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1999年(平成11年)

平成10年横審第26号
    件名
漁船抱井丸プレジャーボートサンホーク号衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年2月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

勝又三郎、猪俣貞稔、長浜義昭
    理事官
長谷川峯清

    受審人
A 職名:抱井丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:サンホーク号船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
抱井丸…船首船底に擦過傷
サンホーク号…船首部を圧壊して水船となり、のち転覆、全損、船長が2箇月間の加療を要する左手小指骨折、同乗者1人が左肩関節脱臼、同乗者1人が右前腕打撲挫傷等

    原因
抱井丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
サンホーク号…見張り不十分、注意喚起信号不履行、(一因)

    主文
本件衝突は、抱井丸が、見張り不十分で、錨泊中のサンホーク号を避けなかったことによって発生したが、サンホーク号が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月24日07時12分
静岡県網代港
2 船舶の要目
船種船名 漁船抱井丸 プレジャーボートサンホーク号
総トン数 3.38トン
登録長 8.60メートル 4.03メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 55キロワット 11キロワット
3 事実の経過
抱井丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、機関試運転の目的で、船首0.20メートル船尾1.34メートルの喫水をもって、平成9年7月24日05時50分静岡県網代港を発し、同港北方1海里沖合の同県熱海港の港域内において、約1時間にわたり同試運転を行ったのち帰航の途についた。
ところで、抱井丸の操舵室前面右舷側窓の下には、機関関係の燃料油計、機関回転数計、冷却水温度計が設置され、航行中これらの諸計器を点検しながら操舵操船を行うと目線が下がり、前路の見張りが不十分になる状況であった。
A受審人は、07時00分ごろ機関試運転を終えたとき、機関回転数毎分2,000の16.0ノットにかけて発進し、海面に浮遊しているごみを避けることもあって、網代港北方に設置されている古網漁場及び赤石漁場と称する2張の定置網の外周を回って帰航することとして東方に向かい、途中機関を停止して操舵装置の油圧系統のパイプを点検し、その後再び機関を同回転数に戻し、東側の赤石漁場定置網に沿って航行し、海岸線と定置網の垣網との間の水路東口に接近したとき、減速したのちに右転し、07時10分少し過ぎ伊豆網代灯台から015度(真方位、以下同し)200メートルの地点で、針路を320度に定め、機関を毎分1,500回転の半速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力とし、手動操舵によって進行した。
定針したころ、A受審人は、再び操舵室前面窓の下の機関関係の諸計器に目を移して機関の点検を始め、ほぼ圧船首680メートルに遊漁中のサンホーク号が存在し、同船が錨泊を示ず形象物を表示していなかったものの、動いていないことから、錨泊していることが分かる状況となり、その後同船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近したが、目線を下にして諸計器の点検に気を奪われ、前路の見張りを十分に行うことなく、折から定置網の網起こし作業に従事中の第三船の手前にサンホーク号がいたこともあってこれを見落としたまま続航した。
その後、A受審人は、依然諸計器の点検に気を奪われ、サンホーク号の存在に気付かず、右転するなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行中、07時12分わずか前船首至近に同船を初めて認め、直ちに右舵一杯としたが及ばず、07時12分伊豆網代灯台から331度830メートルの地点において、抱井丸は、352度を向いたとき、原速力のまま、その船首が、サンホーク号の右舷船首部に後方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は高潮時であった。
また、サンホーク号は、最大搭載人員5人のFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、同乗者3人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日06時30分網代港を発し、同港沖合の釣場に向かった。
06時35分B受審人は、航行船舶の多い的場に到着して漂泊し、竿釣りを始めたところ釣果がなかったので、同時40分少し離れたところに設置されてあったたこ壺(つぼ)の浮標のところに移動して釣りを行ったものの、ここでも釣果がなかったので再度移動することとし、同時50分設置されてある古網漁場定置網から約180メートル離れた水深約20メートルの前示衝突地点付近において、直径12ミリメートルの合成繊維製錨索約30メートルを取り付けた錨を船首から投入し、船首を052度に向け、錨泊を示す形象物を表示しないまま錨泊して釣りを再開した。
B受審人は、船尾操縦台の右舷側に腰掛けて右舷方を向き、釣竿を右舷側に出し、中央部に同乗者2人が左舷方を向き、船首部に同乗者1人がそれぞれ座って釣りを続けていたところ、07時10分少し過ぎ右舷船首88度680メートルのところに、自船に向首して接近する抱井丸を認め得る状況であったが、釣りに夢中になり、周囲の見張りを十分に行うことなく、竿先の動きに注目して釣りを続け、抱井丸の接近に気付かず、その後衝突のおそれがある態勢で接近する同船に対し、有効な音響による注意喚起信号を行わないまま錨泊中、ふと顔を上げで右舷方を見たとき、船首部至近のところに迫った同船を認め、同乗者に連絡して全員で大声で叫んだものの、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、抱井丸は船首船底に擦過傷を生じ、サンホーク号は船首部を圧壊して水船となり、のち転覆して陸岸に打ち上げられて全損となり、B受審人が2箇月間の加療を要する左手小指骨折を負い、同乗者Cが左肩関節脱臼を、同乗者Dが右前腕打撲坐傷等の傷を負った。

(原因)
本件衝突は、静岡県網代港において、抱井丸が、機関試運転を終えて同港に向け海岸線と定置網の間の水路を通って帰航中、見張り不十分で、前路に錨泊しているサンホーク号を避けなかったことによって発生したが、サンホーク号が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったこともその一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、静岡県網代港において、機関試運転を終えて同港に向け海岸線と定置網の間の水路を通って帰航する場合、錨泊中のサンホーク号を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、目線を下にして諸計器の点検に気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のサンホーク号に気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、抱井丸は擦過傷を生じただけであったが、サンホーク号の船首部を圧壊したうえ、転覆して陸岸に打ち上げられて全損となり、同船同乗者3名を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、静岡県網代港において、船舶の航行する海域で錨泊して竿釣りを行う場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見脹りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、釣りに夢中になり、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する抱井丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号行うことなく錨泊して衝突を招き、前示損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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