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1999年(平成11年)

平成10年門審第43号
    件名
漁船克栄丸漁船第七金比羅丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年2月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實、西山烝一、岩渕三穂
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:克栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:第七金比羅丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
克栄丸…右舷船首に破口
金比羅丸…左舷中央部外板に破口を生じてソナー室に浸水、船長が頭部裂創及び左肩等に打撲傷

    原因
克栄丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
金比羅丸…動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、克栄丸が見張り不十分で、前路を左方に横切る第七金毘羅丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第七金比羅丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年6月25日02時45分
日向灘
2 船舶の要目
船種船名 漁船克栄丸 漁船第七金比羅丸
総トン数 69トン 9.7トン
全長 27.30メートル
登録長 14.91メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 367キロワット 88キロワット
3 事実の経過
克栄丸は、まぐろはえなわ漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか5人が乗り組み、鹿児島県鹿児島港で水揚げを終えたあと、乗組員の休養のため回航する目的で、船首2.0メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成9年6月24日12時30分同港を発し、大分県保戸島漁港に向かった。
ところで、A受審人は、通常の航海中は船橋当直を機関長を除いた6人全員で、単独2時間交替の輪番制としていた。
A受審人は、発航時から引き続き操船に当たり、鹿児島湾を南下してから大隅半島沿いに北上し、20時06分ごろ都井岬の東方6.2海里の地点で、甲板員に船橋当直を引き継ぐことにしたが平素から他船が接近するのを認めたときは報告するように言っていたので、他船が接近すれば報告してくれるものと思い、見張りを十分に行うこと及び他船が接近したときの報告について申し送るよう十分に指示することなく、当直を交替して操舵室後方の無線室のソファーで休息した。
B指定海難関係人は、翌25日02時00分細島灯台から108度(真方位、以下同じ。)12.0海里の地点で、前直者と交替して船橋当直に就き、015度の針路及び機関を全速力前進とした10.2ノットの対地速力で引き継ぎ、自動操舵により進行し、同時20分右舷船首43度2.2海里のところに第七金比羅丸(以下「金比羅丸」という。)の船尾灯を視認できる状況であったが船橋の右舷側揃部でいすに腰掛け、左舷前方を向いて当直に当たっていたので、右舷方の見張りが不十分で克栄丸に気付かなかった。
02時42分B指定海難関係人は、細島灯合から076度13.6海里の地点に達したとき、右舷船首41度1,020メートルとなった金比羅丸が左転して白、紅2灯が視認できる状況となり、その後同船が前路を左方に横切り、その方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、左舷前方の漁船群の灯火に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、A受審人に報告が行われず、金比羅丸の進路を避ける措置がとられないまま続航中、02時45分細島灯台から074度13.8海里の地点において、克栄丸は、原針路、原速力のままその船首が、金比羅丸の左舷中央部に後方から75度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力1の西南西風が吹き、潮候は低潮時であった。
A受審人は、B指定海難関係人の叫び声で目覚めて、事後の処置に当たった。
また、金比羅丸は、中型まき網漁業船団の灯船に従事するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同月24日19時00分同船団の僚船4隻とともに宮崎県宮崎港を発し、日向灘の漁場に向かった。
C受審人は、発航後、日向灘の100メートル前後の水深に沿って魚群の探索を行って北上し、同県都農町の沖合で集魚を開始したが漁獲が思わしくなかったので、水深が探い場所で魚群を探索するため、針路を南東、更に東に変えて航行し、翌25日01時細島灯台から148度18.4海里の地点に至り、針路を再び北に向け、機関を回転数毎分1,600にかけて13.5ノットの対地速力とし、このころ左舷前方2.5海里のところに船尾部を水銀灯で照明した克栄丸を初めて視認し、その後同船と同航態勢となり、同時50分同船を追い越して進行した。
02時20分C受審人は、細島灯台から086度14.2海里の地点に至ったとき、魚群の反応を認めたので、針路を350度に定めて自動操舵とし、7.5ノットの対地速力に減速した。そのとき左舷船尾68度2.2海里に克栄丸を認めたものの、その後同船のことを失念し、同船に追い越される態勢となって徐々に接近することになったが、このことに気付かず、魚群の探索を続けながら続航した。
C受審人は魚群の反応があるとの網船からの無線連絡を受け、02時42分細島灯台から075度14.2海里の地点で、針路を網島の方に向く300度に転じたとき、左舷船首64度1,020メートルに前路を右方に横切る克栄丸の白、緑2灯を視認することができる状況で、その後同船と方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然魚群の探索に気をとられ、動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行わず、更に接近しても行きあしを停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらないで進行中、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、克栄丸は右舷船首に破口を生じ、金比羅丸は左舷中央部外板に破口を生じてソナー室に浸水したが、のちいずれも修理され、C受審人は、頭部裂創及び左肩等に打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、日向灘において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、克栄丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る金比羅丸の進路を避けなかったことによって発生したが、金比羅丸が動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
克栄丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格者に船橋当直を行わせるにあたり、見張りを十分に行って他船が接近したときは報告するよう十分に指示しなかったことと、船橋当直者が、見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間日向灘において、無資格者に船橋当直を行わせる場合、見張りを十分に行うこと及び他船が接近したときの報告について十分に指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、他船が接近すれば報告してくれるものと思い、見張りを十分に行うこと及び他船が接近したときの報告について十分に指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者が見張り不十分で、接近する金比羅丸に気付かず、同受審人に報告されないまま進行して同船との衝突を招き、克栄丸の右舷船首に破口を、金比羅丸の左舷中央部外板に破口及びソナー室に浸水を生じさせ、C受審人に頭部裂創及び左肩等に打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、日向灘を魚群の探索に当たって北上中、克栄丸を左舷前方に認め、同航の態勢で追い越したのち減速してから左方に転針した場合、横切り関係となって衝突のおそれが生じることになるから、衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、魚群の探索に気をとられ、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、転針後に克栄丸と横切り関係となって接近したことに気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作もとらないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、単独で船橋当直に当たって日向灘を北上中、周囲の見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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