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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年7月1日04時30分 長崎県対馬北東岸沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第五恵比須丸
漁船第八隆幸丸 総トン数 16トン 14トン 全長 19.95メートル 登録長
15.70メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 314キロワット
294キロワット 3 事実の経過 第五恵比須丸(以下「恵比須丸」という。)は、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、船首0.8メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成9年6月30日15時30分長崎県志多賀漁港を発し、同県対馬北東岸沖合15海里付近の漁場に至って操業し、180キログラムの漁獲を得て、翌7月1日03時30分北緯34度41.0分東経129度45.0分の地点を発進して帰途についた。 発進直後、A受審人は、法定灯火を表示し、主機の回転数を極微速力前進の毎分600にかけ、4.0ノットの対地速力(以下速力は対地速力である。)として、針路を233度(真方位、以下同じ。)に定めて自動操舵とし、雑用を行ったのち、03時47分半同回転数を全速力前進の毎分1,500に上げ、10.0ノットの速力で進行した。 A受審人は、操舵室中央部後方の台に腰を掛けて前方の監視に当たりながら進行したところ、前路に明るい作業灯を点灯して操業中の漁船群を認め、04時15分尉殿(じょうどの)埼灯台から097度8.1海里の地点に達したとき、立ち上がって手動操舵として同漁船群を替わし始め、同時26分同灯台から107度7.0海里の地点でようやく同漁船群を替わし終えたところから、針路を230度として再び自動操舵とし、針路の定まり具合いを確かめたのち、台に腰を掛けて進行した。 A受審人は、このころ左舷船首55度1,420メートルのところに前路を右方に横切る第八隆幸丸(以下「隆幸丸」という。)の白、緑2灯を視認し得る状況にあったが、漁船群を替わし終えたので、航行の妨げとなる他船はもういないものと思い、見張りを十分に行うことなく、その存在に気付かないまま続航した。 A受審人は、その後隆幸丸の方位がほとんど変わらないまま、衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然見張り不十分で、これに気付かず、04時28分同船が避航動作を取らないまま700メートルに迫ったけれども、隆幸丸に対して警告信号を行うことも、更に接近するに及んで衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま続航中、04時30分尉殿埼灯台から112度6.6海里の地点において、恵比須丸は、原針路、原速力のまま、その左舷中央部付近に、隆幸丸の右舷船首が後方から70度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で、風力1の南寄りの風が吹いていた。 また、隆幸丸は、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.8メートル船尾1.9メートルの喫水をもって、同年6月30日16時00分長崎県下県郡豊玉町位之端を発し、対馬北東岸沖合15海里付近の漁場に至って操業し、60キログラムの漁獲を得て、翌7月1日03時40分北緯34度31.8分東129度45.8分の地点を発進して同県比田勝港に向かった。 発進直後、B受審人は、法定灯火を表示し、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力で、針路を300度に定めて自動操舵として進行し、操舵室中央部後方の台に腰を掛けた状態で前方の監視に当たっていたところ、04時07分ごろ右舷船首方に明るい作業灯を点灯して操業中の漁船群を認め、同時20分ごろこれらを右舷側に見て通過し終えた。 その後B受審人は、04時26分尉殿埼灯台から113度7.4海里の地点に達したとき、右舷船首55度1,420メートルのところに前路を左方に横切る恵比須丸の白、紅2灯を視認し得る状況にあったが、漁船群を通過し終えたので、航行の妨げとなる他船はもういないものと思い、見張りを十分に行うことなく、その存在に気付かないまま続航した。 B受審人は、その後恵比須丸の方位がほとんど変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然見張り不十分で、これに気付かず、恵比須丸の進路を避けることなく、進行し、04時30分わずか前初めて同船の紅灯を前方至近に認めたけれども、とき既に遅く、隆幸丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、恵比須丸は左舷船橋囲壁及び同舷ブルワークなどを破損し、隆幸丸は右舷船首錨巻ローラー取付け部及び同ローラーなどを破損したが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、長崎県対馬北東岸沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそがある態勢で接近中、隆幸丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る恵比須丸の進路を避けなかったことによって発生したが、恵比須丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、夜間、単独で乗り組んで操船に当たり、長崎県対馬北東岸沖合を漁場から同県比田勝港に向かって航行する場合、他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁船群を通過し終えたので、航行の妨げとなる他船はもういないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、恵比須丸の存在とその接近に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、恵比須丸の左舷船橋囲壁及び同舷ブルワークなどを、隆幸丸の右舷船首錨巻ローラー取付け部及び同ローラーなどをそれぞれ破損させるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、夜間、操船に当たり、長崎県対馬北東岸沖合を漁場から同県志多賀漁港に向かって航行する場合、他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁船群を替わし終えたので、航行の妨げとなる他船はもういないものと思い、見張りを十分行わなかった職務上の過失により、隆幸丸の存在とその接近に気付かず、同船に対して警告信号を行うことも、更に接近するに及んで衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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