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1999年(平成11年)

平成11年仙審第26号
    件名
漁船第七栄漁丸漁船功丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年10月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄、上野延之、長谷川峯清
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:第七栄漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:功丸船長 海技:免状一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
栄漁丸・・・右舷船首外板に亀裂を伴う破損
功丸・・・船首に破損、功丸船長が、頚髄損傷

    原因
栄漁丸・・・見張り不十分、行合いの航法(避航動作)不遵守
功丸・・・・見張り不十分、行合いの航法(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、両船がほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあるとき、第七栄漁丸が、見張りが不十分で、針路を右に転じなかったことと、功丸が、見張りが不十分で、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月20日16時10分
金華山東方沖合
2 船舶の要目

船種船名 漁船第七栄漁丸 漁船功丸
総トン数 19トン 6.63トン
全長 25.10メートル
登録長 11.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 573キロワット 33キロワット

3 事実の経過
第七栄漁丸(以下「栄漁丸」という。)は、コンパスとして磁気コンパスのみを備えたFRP製漁船で、A受審人ほか3人が乗り組み、いか一本釣り1泊操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水で、平成10年9月20日14時00分宮城県石巻港を発し、同県網地島長渡港で更に1人を乗せて金華山東方20海里沖合の漁場に向かった。
発航後、A受審人は、単独で船橋当直に当たり、15時24分金華山灯台から212度(真方位、以下同じ。)0.8海里の地点で、針路を084度に定め、機関を全速力前進にかけて12.0ノットの対地速力(以下速力は対地速力である。)で自動操舵により進行した。
ところで、A受審人は、金華山沖合漁場に向かう際に、同沖が船舶の往来の多いところで、特に三陸沿岸沿いを南北方向に航行する船舶の進路を横切る状況となり、また発航時から霧模様で視界が多少妨げられた状況でもあったので、適宜レーダー監視により同航行船の有無を確かめ、それが2海里に接近したところで目視によりその動静を監視するようにしていた。

ところが、16時04分少し過ぎA受審人は、船首少し右2海里にほとんど真向かいに行き会う態勢の功丸を視認することができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で互いに接近するのを知り得る状況であったが、レーダー感度を下げて沖合からのうねりなどの海面状態の影響を減じ、左右舷方から接近する航行船に対してのレーダー監視に留意していたものの、沖合漁場から帰航する漁船などの針路と自船のそれとがほとんど交差する状況とはならず、また、まさか船首方向から接近する漁船を見落とすことはあるまいと思い、船首方に対する見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、針路を右に転じないまま続航中、レーダーから目を離して一服後の同時10分少し前再び周囲を監視するためにレーダーを覗き、その直後に前方を見上げたところ、船首至近に迫った同船を初めて認めたが、どうする間もなく、16時10分金華山灯台から088度8.7海里の地点において、栄漁丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首が功丸の右舷船首にほぼ真向かいの態勢で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の南東風が吹き、視界は3海里であった。
また、功丸は、かつお曳き縄魚業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾2.0メートルの喫水で、同日01時30分福島県小名浜港を発し、同県相馬港から金華山にかけての沖合漁場で操業を続けた。
14時10分B受審人は、北緯38度17.6分東経142度07分の地点で操業を打ち切り、休養をとる目的で、同時13分針路を267度に定めて同地点を発し、機関を半速力前進にかけて8.5ノットの速力で自動操舵により最寄りの宮城県鮎川港に向かった。
発航後、B受審人は、いすに腰掛けた姿勢で当直に当たり、操舵室からの前方の見通しが前部甲板上の煙突及びマストなどの構築物により一部妨げられた状況であったので、時折操舵室天井に設けられた天窓から更に操舵室外に出るなどして専ら目視による見張りを行いながら当直を続けた。

16時00分B受審人は、金華山東方10海里に差しかかったころ、GPSによる船位を測得して金華山の島陰を視認することができる距離に達したことを知って天窓から前方を見張ったが、折から金華山付近が霧模様でその島陰を視認するまでに至らず、さらに操舵室右舷側外に出た際にも周囲に他船を認めなかった。
ところが、16時04分少し過ぎB受審人は、船首少し左2海里にほとんど真向かいに行き会う態勢の栄漁丸を視認することができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で互いに接近するのを知り得る状況であったが、島陰を確かめた際に周囲に他船が見当らなかったので、付近には他船がいないものと思い、前方に対する見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、針路を右に転じないまま進行中、同時10分少し前船尾に移動して小用後に船首方を振り向いたとき、船首至近に迫った栄漁丸を初めて認めたが、どうする間もなく、功丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。

衝突の結果、栄漁丸は右舷船首外板に亀裂を伴う破損を生じ、功丸は船首に破損を生じたが、のちいずれも修理された。なお、B受審人は、衝突の衝撃で転倒して頚髄損傷を負い、入院治療したが完治せず、引き続き通院加療した。

(原因)
本件衝突は、金華山東方沖合において、両船がほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあるとき、栄漁丸が、見張りが不十分で、針路を右に転じなかったことと、功丸が、見張りが不十分で、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、金華山の東方沖合漁場に向かう際、単独で船橋当直にあたる場合、金華山沖合は船舶の往来の多いところであり、霧模様で視界が多少妨げられた状況でもあったから、ほとんど真向かいに行き会う態勢で互いに接近する状況の功丸を見落とすことのないよう、前方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、進路を横切る状況となる南北方向に航行する船舶に留意していたものの、まさか真向かいに行き会う態勢で接近する他船を見落とすことはあるまいと思い、船首方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、これに気付かず、針路を右に転じて功丸を避けないまま進行して、同船との衝突を招き、栄漁丸の右舷船首外板に亀裂を伴う破損及び自船の右舷船首部に破損を生じさせ、B受審人が頚髄損傷を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、金華山の東方沖合漁場から鮎川港に向かう際、単独で船橋当直にあたる場合、金華山沖合は船舶の往来の多いところであり、操舵室前部甲板上の煙突及びマストなどの構築物により前方に一部死角を生じた状況であったから、ほとんど真向かいに行き会う態勢で互いに接近する状況の栄漁丸を見落とすことのないよう、前方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、天窓から前路に見えてくるはずの金華山の島陰を確かめてさらに操舵室の外に出て周囲を一見した際に何も見かけなかったことから、付近に他船がいないものと思い、前方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、これに気付かず、針路を右に転じて栄漁丸を避けないまま進行して、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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