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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年10月14日00時30分 北海道花咲港 2 船舶の要目 船種船名 漁船第二十八大盛丸 総トン数 19トン 登録長 17.71メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 139キロワット 3 事実の経過 第二十八大盛丸(以下「大盛丸」という。)は、さんま棒受け網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか7人が乗り組み、操業の目的で、平成8年10月12日10時00分北海道花咲港を発し、羅臼港沖合の漁場に向かった。 大盛丸は、北海道根室半島の南岸沿いに東行し、同半島東方の珸瑶瑁(ごようまい)水道及びその北方の野付(のつけ)水道を通過したのち根室海峡に入り、同日17時00分羅臼港東方4海里ばかりの漁場に至って操業を開始して翌13日早朝まで操業を続けたが、漁模様が思わしくなかったので発航地の南方漁場に移動することとし、07時00分ごろ羅臼港沖合漁場を発進し、前示両水道を南下して17時00分ごろ落石岬の南方13海里ばかりの漁場に至って操業を再開し、さんま約20トンを獲て、22時10分操業を打ち切り、船首0.8メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、同時20分同漁場を発進し、帰航の途についた。 ところで、A受審人は、羅臼港沖合漁場往航時と花咲港沖合向け漁場移動航行時の船橋当直をほとんど自分1人で行い、両漁場では操業指揮及び船橋当直を漁労長に任せていたものの、自分は2夜連続の漁労作業に従事していたので、休息がとれず疲労が蓄積し、睡眠不足の状態になっていた。 A受審人は、発進したあと機関室に降りて主機などを点検して23時30分昇橋し、漁労長と交替して1人で船橋当直に就き、折からの霧で視界が制限されていたので、レーダーで見張りに当たって落石岬から4海里ばかり北東方のユルリ海峡に向け北上し、14日00時08分ユルリ島と昆布盛埼に挟まれたユルリ海峡最狭部を通過し、その後昆布盛埼の少し沖合に設置された定置網付近を航行したのち、同時15分緩島(ゆるりしま)灯台から337度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点に達したとき、針路を花咲港東外防波堤突端に向く005度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力として同港東外防波堤突端のレーダー距離が1海里になったら同港西外防波堤東端と同港東外防波堤突端との間に向けて左転する予定として進行した。 定針後A受審人は、操舵室右舷側に置いていた椅子に腰かけてレーダーによる見張りに当たっていたところ、漁場往航時及び漁場移動航行時の船橋当直と2夜連続の漁労作業による蓄積した疲労と睡眠不足からしだいに眠気を覚えてきた。しかし、同人は、入港配置発令地点が近いから居眠りすることはあるまいと思い、休息している甲板員を起こして2人当直とするなどの居眠り運航防止措置をとることなく当直を続けているうち、いつしか居眠りに陥った。 こうして大盛丸は、居眠り運航となり、予定していた転針が行われずに花咲港東外防波堤突端に向首したまま続航中、00時30分花咲灯台から200度1,170メートルの地点において、その船首が、原針路、原速力のまま花咲港東外防波堤突端外側の消波ブロックに衝突した。 当時、天候は霧で風力2の南風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視程は約500メートルであった。 衝突の結果、大盛丸は、左舷船首外板、左舷船尾ブルワーク及び中央部船底外板に凹損を生じたが、のち損傷部は修理された。
(原因) 本件防波堤衝突は、夜間、北海道花咲港南方漁場から同港に向け北上中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同港東外防波堤突端に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、1人で船橋当直に就いて花咲港南方漁場から同港に向け北上中、漁場往航時及び漁場移動航行時の船橋当直と2夜連続の漁労作業による蓄積した疲労と睡眠不足から眠気を覚えた場合、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を起こして2人当直とするなどの居眠り運航防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、入港配置発令地点が近いから居眠りすることはあるまいと思い、甲板員を起こして2人当直とするなどの居眠り運航防止措置をとらなかった職務上の過失により、椅子に腰掛けてレーダーによる見張りに当たっているうち居眠りに陥り、予定していた転針が行われず、花咲港東外防波堤突端に向首したまま進行して同防波堤突端外側の消波ブロックとの衝突を招き、左舷船首外板、左舷船尾ブルワーク、中央部船底外板に凹損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |