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1999年(平成11年)

平成11年函審第42号
    件名
貨物船ニューはやつき貨物船あおば丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年10月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

酒井直樹、大石義朗、古川隆一
    理事官
東晴二

    受審人
A 職名:ニューはやつき船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:ニューはやつき三等航海士 海技免状:三級海技士(航海)(履歴限定)
C 職名:あおば丸船長 海技免状:二級海技士(航海)
D 職名:あおば丸三等航海士海技免状 四級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
ニューはやつき・・・右舷側外板、ブルワークの前後数箇所に凹損
あおば丸・・・・・・左舷船首から左舷側後部にかけて外板、ブルワークに亀裂を伴う凹損

    原因
ニューはやつき・・・狭視界時の航法(信号、速力、レーダー)不遵守
あおば丸・・・・・・狭視界時の航法(信号、速力、レーダー)不遵守

    主文
本件衝突は、ニューはやつきが、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、あおば丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
受審人Dを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年4月29日21時35分
北海道厚岸港南南東方沖合
2 船舶の要目

船種船名 貨物船ニューはやつき 貨物船あおば丸
総トン数 4,287トン 696トン
全長 116.20メートル 84.33メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 4,471キロワット 1,471キロワット

3 事実の経過
ニューはやつきは、主としてオホーツク海でロシア連邦の漁船から洋上荷役により冷凍魚、フィッシュミールなどを積み取って大韓民国プサン港に輸送している船尾船橋型の冷凍運搬船で、A受審人がB受審人ほか日本人及びフィリピン人20人と乗り組み、便乗者4人を乗せ、冷凍魚及びフィッシュミール3,634トンを載せ、船首6.41メートル船尾6.67メートルの喫水をもって、平成9年4月27日17時30分北緯52度10分東経154度00分の地点を発し、プサン港に向かった。
発航後A受審人は、船橋当直を一等航海士、二等航海士及びB受審人の3人による4時間交替の3直制とし、各直に甲板員1人を配置してウルップ水道に向け南下し、同月28日20時ごろ操船指揮に当たって同水道を通過したのち北海道納沙布(のさっぷ)岬の南東方26海里ばかりのロシア連邦経済水域入出航船通過地点に向けて西行し、翌29日16時50分同地点で昇橋してロシア連邦漁業監視船にVHF通報を終えたのち航行中の動力船の灯火を表示して北海道襟裳岬沖合に向け西行し、17時ごろ在橋の一等航海士に当直を任せて降橋した。

B受審人は、18時00分落石岬灯台から117度(真方位、以下同じ。)31.5海里の地点で船内使用時が20時00分となったので、昇橋したところ霧により視界が狭められていることを知り、前直の一等航海士からレーダー見張りに当たっている旨の引き継ぎを受け、フィリピン人甲板員とともに船橋当直に就き19時00分船内使用時を1時間後進し、日本標準時との時差を残り1時間後進として西行した。
A受審人は、20時30分再び昇橋したところ霧により視界が300メートルに狭められていることを知ったが、霧中信号を吹鳴することも安全な速力に減じることもせず、前方に反航する3隻の漁船のレーダー映像を認め、レーダー監視に当たってこれらの漁船を替わし、同時35分厚岸灯台から128度32.0海里の地点に達したとき、針路を襟裳岬の南東方12海里ばかりのところに向く240度に定め、機関を全速力前進にかけ、14.3ノットの対地速力で自動操舵により進行した。

定針後間もなくA受審人は、レーダーに他船の映像が認められず、在橋のB受審人が霧中航行の船橋当直に慣れており、接近する他船があれば報告してくれるから、その時に昇橋して操船指揮を執ればよいと思い、引き続き操船指揮に当たることなく、同人に当直を任せて降橋し、自室でフィリピン人乗組員の給与計算を始めた。
B受審人は、A受審人が降橋したのち12海里レンジとしたレーダーで見張りに当たって続航中、21時14分厚岸灯台から144度29.5海里の地点に達したとき、ほぼ正船首9.0海里に反航するあおば丸の映像を初めて認め、その後同船の映像の方位が変わらずに接近した。しかしながら同人は、同船と著しく接近することを避け得るかどうかを判断できるよう、同船の映像をプロッティングするなどして動静監視を十分に行わず、自動操舵によるレーダーの船首輝線の振れで、同船がわずかに右方に替わっていくように見えたことから、互いに右舷を対して航過するものと思い、同船の接近を船長に報告せず、霧中信号を吹鳴することも安全な速力に減じることもしないまま進行した。

