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1999年(平成11年)

平成11年仙審第42号
    件名
貨物船菱山丸漁船第11漁栄丸衝突事件(簡易)

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年10月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄
    理事官
宮川尚一

    受審人
A 職名:菱山丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第11漁栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
菱山丸・・・右舷船尾外板に凹損
漁栄丸・・・船首部に損傷

    原因
漁栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、入航中の漁栄丸が、見張り不十分で、港内で錨泊中の菱山丸を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年1月16日01時00分
青森県八戸港港内
2 船舶の要目

船種船名 貨物船菱山丸 漁船第11漁栄丸
総トン数 1,658トン 14.98トン
全長 98.52メートル
登録長 14.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,574キロワット 264キロワット

3 事実の経過
菱山丸は、船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか8人が乗り組み、空倉のまま、船首2.10メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、平成11年1月14日16時50分京浜港東京区を発し、青森県八戸港に向かった。
翌15日22時50分A受審人は、2、3隻の船舶が錨泊中の八戸港第3区内に至り、八戸港八太郎北防波堤灯台(以下航路標識の名称のうち「八戸港」の冠称を略する。)から111度(真方位、以下同じ。)800メートルの地点で、明朝着岸の予定で左舷錨を投じて錨鎖4節を延出し、錨泊灯、船首尾マスト及び船橋コンパス甲板上に各2個の500ワットの作業灯並びにファンネル照明灯及び通路灯をそれぞれ点灯して錨泊を開始した。その後、引き続き在橋して守錨当直を兼ねて急ぎの書類作成に当たった。
こうして、A受審人は、折からの西寄りの風の影響を受けて西方を向いた状態で錨泊中、時折周囲の見張りを行っていたところ、翌16日00時56分港口の外港中央防波堤北灯台付近に入航してくる第11漁栄丸(以下「漁栄丸」という。)の多数の明るい灯火を初めて視認したが、先に入航した漁船が水揚げのために港奥の八戸漁港市場に向けて自船の船尾方を替わっていったので、漁栄丸も同様に入航するものと考え、再び海図台に向かって書類の作成中、01時00分前示錨泊地点において、菱山丸は、290度を向首していたとき、同船の右舷側後部に、漁栄丸の船首が、前方から70度の角度で衝突した。

当時、天候は晴で風力3の西南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
また、漁栄丸は、操舵室内後部上段にレーダーや魚群探知機、及び同下段にベッドやテレビ受像機などをそれぞれ備えた鋼製漁船で、B受審人ほか4人が乗り組み、底びき網漁業の目的で、船首1.8メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、同月14日01時15分八戸漁港を発し、同県むつ小川原港沖の漁場に向かい、陸奥塩釜沖で一旦漂泊して休息をとったのち、同日早朝同漁場に至り操業を開始した。
B受審人は、漁場が八戸漁港から近くまた僚船からの漁況を聴取する必要から単独で船橋当直に当たり、適宜操業中に休息をとりながら徐々に漁場を南に移して操業を続け、翌15日23時30分ごろ鮫角灯台の北方11海里のところで操業を打ち切り、同時40分帰途に就いた。
翌16日00時34分半B受審人は、鮫角灯台から334度4.8海里の地点で、針路を八戸港港口に向首する180度に定め、機関を全速力前進にかけて8.2ノットの速力で自動操舵により進行した。

定針後まもなく、B受審人は、3海里レンジにしたレーダーで前方を見張ったところ、八戸港港外には普段見かけていた錨泊船など他船の映像を認めなかったので、しばらくの間そのまま自動操舵で進行することにした。そして、テレビのスイッチを入れたところ、たまたま好きな洋画が放映中で、床上に座り込んでコーヒーを飲みながらこれに目を向けているうちに映画に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった。
こうして、00時56分B受審人は、外港中央防波堤北灯台に並航して港口に達したとき、ほぼ正船首1,000メートルのところに錨泊中の菱山丸の明るい灯火を多数視認することができ、その後衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、依然として放映中の洋画に気を取られて見張りを行わなかったので、これに気付かず、同船を避けないまま続航し、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、菱山丸は右舷船尾外板に凹損を、また漁栄丸は船首部に損傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、八戸港内において、入航中の漁栄丸が、見張りが不十分で、錨泊中の菱山丸を避けなかったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
B受審人は、夜間、八戸港沖合漁場での操業を終えて帰航する際、単独で当直にあたる場合、八戸港港内で錨泊中の菱山丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、定針して間もなく同港港口付近に錨泊船など他船のレーダー映像を認めなかったので、その後操舵を自動にしたまま放映中のテレビに気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、港口に達したことも港内で錨泊中の菱山丸に向首していることにも気付かず、そのまま進行して、同船との衝突を招き、菱山丸の右舷船尾外板に凹損及び漁栄丸の船首部に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


参考図






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