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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年11月6日04時20分 北海道苫小牧港西方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第三十八錦星丸 漁船第二十八幸栄丸 総トン数 7.3トン 4.7トン 全長
16.25メートル 14.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 100
70 3 事実の経過 第三十八錦星丸(以下「錦星丸」という。)は、ほっき貝けた網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、船首0.5メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成10年11月6日02時30分北海道苫小牧港漁港区を発し、同時55分苫小牧灯台の西南西方3海里ばかりの漁場に至り、操業ののち04時13分ほっき貝300キログラムを獲て操業を打ち切り、同漁場を発進して帰途に就いた。 漁場発進後A受審人は、陸岸に沿って東行し、04時14分半苫小牧灯台から247度(真方位、以下同じ。)2.7海里の地点に達したとき、針路を074度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。 定針後A受審人は、漁場から1.5海里ばかり離れたとき、操業中に選別しておいた未熟のほっき貝を沖合に放流する予定で、操舵室左舷側に立ち、右舷方の放流指定海域を見ながら続航した。 ところで、錦星丸は、全速力に増速すると船首が浮上し、操舵位置からは船首方に片舷約15度の範囲で死角を生じ、前方の見通しが妨げられる状況であった。 こうしてA受審人は、04時16分ほぼ正船首1,500メートルのところに、漁労に従事している船舶が表示する灯火を掲げずにほっき貝けた網をえい網しながら約0.3ノットの行きあしで後退している第二十八幸栄丸(以下「幸栄丸」という。)の白、緑2灯及び数個の作業灯を視認でき、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めることができる状況であったが、未熟のほっき貝放流指定海域を確認することに気を取られ、船首を左右に振ったり、操舵室両舷側の窓から顔を出すなどして船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船と更に接近しても、同船を避けることなく続航し、同時20分わずか前ほっき貝放流指定海域に向けて右舵10度をとって右転を開始したとき、船首至近に迫った幸栄丸の後部甲板の作業灯を初めて認め、急ぎ全速力後進としたが、間に合わず、04時20分苫小牧灯台から244度1.65海里の地点において、090度を向いた錦星丸の船首が、全速力のまま、幸栄丸の右舷船首部に前方から53度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。 また、幸栄丸は、ほっき貝けた網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日02時05分苫小牧港漁港区を発し、苫小牧灯台から244度1.65海里の漁場に至り、ほぼ船体中央部にある操舵室の前端上部に両舷灯、操舵室上部マストにマスト灯1個及び操舵室後部に接した機関室囲壁の後端上部に船尾灯1個をそれぞれ掲げたほか、操舵室屋根前部と機関室囲壁屋根後部に100ワットの作業灯をそれぞれ2個と操舵室両舷側通路上部に40ワットの照明灯各1個を点灯したが、漁労に従事している船舶が表示する灯火を掲げずに操業を開始した。 ところで、ほっき貝けた網漁は、船尾から錨を投下し、機関を2.5ノットばかりの前進にかけ、任意の方向に進路を保って錨索を200メートル延出したところで機関を中立として船首からほっき貝けた網を投下し、機関室囲壁の左舷側中央にある油圧ウインチで錨索を巻き揚げることにより、わずかな行きあしで同けた網をえい網しながら後退し、投錨地点に戻ったとき、右舷船首の油圧揚網機で同けた網を巻き揚げてほっき貝を取り出し、2回目は錨はそのままで、進路方向を変えて錨索を延出し、けた網の投揚網を行うという操業方法で、1日の漁獲高は300キログラム以内と協定されていた。 B受審人は、2回の投揚網でほっき貝150キログラムを漁獲し、引き続き3回目の投揚網に取りかかり、04時09分半投錨地点から船首を217度の方向に向けて錨索を200メートル延出し、同時12分ほっき貝けた網を投下し、油圧ウインチのドラムに錨索を巻き取らせ、約0.3ノットの行きあしで後退し、主機及び舵の遠隔操縦機を持って前部甲板に赴き、甲板員とともに前回の投揚網で漁獲したほっき貝の選別を始めた。 04時16分B受審人は、右舷船首37度1,500メートルのところに、自船にほぼ向首して進行する錦星丸の白、紅、緑3灯を視認でき、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近することを認めることができる状況であったが、ほっき貝の選別に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、錦星丸が更に接近してもえい網を中止して後退行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとることなく、錨索を巻きながら約0.3ノットの行きあしで後退中、同時20分わずか前右舷船首約30度至近に迫った同船の船首を初めて認めたが、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、錦星丸は、船首部ブルワークを破損し、幸栄丸は、右舷船首部ブルワークを破損し、船首のかんぬきを折損した。
(原因) 本件衝突は、夜間、北海道苫小牧港西方沖合において、漁場から同港漁港区に向け東行中の錦星丸が、見張り不十分で、漁労に従事している船舶が表示する灯火を掲げずに前路でほっき貝けた網をえい網し、わずかな行きあしで後退している幸栄丸を避けなかったことによって発生したが、幸栄丸が、見張り不十分で、早期にえい網を中止して後退行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、北海道苫小牧港西方沖合において、漁場から同港漁港区に向け東行する場合、機関を全速力に増速すると船首方の一部に死角が生ずる状況であったから、前路でほっき貝けた網をえい網し、わずかな行きあしで後退している幸栄丸を見落とすことのないよう、船首を左右に振ったり、操舵室両舷側の窓から顔を出すなどして船首方向の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、未熟のほっき貝放流指定海域の確認に気を取られ、船首を左右に振ったり、操舵室両舷側の窓から顔を出すなどして船首方向の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、幸栄丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船首部ブルワークに破損を生じさせたほか、幸栄丸の右舷船首部ブルワークの破損及び船首かんぬきの折損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、北海道苫小牧港西方沖合において、わずかな行きあしでほっき貝けた網をえい網しながら後退する場合、接近してくる他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、ほっき貝の選別に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錦星丸の接近に気付かず、早期にえい網を中止して後退行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとらなかったために同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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