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1999年(平成11年)

平成11年横審第48号
    件名
貨物船新安芸津丸プレジャーボートダック衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年10月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

猪俣貞稔、長浜義昭、西村敏和
    理事官
関隆彰

    受審人
A 職名:新安芸津丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:新安芸津丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:ダック船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
新安芸津丸・・・右舷側中央部外板に擦過傷
ダック・・・・・船首部を圧壊

    原因
新安芸津丸・・・横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
ダック・・・・・見張り不十分、音響信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、新安芸津丸が、前路を左方に横切るダックの進路を避けなかったことによって発生したが、ダックが、見張り不十分で、有効な音響信号による警告の措置をとらず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月12日18時15分
千葉県洲埼南西方沖合
2 船舶の要目

船種船名 貨物船新安芸津丸 プレジャーボートダック
総トン数 431トン
登録長 8.82メートル
全長 69.69メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット 17キロワット

3 事実の経過
新安芸津丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A、B両受審人ほか3人が乗り組み、スクラップ957トンを積載し、船首2.80メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、平成10年8月11日18時20分塩釜港仙台区を発し、水島港に向かった。
A受審人は、船橋当直を自らとB受審人及び甲板長の3人による単独4時間交替の3直制とし、自らは8時から12時までの当直に就き、他の同当直者には針路線、主要通過地点の航過距離、見張りの要領及び気象変化時の報告要領などの指示を与えて運航の指揮に当たっていた。
翌12日16時00分B受審人は、野島埼灯台の東方10海里ばかりのところで、前直の甲板長から船橋当直を引き継ぎ、17時02分同灯台から180度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点において、針路を270度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。

18時05分B受審人は、洲埼灯台から206度8海里の地点に達したとき、右舷船首30度1.9海里のところに、メンスルを展帆して南下中のダックを認め、同時10分同灯台から212度8.5海里の地点に至り、同船の方位が変わらないまま1海里に接近し、前路を左方に横切り衝突のおそれが生じていたが、帆走中との思いも重なって、そのうち替わるであろうと軽く考え、同船の進路を避けずに漫然と続航中、18時15分洲埼灯台から217度9.1海里の地点において、新安芸津丸は、同針路、同速力のまま、その右舷側中央部に、ダックの船首が後方から72度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上は平穏であった。
また、ダックは、製造者型式がオセアニス320と呼称される、最大搭載人員12人のFRP製プレジャーヨットで、C受審人が一人で乗り組み、最深部1.4メートルの喫水をもって、同月12日12時00分京浜港横浜区の横浜ベイサイドマリーナを発し、三宅島に向かった。

C受審人は、メンスルを展帆したうえ、機関を併用し、浦賀水道を経て、16時00分洲崎灯台から322度3.6海里の地点において、折からの南西風を利用し、メンスルを右舷開きとして198度の針路とし、円すい形形象物を掲げないまま、引き続き機関をほぼ全速力の毎分2,200回転にかけ、5.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
17時55分C受審人は、洲崎灯台から221度7.5海里の地点に達したとき、自動操舵に切り替えて食事の準備をすることとしたが、周囲の状況を十分に確かめずにコックピットを離れたので、そのころ左舷船首78度3.3海里のところに新安芸津丸が存在していることに気付かないまま、少しの間なら大丈夫と思い、見張りを行わずにキャビンに入って食事の準備に掛かった。
こうしてダックは、全く見張りが行われないまま、同針路、同速力で続航中、18時05分洲崎灯台から219度8.2海里の地点に至ったとき、新安芸津丸を方位が変わらないまま1.9海里のところに認めることができる状況になり、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していたが、このことに気付かず、備え付けの有効な音響信号による警告の措置をとらず、更に間近に接近した際、衝突を避けるための協力動作もとらないまま進行し、前示のとおり衝突した。

C受審人は、キャビン内で食事の準備中、衝撃を感じ、コックピットに戻り、事後の措置に当たった。
衝突の結果、新安芸津丸は右舷側中央外板に擦過傷を生じたのみであったが、ダックは船首部を圧壊し、のち修理された。


(原因)
本件衝突は、千葉県洲埼南西方沖合において、新安芸津丸及びダックの両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、西航する新安芸津丸が、前路を左方に横切るダックの進路を避けなかったことによって発生したが、機帆走で南下するダックが、見張り不十分で、有効な音響信号による警告の措置をとらず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
B受審人は、千葉県洲崎南西方沖合を西航中、前路を左方に横切る態勢の機帆走中のダックを認め、その後衝突のおそれが生じた場合、速やかにその進路を避けるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、帆走中であるとの思いも重なって、そのうち替わるであろうと軽く考え、同船の進路を避けなかった職務上の過失により、そのまま進行してダックとの衝突を招き、新安芸津丸の右舷側中央部外板に擦過傷を生じ、ダックの船首部を圧壊させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
C受審人は、一人でクルージングに出かけ、千葉県洲埼南西方沖合を機帆走で南下する場合、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、少しの間なら大丈夫と思い、コックピットから離れて食事の準備に掛かり、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で、避航措置をとらずに接近する新安芸津丸に気付かず、有効な音響信号による警告の措置も、協力動作もとらないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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