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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成6年8月11日10時00分 北海道納沙布岬南東方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第六十三金剛丸 漁船第五十一幸進丸 総トン数 138トン 19.40トン 登録長
29.53メートル 16.18メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 470
140 3 事実の経過 第六十三金剛丸(以下「金剛丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか6人が乗り組み、船首1.8メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成6年7月25日08時00分石川県小木港を発し、同月27日夕刻北海道浦河港沖合の漁場に至って操業を開始し、その後魚場を移動しながら操業中、越えて8月11日06時30分納沙布岬灯台から132度(真方位、以下同じ。)16.5海里ばかりの漁場に移動して漂泊した。 漂泊したときA受審人は、霧で視界が制限されていたものの、霧中信号を行わず、航行中の動力船を示す灯火のほか、2キロワットの照明灯を前部上甲板上方に6個、後部上甲板上方に6個点灯していか釣りの準備作業を行い、06時50分昇橋して単独船橋当直に就き、3人の甲板員をいか釣り作業配置につけ、いか釣り機の釣り糸が絡まないよう、舵及び機関を適宜使用し、船首を南南西の風に立て、3海里レンジとしたレーダーで周囲に漂泊している数隻の他の同業船の映像を時折見ながら操業を再開した。 A受審人は、09時57分203度に向首しているとき、正船首700メートルのところで漂泊して操業していた第五十一幸進丸(以下「幸進丸」という。)が、漁場移動のため北東方に向け発進して自船に接近し、同時57分半、正船首630メートルとなったが、周囲にいる数隻の他の同業船のレーダー映像の方位と距離が操業再開時からほとんど変化がないので、自船に接近する他船はいないものと思い、その後レンジを最小にするなどしてレーダーによる見張りを十分に行わなかったので、自船に接近する幸進丸の映像を見落とし、同船と著しく接近することを避けることができない状況となり、その後同船の映像が自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、依然、霧中信号を行わず、舵及び機関を使用して右舷船尾方に後退するなどの衝突を避けるための措置をとることなく漂泊中、10時00分少し前、突然正船首至近に迫っている幸進丸の前部マストを認めたものの、何をする暇もなく、10時00分納沙布岬灯台から132度16.5海里の地点において、幸進丸の船首が、金剛丸の船首に真向かいに衝突した。 当時、天候は霧で風力2の南南西風が吹き、海上は平穏で視程は約200メートルであった。 また、幸進丸は、いか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、B受審人ほか2人が乗り組み、船首1.0メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成6年8月11日04時00分北海道花咲港を発し、06時00分同港南東方沖合20海里ばかりの漁場に至って操業を開始し、その後漁場を移動しながら操業中、09時57分納沙布岬灯台から132度16.5海里ばかりの漁場を発進し、北東方漁場向け移動を開始した。 発進したときB受審人は、単独船橋当直に就き、霧のため視界が制限されていたので航行中の動力船を示す灯火のほか船橋上部マストの回転灯1個と、前部上甲板上方の500ワットの集魚灯4個及び後部上甲板上方の同集魚灯2個を点灯したものの、霧中信号を行わずに24海里レンジとしたレーダーと0.5海里レンジとしたレーダーを時折見ながら魚群探知器の監視にあたり、同時57分半、針路を023度に定め、機関を全速力前進にかけ9.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 定針したときB受審人は、魚群探知器の監視に気を取られ、レーダーによる見張りを十分に行わなかったので、0.5海里レンジとしたレーダー画面船首輝線上約0.4海里のところに漂泊している金剛丸のレーダー映像を認めず、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが依然、魚群探知器の監視に気を取られ、前路に他船はいないものと思い、このことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることなく原針路、全速力のまま続航中、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、金剛丸は、船首部外板に凹損を生じ、幸進丸は、船首部ブルワークに凹損を、前部マストに曲損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、霧のため視界制限状態となった北海道納沙布岬南東方沖合において、幸進丸が、漁場移動航行中、霧中信号を行うことも安全な速力に減ずることもなく、レーダーによる見張りが不十分で、前路で漂泊していか一本釣りに従事している金剛丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが、金剛丸が、霧中信号を行わず、レーダーによる見張りが不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、霧のため視界制限状態となった北海道納沙布岬南東方沖合において、漁場移動航行する場合、前路で漂泊していか一本釣りに従事中の金剛丸のレーダー映像を見落とさないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、魚群探知器の監視に気を取られ、前路に他船はいないものと思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊している金剛丸のレーダー映像を認めず、霧中信号を行うことも安全な速力に減ずることもなく、同船と著しく接近することを避けることができない状況となっていることに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることなく進行して同船との衝突を招き、金剛丸の船首部外板に凹損を生じ、幸進丸の船首部ブルワークに凹損を、前部マストに曲損を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、霧のため視界制限状態となった北海道納沙布岬南東方沖合において、漂泊していか一本釣りに従事する場合、幸進丸のレーダー映像を見落とすことのないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、周囲にいる数隻の他の同業船のレーダー映像の方位と距離が操業再開時からほとんど変化がないので、自船に接近する他船はいないものと思い、レンジを最小にするなどしてレーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、幸進丸と著しく接近することを避けることができない状況となり、その後同船が自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、霧中信号を行わず、舵及び機関を使用して右舷船尾方に後退するなどの衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を 続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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