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1999年(平成11年)

平成10年広審第23号
    件名
貨物船ダイハツ丸油送船サン・スプリング衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年4月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

織戸孝治、黒岩貢、横須賀勇一
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:ダイハツ丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:ダイハツ丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
ダイハツ丸…左舷船首部曲損等
サ号…右舷後部曲損等

    原因
サ号…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
ダイハツ丸…動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、サン・スプリングが、見張り不十分で、前路を左方に横切るダイハツ丸の進路を避けなかったことによって発生したが、ダイハツ丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月27日07時25分
愛媛県クダコ水道
2 船舶の要目
船種船名 貨物船ダイハツ丸 油送船サン・スプリング
総トン数 499トン 996トン
全長 66.22メートル
登録長 65.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット 1,103キロワット
3 事実の経過
ダイハツ丸は、専ら神戸、坂出、松山、広島県大竹及び関門の各港間の航海に従事する自動車運搬船で、A及びB両受審人ほか3人が乗り組み、車両117台を積載し、船首2.2メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成9年8月27日06時30分(日本時間、以下特記するもの以外は日本時間である。)松山港を発し、大竹港に向かった。
ところでA受審人は、船橋当直をB受審人との2人により単独で6時間ないし8時間交代で行うこととし、同人に対し、危険を感じたときはいつでも減速し、必要に応じいつでも報告するよう指示しており、また、B受審人は、週1回、松山港からクダコ水道を経由していたことから、当該海域の航行について十分な経験を持っていた。
こうしてB受審人は、06時55分少し前釣島灯台から270度(真方位、以下同じ。)0.5海里の地点で、発航操船を終えたA受審人から操船を引き継き単独の船橋当直に就き、針路を325度に定めて自動操舵により、機関を全速力前進の12.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
07時00分B受審人は、釣島灯台から308度1.4海里の地点で左舷船首41度5.9海里ばかりのところにサン・スプリング(以下「サ号」という。)を初認し、その後同船の動静を監視しながら続航した。
07時20分B受審人は、クダコ島灯台から145度1,000メートルの地点に達したとき、クダコ水道に向首しつつ少し前に同水道に向け転針したサ号の船尾を替わるつもりで、針路を0.08度に転じるとともに速力を半速力前進に減速し、折からの逆潮流のため約7.6ノットの速力で進行した。
転針したときB受審人は、サ号を左舷船首98度500メートルのところに視認するようになり、その後同船が自船の前路を右方横切り衝突のおそれのある態勢で接近したが、前示のとおり自船が転針及び減速を行ったので、何とかサ号の船尾を航過することができると思い、動静監視が不十分で、このことに気付かず、直ちに警告信号を行わず、更に接近しても衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中、07時25分少し前ようやく衝突の危険を感じて、汽笛により短音を吹鳴するとともに機関を中立とした。
このとき、船橋直下の自室で休息していたA受審人は、自船の汽笛の吹鳴を聞いて直ちに昇橋し、間近に迫ったサ号を見て右舵一杯を号令するも効なく、ダイハツ丸は、07時25分クダコ島灯台から066度800メートルの地点で、ほぼ原針路、原速力のまま、その左舷船首部がサ号の右舷後部に後方から22度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、付近には約2.4ノットの南南西流があった。
また、サ号は、船尾船橋型油送船で、船長C(以下「C船長」という。)及び一等航海士D(以下「D一等航海士」という。)ほか11人が乗り組み、空倉のまま、船首1.5メートル船尾3.1メートルの喫水をもって、同月24日14時20分(現地時間)中華人民共和国上海港を発し、関門海峡を経由して姫路港に向かった。
ところでサ号の船橋当直は、時計の0時から4時の間を二等航海土及び操舵手の2名が、4時から8時のを一等航海士1名が、8時から12時の間を船長1名がそれぞれ担当する4時間交代の3直制としていたが、その他に関門及び来島海峡等の狭水道を航行する際にはC船長が自ら操船指揮をとることとしており、また、D一等航海士は、過去数回クダコ水道を航行しだ経験があった。
越えて27日04時00分ごろD一等航海士は、山口県祝島南方で船橋当直に就き、平郡水道を経由して二神島北方に向けて進行し、07時06分根ナシ礁灯標から111度2,000メートルの地点で針路を064度に定め自動操舵により、機関を全速力前進の11.0ノットの速力で進行した。
07時20分少し前D一等航海士は、クダコ島灯台から178度900メートルの地点で、針路をクダコ水道に向く030度に転じ、折からの逆潮流のため約8.6ノットの速力で続航し、同時20分同灯台から175度850メートルの地点に達したとき、ダイハツ丸を右舷船首60度500メートルのところに視認でき、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、丁度そのころ正船首1海里ばかりのところに視認していた小型漁船の動静に気を奪われ、見張りが不十分で、このことに気付かず、速やかに減速するなどしてダイハツ丸の進路を避けることなく続航した。
D一等航海士は、07時25分少し前ダイハツ丸の吹鳴する汽笛の短音を聞いて、右舷後方至近距離に迫ったダイハツ丸を初めて認め、衝突の危険を感じて、左舵一杯、続いてキックを利用して衝突を避けるつもりで右舵一杯としたが効なく、ほぼ原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
C船長は衝撃で異常に気付き、昇橋してダイハツ丸との衝突を知り、事後の措置に当たった。
衝突の結果、ダイハツ丸は左舷船首部に曲損等を、サ号は右舷後部に曲損等を生じたが、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、クダコ水道において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、サ号が、見張り不十分で、前路を左方に横切るダイハツ丸の進路を避けなかったことによって発生したが、ダイハツ丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、クダコ水道において、左舷方にサ号を視認した場合、衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、何とかサ号の船尾を航過することができると思い、同船の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことなく、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行してサ号との衝突を招き、ダイハツ丸の左舷船首部及びサ号の右舷後部に凹損等をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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