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1999年(平成11年)

平成11年門審第66号
    件名
旅客船祥光桟橋衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年11月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

清水正男、阿部能正、西山烝一
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:祥光船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
祥光・・・右舷船首ブルワークに凹損
桟橋・・・北東端の杭頂部のモニュメントに損傷

    原因
行きあしの減殺措置不十分

    主文
本件桟橋衝突は、行きあしの減殺措置が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月7日09時20分
関門港
2 船舶の要目

船種船名 旅客船祥光
総トン数 189トン
全長 31.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 3,677キロワット

3 事実の経過
祥光は、平素、愛媛県松山港と広島県呉港及び広島港間の旅客定期航路に就航する発動機及びウォータージェット推進装置各2基を備えた軽合金製双胴高速旅客船で、A受審人ほか6人が乗り組み、定期便運航の合間を利用して関門港から松山港への臨時便を運航する目的で、船首1.8メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成10年11月7日06時10分松山港を発し、関門港門司区の西海岸3号さん橋(以下「3号桟橋」という。)に向かった。
ところで、門司区の西海岸ふ頭1号岸壁の北東側には門司第6船だまり(以下「第6船だまり」という。)があり、同岸壁の北東端から053度(真方位、以下同じ。)方向に延びる長さ230メートルの門司西海岸五号防波堤と、門司埼灯台から186度1,750メートルの地点に当たる岸壁から324度方向へ延びる長さ80メートルの門司第1船だまり防波堤の南端部分とによって、幅110メートルの出入口が形成され、第6船だまり内の南東側岸壁に3号桟橋が設置されていた。

3号桟橋は、北九州市が建設した旅客船用浮桟橋で、関門港と松山港を結ぶ定期航路の旅客船、関門港内の門司区と下関区を結ぶ渡船などが利用し、門司埼灯台から187度1,790メートルの地点に当たる岸壁から第6船だまりの出入口のほぼ中央に向かって323度方向に突き出た形で設置され、岸壁から18メートル離れた位置に長さ40メートル、幅13メートルの桟橋本体の箱形浮体があり、その4隅を海底に打ち込まれた4本のコンクリート製杭が囲み、同浮体の4隅に取り付けられたローラーが各杭の側面に接して前後左右を固定し、潮汐の高低によって上下に可動するようになっており、長さ22メートルの連絡橋で岸壁とつながっていた。4本の杭は、平均水面上の高さ約4.7メートルで、それぞれの頂部に高さ約0.7メートルの金属製のモニュメントが取り付けられていた。
また、A受審人は、平成6年4月に祥光の船長として乗船以来、同船の定期航路の運航に従事し、一方、関門港と松山港間の定期航路に就航している僚船の代船として、祥光で過去2回3号桟橋に着桟した経験があった。

A受審人は、発航から操船に当たり、伊予灘、周防灘を経由して関門海峡東口に至り、関門航路を西航し、早靹瀬戸を通過中に火ノ山下潮流信号所の電光板の表示が西流5ノットであることを認め、09時16分門司埼灯台から310度390メートルの地点において、針路を同航路に沿う220度に定め、機関を全速力より少し下げた回転数毎分1,700の前進にかけ29.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により進行した。
09時17分半少し前A受審人は、門司埼灯台から238度1,300メートルの地点に達したとき、入港部署を令し、船橋に機関長及び機関員、船首に一等機関士、船尾に甲板長をそれぞれ配置し、自らは右舷側のウイングに設置された遠隔操縦装置の位置に移動し、操縦権を同装置に切り替えて操船に当たり、第6船だまりの出入口に向かって徐々に左転を開始した。

A受審人は、09時18分少し過ぎ門司西海岸五号防波堤先端に設置された門司西海岸五号防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から、312度530メートルの地点に達したとき、機関を回転数毎分1,500として20.0ノットの速力に減じ、同時19分少し前同900として10.0ノットの速力に減じて続航した。
09時19分少し過ぎA受審人は、防波堤灯台から005度130メートルの地点に至り、3号桟橋東側中央部の着桟予定地点まで距離200メートルとなったが、同桟橋に過去2回無難に着桟できたことから同じような速力逓減方法をとれば大丈夫と思い、着桟時の状況に応じて適切な操船を行えるよう、行きあしを十分に減殺することなく、針路を3号桟橋と門司第1船だまり防波堤の南端部分との中間に向かう144度に転じ、同じ速力のまま進行した。
A受審人は、09時19分半わずか前防波堤灯台に並航する手前に達したとき、予定針路線より左方に偏位していることを認め、針路を3号桟橋の岸壁付け根付近に向けようとして右転したところ、船首が予定転針角度を越えて右方に振れ、同桟橋北東端の杭に向首したので、船首を左に回頭させるため急いで操縦ハンドルを操作したものの、過大な速力のまま同杭に接近することを知り、左回頭を待たずに直ちに操作ハンドルのステアリングレバーを中立、ジョイステックレバーを下方に倒して全速力後進の操作を行ったが及ばず、09時20分防波堤灯台から105度100メートルの地点において、祥光は、船首が155度を向き、わずかな行きあしとなったとき、その右舷船首が3号桟橋北東端の杭頂部のモニュメントに衝突した。

当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であり、第6船だまりの出入口付近には南西方向に流れるわずかな潮流があった。
桟橋衝突の結果、祥光は右舷船首ブルワークに凹損を生じ、3号桟橋北東端の杭頂部のモニュメントに損傷を生じたが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件桟橋衝突は、関門港において、第6船だまり内の3号桟橋に着桟の目的で接近する際、行きあしの減殺措置が不十分で、同桟橋北東端の杭に著しく接近したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、関門港において、第6船だまり内の3号桟橋に着桟の目的で接近する場合、着桟時の状況に応じて適切な操船が行えるよう、行きあしを十分に減殺すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同桟橋に過去2回無難に着桟できたことから同じような速力逓減方法をとれば大丈夫と思い、行きあしを十分に減殺しなかった職務上の過失により、過大な速力のまま同桟橋北東端の杭に著しく接近して衝突を招き、祥光の右舷船首ブルワークに凹損を、同杭頂部のモニュメントに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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