日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成11年長審第31号
    件名
油送船第二輝隆丸油送船鶴宏丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年11月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、原清澄、保田稔
    理事官
畑中美秀

    受審人
A 職名:第二輝隆丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
輝隆丸・・・左舷船首部外板に凹損、右舷船首部外板に凹損及び擦過傷等
鶴宏丸・・・右舷船尾部ハンドレールに曲損等、桟橋先端のドルフィンの防舷材等が破損

    原因
輝隆丸・・・操船不適切

    主文
本件衝突は、第二輝隆丸が、入航時の操船が不適切で、過大な行きあしのまま、隣接桟橋に係留中の鶴宏丸に著しく接近したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月18日11時10分
熊本県八代港
2 船舶の要目

船種船名 油送船第二輝隆丸 油送船鶴宏丸
総トン数 699トン 699トン
全長 74.50メートル 70.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット 735キロワット

3 事実の経過
第二輝隆丸(以下「輝隆丸」という。)は、航行区域を限定沿海区域とする船尾船橋型鋼製油送船で、A受審人ほか7人が乗り組み、石油製品約2,020キロリットルを積載し、船首3.70メートル船尾5.20メートルの喫水をもって、平成9年12月17日12時15分山口県宇部港を発し、熊本県八代港港奥の石油配分基地に向かった。
翌18日08時40分ごろA受審人は、熊本県三角ノ瀬戸の手前で一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、機関長を船橋での機関操作に就け、自ら手動操舵に当たり、同瀬戸を経由して八代港港内に至り、10時36分小築島を右舷側250メートルばかりに航過したのち、機関を11.0ノットの全速力前進にかけて掘り下げ水路を北上した。
10時56分A受審人は、大島83メートル頂三角点(以下「大島三角点」という。)から301度(真方位、以下同じ。)1,230メートルの地点に達したとき、右舷前方に先導船を認めたので、入港配置を令するとともに機関を8.0ノットの半速力に減じ、右転して北防砂堤突端と南防砂堤突端との間に向け、同時59分大島三角点から327度1,000メートルの地点に達したとき、針路を両防砂堤間の幅員約115メールの狭い水路に沿う118度に定め、機関を5.0ノットの極微速力前進に減じ、同水路中央を同船に先導されながら進行した。

ところで、石油配分基地には、大島三角点から106度830メートルのところを岸壁基点とし、これから293度方向に340メートル延びる岸壁の、同基点から90メートル、165メートル及び240メートルのところに、いずれも同岸壁から006度の方向に延びる長さ124メートル、124メートル及び100メートルの桟橋が設置されており、同基点寄りの桟橋東側が出光興産株式会社八代油槽所の専用桟橋(以下「出光興産桟橋」という。)で、輝隆丸は、中央の桟橋東側の昭和シェル石油株式会社の専用桟橋(以下「昭和シェル桟橋」という。)に入船右舷付けで着桟する予定であった。
11時05分半わずか過ぎA受審人は、大島三角点から044度500メートルの地点に達したとき、針路を128度に転じ、機関を停止して惰力で続航し、同時07分半わずか過ぎ同三角点から071度600メートルの地点に達し、行きあしが約4.0ノットとなったとき、船首が昭和シェル桟橋先端のドルフィンまで約200メートルに接近し、周囲に防砂堤や桟橋がある狭い水域内で、大角度に右転しなければならない状況となったが、より行きあしがあった方が回頭しやすいものと思い、旋回半径が小さくなるよう、機関を後進にかけていったん行きあしを止めたのち、機関を小刻みに使用して舵を効かせるなどの適切な操船を行うことなく、機関を5.0ノットの極微速力前進にかけて進行した。

11時08分少し過ぎA受審人は、船首が右舷側約140メートル隔てて昭和シェル桟橋先端のドルフィンに並んだころ、機関を停止して、右舵一杯としたものの、行きあしが過大で旋回径が大きくなり、出光興産桟橋先端のドルフィンに著しく接近する態勢となり、同時09分約4.0ノットの行きあしとなって船首が同ドルフィンまで約70メートルに接近したので、慌てて機関を全速力後進にかけたが、効なく、11時10分大島三角点から097度750メートルの地点において、ほぼ156度に向首した輝隆丸の船首が約1.0ノットの残速力をもって、出光興産桟橋に入船右舷付けで係留中の鶴宏丸の右舷船尾部に後方から約30度の角度で衝突すると同時に、輝隆丸の右舷船首部が同桟橋先端のドルフィンの北東角に衝突した。
当時、天候は曇で風力1の東北東風が吹き、潮候はほぼ高潮時で、視界は良好であった。

また、鶴宏丸は、航行区域を沿海区域とする船尾船橋型鋼製油送船で、船長Bほか6人が乗り組み、同月18日08時05分出光興産桟橋に船首を186度に向けて係留し、10時45分石油製品の揚荷を全て終え、船首1.20メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、乗組員が出港配置に就き、係留索を取った状態で、輝隆丸が昭和シェル桟橋に着桟するのを待っていたところ、同船が急に接近してきたので、急ぎ船尾索を伸ばしたが、効なく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、輝隆丸は、左舷船首部外板に凹損、右舷船首部外板に凹損及び擦過傷等を、鶴宏丸は、右舷船尾部ハンドレールに曲損等を生じ、出光興産桟橋先端のドルフィンの防舷材等が破損したが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、熊本県八代港港奥の石油配分基地において、輝隆丸が、昭和シェル桟橋に向けて進行する際、操船不適切で、過大な行きあしのまま、隣接する出光興産桟橋に入船右舷付けで係留中の鶴宏丸に著しく接近したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、熊本県八代港港奥の石油配分基地において、昭和シェル桟橋に向けて進行する場合、周囲に防砂堤や桟橋がある狭い水域内で大角度に右転しなければならなかったから、旋回半径が小さくなるよう、同桟橋手前で機関を後進にかけていったん行きあしを止めたのち、機関を小刻みに使用して舵を効かせるなどの適切な操船を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、より行きあしがあった方が回頭しやすいものと思い、適切な操船を行わなかった職務上の過失により、過大な行きあしのまま進行し、同桟橋東隣の出光興産桟橋に入船右舷付けで係留中の鶴宏丸に著しく接近して衝突を招き、輝隆丸の左舷船首部外板に凹損、右舷船首部外板に凹損及び擦過傷等を、鶴宏丸の右舷船尾部ハンドレールに曲損等を生じさせたほか、出光興産桟橋先端のドルフィンの防舷材等を破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION