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1999年(平成11年)

平成11年仙審第38号
    件名
油送船第八十六日宝丸漁船第十八久栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年10月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄、長谷川峯清、内山欽郎
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:第十八久栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
日宝丸・・・右舷外板中央部に破口を伴う凹損及び右舷側ハンドレールの折損
久栄丸・・・船首ブルワークに曲損及びバルバスバウに亀裂を伴う凹損

    原因
久栄丸・・・居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件衝突は、航行中の第十八久栄丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中の第八十六日宝丸を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月18日05時30分
新潟県新潟港
2 船舶の要目

船種船名 油送船第八十六日宝丸 漁船第十八久栄丸
総トン数 699トン 19トン
全長 74.55メートル 19.12メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,250キロワット 478キロワット

3 事実の経過
第八十六日宝丸(以下「日宝丸」という。)は、船尾船橋型油送船で、船長B及び甲板長Cほか6人が乗り組み、空倉のまま、船首1.58メートル船尾3.58メートルの喫水をもって、平成10年5月16日15時20分福井県福井港を発し、新潟港に向かった。
翌17日08時20分B船長は、新潟港西区沖合に錨泊中の大型フェリーの北方0.6海里のところに至り、二日後の19日着桟の予定で、新潟港西区西突堤灯台から261度(真方位、以下同じ。)2,740メートルの地点に右舷錨を投じて錨泊した。
そこで、B船長は、航海当直に準じて4時間3直制の昼間のみの錨泊当直体制を採り、各当直者に対して船位及び錨泊船間の距離を確かめるなどして自船及び他船の走錨に注意すること、更に異常を認めた際には速やかに報告することなどの錨泊当直に関する指示を与えた。
こうして、翌18日04時C甲板長は、日出前の薄明時から単独で錨泊当直に就き、05時ごろ錨泊灯などを消灯して船首部に黒球を掲げ、折から弱い南寄りの風の影響を受けてほぼ163度を向首した状態で錨泊当直中、同時13分少し前右舷正横2海里のところに第十八久栄丸(以下「久栄丸」という。)及びその北側近距離に同船の僚船1隻を初めて視認し、その後衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めた。

05時27分半C甲板長は、久栄丸及び僚船が約700メートルに接近したとき、先航する僚船が転針して自船の船首方を替わる態勢となったのを認めたので、続いて久栄丸も同様に転針するものと思い、引き続いてその動静を監視していたところ、その気配が認められず、同時28分少し過ぎ衝突の危険を感じて久栄丸に対して避航を促すために警告信号を繰り返し行ったが効なく、05時30分前示錨泊地点において、日宝丸は、163度を向首したまま、同船の右舷外板中央部に、久栄丸の船首が、ほぼ90度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の南風が吹き、視界は良好であった。
B船長は、自室で休息中のところ、自船が発する警告信号を聞き、舷窓から外を見て久栄丸が自船に衝突したことを知り、急いで昇橋して事後の措置にあたった。
また、久栄丸は、いか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか甲板員2人が乗り組み、僚船1隻と共に同年5月初旬北海道羅臼港を出航して同月12日操業基地の山形県酒田港に入航して漁期の開けるのを待った。

ところで、A受審人は、平素から自らが単独で船橋当直を行うようにし、水揚げ後に3、4時間の睡眠と操業中に短時間ながらも仮眠をとるようにして、当直経験のない甲板員2人を操業に専念させていた。
こうして、久栄丸は、同月15日酒田港を出航して新潟県佐渡島北方海域で操業を行い、翌16日朝帰港して休息後、同日正午再び操業の目的で、船首0.9メートル船尾2.5メートルの喫水をもって僚船と共に同港を発し、探索しながら同島南側沖に至って操業を始めた。
翌々18日01時30分A受審人は、ほとんど漁獲のないまま操業を打ち切って僚船と共に最寄りの新潟港に向かうことにし、鴻瀬鼻灯台から187度6海里の地点で、針路を073度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて7ノットの速力で進行した。
発航後、A受審人は、時折左舷前方近距離のところを先航する僚船と無線電話で交信し、レーダーを作動しながらいすに腰掛けた姿勢で船橋当直に当たっていたところ、操業中に約2時間ほどの仮眠をとっただけであったので、04時ごろから次第に眠気を催すようになり、しばしば意識が薄れ慌てて意識を取り直す状況となったが、帰港すれば休息をとれるので、そのまま当直を続けようと思い、漁場発航から休息中の甲板員を呼び起こして見張りの補助に当たらせるなどの居眠り運航の防止措置をとらず、操舵室を密閉した状態でいすに腰掛けたままの姿勢で当直を続けた。

04時38分半A受審人は、前方6海里に日宝丸のレーダー映像を認め、その後05時13分少し前正船首2海里に日宝丸を認めるようになり、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、依然として何等の居眠り運航の防止措置もとらないまま、引き続き同じ姿勢で当直にあたっているうちに居眠りに陥り、日宝丸から発せられた汽笛による警告信号にも気付かず、同船を避けないまま続航中、05時30分少し前偶然目覚めて船首至近に迫った日宝丸に気付き、驚いて機関を後進に切り換えたが及ばず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、日宝丸は右舷外板中央部に破口を伴う凹損及び右舷側ハンドレールの折損を、また久栄丸は船首ブルワークに曲損及びバルバスバウに亀裂を伴う凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、新潟港港外において、航行中の久栄丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、眠気状態の船橋当直者による単独当直が続けられ、錨泊中の日宝丸を避けなかったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、佐渡島南側沖での二日間にわたる操業を終えて最寄りの新潟港に向けて帰航する際、単独で当直中に休息不足で眠気を催すようになった場合、その後しばしば意識が薄れ慌てて意識を取り直すような状況にもなったのであるから、居眠り運航に陥らないよう、休息中の甲板員を呼び起こして見張りの補助に当たらせるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、帰港すれば休息をとれるのでそのまま当直を続けようと思い、休息中の甲板員を起こして見張りの補助に当たらせるなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、そのまま単独で当直を続けているうちに居眠りに陥り、前路で錨泊中の日宝丸を避けないまま進行して、同船との衝突を招き、日宝丸の右舷外板中央部に破口を伴う凹損及び右舷側ハンドレールの折損、並びに久栄丸の船首ブルワークに曲損及びバルバスバウに亀裂を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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