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1999年(平成11年)

平成11年仙審第17号
    件名
漁船第8太洋丸プレジャーボート高速?衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年10月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

上野延之、高橋昭雄、長谷川峯清
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:高速?船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
太洋丸・・・球状船首部に亀裂を伴う損傷
高速?・・・船首部及び中央部に損傷並びに右舷側外板に破口を伴う損傷、高速?船長が右脳内出血により身体障害者福祉法に定める2級相当の身体障害、同乗者が3週間の通院加療を要する腰椎捻挫

    原因
太洋丸・・・動静監視不十分、船員の常務(避航動乍)不遵守(主因)
高速?・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    二審請求者
受審人A

    主文
本件衝突は、第8太洋丸が、動静監視不十分で、漂泊中の高速?を避けなかったことによって発生したが、高速?が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月5日02時30分
青森県小泊港北西方沖合
2 船舶の要目

船種船名 漁船第8太洋丸 プレジャーボート高速?
総トン数 4.9トン
全長 14.835メートル 9.53メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 279キロワット 169キロワット

3 事実の経過
第8太洋丸(以下「太洋丸」という。)は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、船長B(昭和17年10月23日生、二級小型船舶操縦士(5トン限定)免状受有、受審人に指定されていたところ、平成11年8月22日死亡により指定を取り消された。)ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成10年7月5日02時17分青森県小泊港を発し、竜飛埼灯台西方13海里沖合の西津軽堆の漁場に向かった。
ところで、太洋丸は、機関の回転数が毎分1,600以上になると船首部の浮上により船首方に死角が生じ、操舵位置から前方を見たとき、正船首から左右合わせて約40度の間の水平線が見えなくなる状況であった。B船長は、船首死角を補うため、両舷の窓から顔を出して前方の見張りを行っていたものの、それでも両舷にそれぞれ正船首から9度までの範囲に死角が生じており、その船首死角を補うためには、船首を左右に振るなどして見張りをする必要があった。

B船長は、発航から所定の灯火を表示し、02時25分少し前小泊港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から032度(真方位、以下同じ。)130メートルの地点で、針路を小泊港西北西方1,800メートルに存在する黒島ノ瀬の沖合に向けて309度に定め、機関を回転数毎分1,900にかけ、11.0ノットの対地速力で、手動操舵により、乗組員に船尾甲板上で釣りの餌の支度をするよう指示して進行した。
02時27分B船長は、北防波堤波灯台から318度810メートルの地点に達したとき、操舵室左舷の窓から顔を出して左舷船首方の見張りに当たっていたところ、左舷船首約10度1,000メートルのところに所定の灯火を点灯せず、両舷灯及びデッキライトを点灯していた高速?の右舷船首方から接近する船にはデッキライトを視認できなかったものの、漂泊中の同船の緑灯1個だけを初めて認め、同灯が海面に近く、小さくて薄い色であったことから平素よく見る遠方の漁船の灯火と思い、特に気にも留めずに続航し、同時28分北防波堤灯台から315度1,160メートルの地点で、黒島ノ瀬の黒島を確認しようと針路を293度に転じたところ、正船首方680メートルのところに高速?が存在し、同船の紅、緑2灯を視認し得る状況になったが、船首死角を補うため船首を左右に振るなどして同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、その後衝突のおそれのある態勢で高速?に接近することになったものの、このことに気付かず、同船を避けないまま進行中、02時30分北防波堤灯台から307度1,800メートルの地点において、太洋丸は、原針路、原速力のまま、その船首が高速?の船首部に平行に衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、高速?は、船内外機を装備した最大搭載人員12人のFRP製プレジャーモーターボートで、A受審人が1人で乗り組み、同乗者4人を乗せ、釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、同日01時00分青森県北津軽郡にある市浦村環境整備株式会社施設の通称十三湖マリーナを発し、西津軽堆の釣り場にめばる釣りに行く前の時間待ちのために北津軽郡海岸付近の釣り場に向かった。

A受審人は、十三港南突堤灯台西南西方1海里及び小泊岬南灯台南方1海里の両地点で、漂泊して釣りを行ったが釣果がなかったことから釣り場を移動することとし、02時00分前示衝突地点に至り、同乗者2人が船首部及び他の同乗者2人が左舷船尾部及び自らがフライングブリッジにそれぞれ位置し、たい釣りをすることとして白色全周灯を消灯し、両舷灯のみを表示して機関を停止し、船首を小泊港方向の113度に向け、漂泊して釣りを始めた。
02時25分A受審人は、船尾部の同乗者がふぐを釣り上げたのでキャビン入口上側のデッキライトを点灯して獲り込みを手伝い、その後周囲を一瞥して航行する他船を認めなかったことから自船に接近する船はいないと思い、周囲の見張りを十分に行わないまま、キャビンに入って天気予報を聞きながら釣りの仕掛け造りを始めた。

02時28分A受審人は、正船首方680メートルのところに太洋丸のマスト灯及び両舷灯を認め得る状況で、その後衝突のおそれのある態勢で自船に向首して接近したが、釣りの仕掛け造りを続け、依然周囲の見張りを十分に行うことなく、これに気付かず、警告信号を行うことも、機関を前進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊中、02時30分わずか前船首部の同乗者が、船首至近に迫った太洋丸を初めて認め、同船に向けで懐中電灯を照射したが効なく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、太洋丸は、球状船首部に亀裂を伴う損傷を、高速?は、船首部及び中央部に損傷並びに右舷側外板に破口を伴う損傷をそれぞれ生じ、太洋丸により小泊港に引きつけられ、A受審人が右脳内出血により身体障害者福祉法に定める2級相当の身体障害及び同乗者Cが3週間の通院加療を要する腰椎捻挫をそれぞれ負った。


(原因)
本件衝突は、夜間、小泊港北西方沖合の黒島ノ瀬付近において、漁場に向けて航行中の太洋丸が、動静監視不十分で、漂泊中の高速?を避けなかったことによって発生したが、高速?が、見張り不十分で、警告信号を行わず、機関を前進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、小泊港北西方沖合の黒島ノ瀬付近において、漂泊して釣りをする場合、接近する太洋丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、周囲を一瞥して航行する他船を認めなかったことから自船に接近する船はいないと思い、キャビンに入って釣りの仕掛け造りを続け、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、太洋丸の接近に気付かず、警告信号を行うことも、機関を前進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けて同船との衝突を招き、太洋丸の球状船首部に亀裂を伴う損傷並びに高速?の船首部、中央部に損傷及び右舷側外板に破口を伴う損傷をそれぞれ生じさせ、同乗者に3週間の通院加療を要する腰椎捻挫を負わせ、自らは右脳内出血により身体障害を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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