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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年8月25日08時30分 青森県八戸漁港(鮫) 2 船舶の要目 船種船名 漁船第五十一共徳丸 漁船第十二両合丸 総トン数 302トン 290トン 全長
48.60メートル 登録長 44.65メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 970キロワット
1,176キロワット 3 事実の経過 第五十一共徳丸(以下「共徳丸」という。)は、大中型まき網漁業に従事する船尾船橋型の鋼製漁獲物運搬船で、船長Bほか8人が乗り組み、水揚げの目的で、船首1.7メートル船尾4.4メートルの喫水をもって、平成10年8月25日05時00分青森県八戸漁港(鮫)(以下「鮫漁港」という。)港奥のマイナス5メートル岸壁(以下「港奥岸壁」という。)に船首を112度(真方位、以下同じ。)に向けて右舷着けし、07時30分から水揚げを開始した。 08時26分水揚げ作業中のB船長は、左舷正横約120メートルのところに、自船の前方の岸壁に着岸しようとして接近する同業種船の第十二両合丸(以下「両合丸」という。)を認め、同時27分半同船が約100メートルに接近したとき左転を始めたので、そのまま左回頭しながら同岸壁に進むものと思いながら眺めていたところ、同時30分わずか前同船が機関を後進操作している様子を認めたものの、自船に向けて急速に接近する状況となり、衝突の危険を感じたが、何らなすすべもなく、08時30分八戸港白銀西防波堤東灯台(以下「西防波堤東灯台」という。)から156.5度950メートルの地点において、両合丸の船首が、共徳丸の左舷中央部に後方から38度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。 また、両合丸は、大中型まき網漁業に従事する船尾船橋型のバウスラスターを備えた鋼製漁獲物運搬船で、A受審人ほか7人が乗り組み、鮫角灯台から032度7.7海里の地点の漁場でさば約40トンを積み、水揚げの目的で、船首2.5メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、同月25日04時00分同地点を発進し、鮫漁港に向かった。 A受審人は、04時46分西防波堤東灯台から332度960メートルの地点において、針路を八戸港東航路に向く147度に定め、機関を最低回転にあたる微速力前進にかけて6.0ノットの速力で進行した。 A受審人は、八戸漁業協同組合から着岸場所の指示を受けるまで鮫漁港港内に投錨仮泊することとし、04時51分八戸港東航路に入航して西防波堤東灯台に並航したとき、針路を同漁港港口に向かう130度に転じるとともに機関を一旦停止し、その後適宜機関の発停を繰り返しながら続航して同漁港に入港し、05時00分同灯台から129.5度780メートルの地点に投錨した。 08時00分A受審人は、港奥岸壁西側に着岸して水揚げ中の共徳丸の東側に着岸の指示を受け、乗組員を転錨及び右舷横着け着岸配置に就かせ、同時17分揚錨を終えて発進し、針路を同岸壁にほぼ直角の218度に定め、機関を微速力前進にかけては停止することを繰り返しながら、平均1.15ノットの速力の惰力で進行した。 08時27分半A受審人は、船首が水揚げ作業中の共徳丸が係留している港奥岸壁にほぼ直角で約100メートルの地点に達したとき、左舵一杯にとって左回頭を開始したが、前進惰力のままで十分に回頭ができるものと思い、回頭開始時に機関を短時間微速力前進にかけるなり、バウスラスターを有効に活用するなりして大角度の回頭措置を講じることなく、依然惰力で進行しながら回頭状況を見守っていたところ、舵効が現れ始めたものの必要な回頭力が得られず、共徳丸に向首接近する態勢となったことに気づき、同時30分わずか前機関を後進にかけて行きあしを止めようとしたが間に合わず、両合丸の船首が150度を向いたとき、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、共徳丸は、左舷中央部の水面下外板を凹損したが、のちに修理され、両合丸は、球状船首に擦過傷を生じた。
(原因) 本件衝突は、青森県鮫漁港において、両合丸が、水揚げ岸壁に右舷横着けするため、機関の発停を繰り返しながら同岸壁に近づいて大角度の左回頭を行う際、回頭措置不十分で、必要な回頭力が得られず、同岸壁係留中の共徳丸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、青森県鮫漁港において、水揚げ岸壁に右舷横着けするため、機関の発停を繰り返しながら同岸壁に近づいて大角度の左回頭を行う場合、回頭開始時に機関を短時間微速力前進にかけるなり、バウスラスターを有効に活用するなりして大角度の回頭措置を講じるべき注意義務があった。ところが、同人は、機関をかけずに惰力で続航したままでも十分に回頭ができるものと思い、大角度の回頭措置を講じなかった職務上の過失により、惰力で進行したまま左舵一杯にとったものの必要な回頭力が得られず、船首方の水揚げ岸壁に係留して水揚げを行っていた共徳丸に向首進行して同船との衝突を招き、共徳丸の左舷中央部の水面下外板に凹損及び両合丸の球状船首に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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