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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年4月13日12時15分 北海道石狩湾港北西方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第37美穂丸 総トン数 4.94トン 登録長 10.55メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
220キロワット 3 事実の経過 第37美穂丸(以下「美穂丸」という。)は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が長男のB受審人及び二男と乗り組み、平成10年4月13日11時20分北海道石狩市石狩湾港東ふ頭船だまりを発し、同時30分同港沖合の石狩湾新港沖灯標の北西方1.4海里の漁場に至り、2日前に設置しておいた刺網の揚網作業を開始し、12時08分まがれい約100キログラムを獲て同作業を終え、船首0.25メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同時09分同漁場を発進し、帰途についた。 ところで、美穂丸は、全速力に増速すると船首が浮上し、操舵室中央の操舵位置からは船首方の一部に死角を生じて前方を見通すことができない状況であった。 このためA受審人は、石狩湾港沖合を全速力で航行するとき、操舵室の床に高さ約50センチメートルの踏み台を置き、その上に立って操舵室の天井ハッチから顔を出し、船首死角を補う見張りを行っていた。 発進したときA受審人は、石狩湾港出入航時に通過している東防波堤北端と島防波堤東端との間の水路入口に達するまでの間、B受審人に船橋当直を任せて前部上甲板で一休みすることとした。しかしながらA受審人は、自分が当直に就いて石狩湾港沖合を航行するときは、いつも船首死角を補う見張りを行っていることから、B受審人がその見張り方法を見習ってくれるものと思い、操舵室を離れる際、同人に対して操舵室の天井ハッチから顔を出して船首死角を補う見張りを行うよう指示することなく、前部上甲板右舷側前部に赴いて腰を下し、たばこを吸い始めた。 単独船橋当直に就いたB受審人は、機関を増速しながら南下し、12時10分石狩湾新港沖灯標から323度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点に達したとき、針路をGPSビデオプロッターに設定されている143度に定め、機関を全速力前進にかけ、14.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。 定針したときB受審人は、正船首1.2海里の石狩湾新港沖灯標が船首の死角に入り、その後同灯標と衝突のおそれのある態勢で接近した。しかしながら、同人は、これまでGPSビデオプロッターに設定されている針路で漁場から帰航して同灯標を無難に航過していたことから、今航海も大丈夫と思い、船首方の同灯標を見落とすことのないよう、操舵室床の踏み台の上に立ち操舵室の天井ハッチから顔を出して前路を見張るなどの船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、同灯標の存在に気付かず、これを避けることなく続航中、12時15分突然、衝撃を受け、美穂丸の左舷船首が、原針路、全速力のまま、石狩湾新港沖灯標の塔の北西面に設けられている鋼製垂直梯子に衝突し、これを擦過した。 当時、天候は雨で風力1の南東風が次き、潮候は上げ朝の中央期にあたり、視界は約3海里であった。 衝突の結果、美穂丸は左舷船首外板に破口を伴う擦過傷を生じ、石狩湾新港沖灯標は、鋼製垂直梯子を約1.5メートルにわたって曲損した。
(原因) 本件灯標衝突は、北海道石狩市石狩湾港北西方沖合において、漁場から同港に向け南下中、前路の見張りが不十分で、同港北西方沖合に設置された石狩湾新港沖灯標に向首進行したことによって発生したものである。 運航が適切でなかったのは船長が、船橋当直者に対し、船首死角を補う見張りについての指示を十分に行わなかったことと、同当直者の見張りが不十分であったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、北海道石狩市石狩湾港北西方沖合において、漁場から同港に向け南下中、長男の甲板員に船橋当直を任せて一休みする場合、全速力で航行すると船首が浮上し、操舵室からは船首方の一部に死角を生じて見通しが妨げられる状況であったから、同甲板員が同港沖合に設置された石狩湾新港沖灯標を見落とすことのないよう、操舵室の床に踏み台を置いてその上に立ち操舵室の天井ハッチから顔を出して船首死角を補う見張りを行う旨の指示をすべき注意義務があった。しかるに、同人は、自分が当直に就いて石狩湾港沖合を航行するときは、いつも船首死角を補う見張りを行っていることから、同甲板員がその見張り方法を見習ってくれるものと思い、船橋当直を任せる際、同甲板員に対し、操舵室の天井ハッチから顔を出して船首死角を補う見張 りを行う旨の指示をしなかった職務上の過失により、同甲板員の見張りが不十分になり、同灯標を避けることなく進行して衝突を招き、自船の左舷船首外板に破口を伴う擦過傷を生じさせ、石狩湾新港沖灯標の鋼製垂直梯子を曲損させるに至った。 B受審人は、北海道石狩市石狩湾巷北西方沖合において、単独船橋当直に就いて同港北西方漁場から同港に向け全速力で南下する場合、船首が浮上し、操舵室からは船首方の一部に死角を生じて見通しが妨げられる状況であったから、同港北西方沖合に設置された石狩湾新港沖灯標を見落とすことのないよう、操舵室の床に踏み台を置いてその上に立ち操舵室の天井ハッチから顔を出して船首死角を補う見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまでGPSビデオプロッターに設定されている針路で漁場から帰航して同灯標を無難に航過していたことから、今航海も大丈夫と思い、操舵室床の踏み台の上に立ち天井ハッチから顔を出して当直するなどの船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同灯標と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、これを避けることなく進行して衝突を招き、自船と同灯標に前示の損傷を生じさせるに至った。 |