B受審人は、21時30分厚岸灯台から152度29.2海里の地点に達したとき3海里レンジとしたレーダーで、あおば丸の映像が左舷船首4度2.0海里に接近したのを認め、同船と著しく接近することが避けられない状況となったが、その旨を船長に報告して針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもしないまま相直の甲板員に命じて自動操舵のまま10度左転して230度の針路としたところ、同船の映像を右舷船首6度に見るようになり、このころ同船が小角度右転し、その後同船の映像の方位が左方に変わりながら急速に接近したが、依然レーダーによる動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船が右舷方に替わるものと思い込んだまま続航した。
B受審人は、21時33分1.5海里レンジとしたレーダーであおば丸の映像がほぼ正船首0.8海里に接近したのを認め、同時34分再び甲板員に命じて自動操舵のまま10度左転して220度の針路としたところ、同時34分半、左舷船首方300メートルにあおば丸の白、白、紅3灯を視認し、自ら操舵を手動に切り替え、左舵一杯をとって左転中、21時35分厚岸灯台から154度30.1海里の地点において、160度に向いたニューはやつきの船首部右舷側が、あおば丸の左舷側後部に後方から60度の角度で衝突し、ニューはやつきの右舷側があおば丸の左舷側を擦過した。

A受審人は、自室で給与計算をしているとき突然、衝突の衝撃を感じ、急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。
当時、天候は霧で風力5の南南西風が吹き、潮候はほぼ高潮時にあたり、視程は300メートルであった。
また、あおば丸は、船尾船橋型の冷凍運搬船で、C受審人がD受審人ほか日本人及びフィリピン人11人と乗り組み、漁業用資材129トンを載せ、船首1.75メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、同月28日18時00分宮城県塩釜市塩釜港を発し、アメリカ合衆国アラスカ州ダッチハーバー港に向かった。
発航後C受審人は、甲板員全員を積荷の固縛作業に従事させたので、船橋当直を一等航海士、二等航海士及びD受審人の3人による4時間交替の単独船橋当直とし、時折昇橋して操船指揮を執りながら色丹島の南東方沖合に向け東行した。
D受審人は、翌29日20時00分厚岸灯台から184度37.6海里の地点で昇橋し、霧により視界が狭められていることを知り、前直の一等航海士からレーダー見張りに当たっている旨の引き継ぎを受けて単独船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火を表示して東行した。

C受審人は、20時40分厚岸灯台から173度33.0海里の地点で昇橋したとき霧により視界が300メートルに狭められていることを知ったが、霧中信号を吹鳴することも安全な速力に減じることもせず針路を色丹島の南東方17海里ばかりのところに向く053度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
定針後間もなくC受審人は、レーダーに他船の映像が認められず、在橋のD受審人が霧中航行の船橋当直に慣れており、接近する他船があれば報告してくれるから、その時に昇橋して操船指揮を執ればよいと思い、引き続き操船指揮に当たることなく、同人に当直を任せて降僑し、自室で休息した。
D受審人は、C受審人が降橋したのち24海里レンジとしたレーダーで見張りに当たって続航中、21時00分厚岸灯台から167度31.0海里の地点に達したとき、右舷船首6度15.0海里に反航するニューはやつきの映像を初めて認め、同時14分同船の映像の方位がほとんど変わらず9.0海里に接近したとき、自船が右転すれば互いに左舷を対して航過するものと思い、自動操舵のまま10度右転して063度の針路としたところ同船の映像を左舷船首2度に見るようになり、その後同船の映像の方位がほとんど変わらずに接近した。しかしながら、同人は、同船と著しく接近することを避け得るかどうかを判断できるよう、その映像をプロッティングするなどして動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船の接近を船長に報告せず、霧中信号を吹鳴することも安全な速力に減じることもしないまま進行した。
D受審人は、21時30分、厚岸灯台から156度29.7海里の地点に達したとき6海里レンジとしたレーダーでニューはやつきの映像が左舷船首7度2.0海里に接近したのを認め、同船と著しく接近することが避けられない状況となったが、同船の接近を船長に報告して針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもしないまま7度右転して070度の針路としたところ、同船の映像を左舷船首14度に見るようになり、このとき同船が小角度左転し、その後同船の映像の方位がほとんど変わらずに急速に接近したが、依然レーダーによる動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船が左舷方に替わるものと思い込んだまま続航した。
D受審人は、同時33分ニューはやつきの映像が左舷船首18度0.8海里に接近したとき、その映像がレーダー画面中心付近の海面反射の中に入って見えなくなったので、同船は左舷方に無難に替わっていくものと思って進行中、同時34分半、左舷前方300メートルに自船の左舷側に向け左転中のニューはやつきの白、白、緑3灯を視認し、右舵15度をとって右転中、100度に向いたとき前示のとおり衝突した。

衝突の結果、ニューはやつきは、右舷側外板及びブルワークの前後数箇所に凹損を生じ、あおば丸は、左舷船首から左舷側後部にかけて外板及びブルワークに亀裂を伴う凹損を生じたが、のち損傷部は修理された。

(原因)
本件衝突は、両船が、夜間、霧のため視界制限状態となった北海道厚岸港南南東方沖合を航行中、西行するニューはやつきが、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもなく、レーダーによる動静監視が不十分で、レーダーで前路に認めたあおば丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、東行するあおば丸が、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもなく、レーダーによる動静監視が不十分で、レーダーで前路に認めたニューはやつきと著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
ニューはやつきの運航が適切でなかったのは、船長が視界制限時に降橋し、自ら操船指揮に当たらなかったことと、船橋当直者の視界制限時における措置が適切でなかったこととによるものである。
あおば丸の運航が適切でなかったのは、船長が視界制限時に降橋し、自ら操船指揮に当たらなかったことと、船橋当直者の視界制限時における措置が適切でなかったこととによるものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、北海道厚岸港南南東方沖合を北海道襟裳岬沖合に向け西行中、霧のため視界制限状態となったことを知った場合、引き続き在橋して自ら操船指揮に当たるべき注意義務があった。しかるに、同人は、B受審人が霧中の船橋当直に慣れているから、接近する他船があれば報告してくれるものと思い、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもせずに、同人に当直を任せて降橋し、自室でフィリピン人乗組員の給与計算を行い、自ら操船の指揮を執らなかった職務上の過失により、あおば丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小根度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもできないまま進行して衝突を招き、自船の右舷側外板及びブルワークに数箇所の凹損を生じさせ、あおば丸の左舷船首から左舷側後部にかけて外板及びブルワークに亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、船橋当直に当たって霧のため視界制限状態となった北海道厚岸港南南東方沖合を北海道襟裳岬沖合に向け西行中、レーダーで船首方に反航するあおば丸の映像を認めた場合、同船と著しく接近することを避け得るかどうかを判断できるよう、レーダーにより動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自動操舵によるレーダーの船首輝線の振れで、同船がわずかに右方に替わっていくように見えたことから、互いに右舷を対して航過するものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもせず、レーダーで前路に認めたあおば丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることもせずに進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、北海道厚岸港南南東方沖合を色丹島南東方沖合に向け東行中、霧のため視界制限状態となったことを知った場合、引き続き在橋して自ら操船指揮に当たるべき注意義務があった。しかるに、同人は、D受審人が霧中の船橋当直に慣れているから、接近する他船があれば報告してくれるものと思い、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもせずに、同人に当直を任せて自室で休息し、自ら操船の指揮を執らなかった職務上の過失により、ニューはやつきと著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもできないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
D受審人は、夜間、船橋当直に当たって霧のため視界制限状態となった北海道厚岸港南南東方沖合を色丹島南東方沖合に向け東行中、レーダーで船首方に反航するニューはやつきの映像を認めた場合、同船と著しく接近することを避け得るかどうかを判断できるよう、レーダーにより動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が右転すればニューはやつきと互いに左舷を対して航過するものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもせず、レーダーで前路に認めた同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることもせずに進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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