめ丸が左舷船首43度890メートルのところに、自船の投網進路を右方に横切る態勢で接近するのを認めたが、そのうちかもめ丸が自船の掲げている形象物や船尾から繰り出している曳網索を認めて自船が投網中であることが分かり、自船の進路を避けていくものと思い、警告信号を行うことなく、操舵室左舷側出入口に立って船尾方を向き、投網状況を見ながら進行した。

18時13分半少し前A受審人は、底びき網本体の投入を終えて同本体の右袖網に接続した曳網索の入れカタと称する部分長さ400メートルの繰り出しを始めたとき、かもめ丸が同方位690メートルに避航動作をとる気配を見せないまま、衝突のおそれがある態勢で接近しているのを認めたものの、依然同船が自船の進路を避けることを期待し、一時行きあしを止めて入れカタの繰り出しを中断するなど、衝突を避けるための協力動作をとることなく、注意喚起のつもりでモーターサイレンを続けて吹鳴しながら同じ速力のまま進行中、同時15分少し前入れカタを半分ばかり繰り出し、同船が自船に向けて約100メートルに接近したとき、ようやく衝突の危険を感じて機関を停止としたが及ばず、18時15分鮫角灯台から000度8.2海里の地点において、行きあしがなくなり、繰り出していた曳網索に船尾が左方に引き寄せられて船首が170度を向いたとき、漁栄丸の左舷船尾部に、かもめ丸の船首が前方から78度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の西南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、かもめ丸は、操舵室が中央にあるFRP製漁船で、B受審人が息子のC(以下「C甲板員」という。)と2人で乗り組み、底魚一本釣り漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、同月13日04時00分青森県三沢漁港を発し、同漁港東方沖合約20海里で水深約100メートルの漁場に向かい、05時20分から漁を始めてメバルやメヌケなどの底魚約160キログラムを漁獲したのち、17時17分鮫角灯台から054度13.2海里の地点を発進し、同漁港に向けて帰途に就いた。
発進時にB受審人は、C甲板員を船首甲板で漁具の整理に当たらせ、自ら単独の船橋当直に就き、針路を272度に定め、機関を全速力前進にかけて11.1ノットの対地速力で、操舵室中央の舵輪の前方に備えた3海里レンジとしたレーダーを監視しながら前路の見張りに当たり、自動操舵により進行した。また、同甲板員は間もなく作業を終えて操舵室後部の船員室に入って休息した。

17時35分B受審人は、鮫角灯台から042度10.7海里の地点に差し掛かったとき、レーダーのレンジを6海里に切り換え、一瞥して同レンジ内に他船の映像を認めなかったので、周囲に他船はいないと思い、C甲板員を呼んで漁獲物の選別及び箱詰め作業を行うこととし、操舵室を無人にして船首甲板に行き、前路の見張りを十分に行うことなく、魚倉から氷と漁獲物を取り出したのち、船尾方を向いて同甲板員と一緒に同作業を始めた。
18時13分少し前B受審人は、鮫角灯台から002度8.2海里の地点に達したとき、右舷船首15度890メートルのところに、所定の形象物を表示して船尾から底びき網漁具を投入している漁栄丸を視認することができる状況となり、その後同船の方位に明確な変化がなく、衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然操舵室を無人にしたまま前路の見張りを十分に行わず、漁獲物の選別及び箱詰め作業を続けていて、このことに気づかず、漁栄丸の進路を避けずに進行し、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。

衝突の結果、漁栄丸は左舷船尾外板に凹損等の損傷を生じ、かもめ丸は左舷船首外板に破口を伴う損傷を生じたが、のちそれぞれ修理された。

(原因)
本件衝突は、青森県八戸港北東方沖合において、かもめ丸が、三沢漁港に向け帰航する際、見張り不十分で、前路でトロールにより漁撈に従事している漁栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、漁栄丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
B受審人は、青森県八戸港北東方沖合において、三沢漁港に向けて帰航中、船首甲板で漁獲物の整理に当たる場合、所定の形象物を表示してトロールにより漁撈に従事している漁栄丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが同受審人は、同整理を行うに際してレーダーを一瞥し、他船の映像を認めなかったので周囲に他船はいないと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漁撈に従事している漁栄丸の存在に気づかず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、漁栄丸の左舷船尾外板に凹損等及びかもめ丸の左舷船首外板に破口を伴う損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

A受審人は、青森県八戸港北東方沖合において、所定の形象物を表示してトロールにより漁撈に従事中、避航動作をとらないまま衝突のおそれがある態勢で接近するかもめ丸を認めた場合、速やかに避航動作をとることを促すよう警告信号を行い、さらに接近した際にいったん曳網索の繰り出しを中断し、行きあしを止めるなどして衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、そのうちかもめ丸が自船の掲げている形象物や船尾から繰り出している曳網索を認めて自船が漁撈に従事していることに気づき、自船の進路を避けていくものと思い、警告信号を行わず、さらに接近した際に衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行してかもめ丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION