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1999年(平成11年)

平成10年仙審第49号
    件名
漁船第三十五北星丸漁船第101インソン衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄、今泉豊光、供田仁男
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:第三十五北星丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
北星丸…球状船首部外板を圧壊
イ号…右舷側後部外板に破口を伴う凹損

    原因
北星丸…動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守
イ号…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措)不遵守

    主文
本件衝突は、第三十五北星丸が動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、第101インソンが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月1日03時15分
岩手県宮古港北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十五北星丸 漁船第101インソン
総トン数 19トン 539トン
全長 21.60メートル 55.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 558キロワット 1,176キロワット
3 事実の経過
第三十五北星丸(以下「北星丸」という。)は、さんま棒受け網漁業に従事する船体中央部に操舵室が設けられたFRP製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか6人が乗り組み、平成9年10月31日11時30分宮古港を発し、同港化東方沖合の漁場に至って操業を開始した。翌11月1日00時30分北緯40度10分東経143度06分の地点で、さんま9トンを獲て操業を打切り、水揚げの目的で、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、直ちに帰途に就き、針路を240度(真方位、以下同じ。)に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、南寄りの約0.5ノットの海流の影響を受けて約3度左方に圧流されながら8.7ノットの対地速力(以下速力は対地速力である。)宮古港に向かった。
A受審人は、漁労長を兼務して航海中及び操業中も単独で船橋当直を行い、帰航時海上が平穏なときには部下にも当直を行わせていた。帰途、航行中の動力船であることを示す灯火及び前部甲板上を照射する作業灯1基を点灯し、部下には甲板の後片付け作業を行わせ、自らは引き続き船橋当直にあたった。01時00分北緯40度07.5分東経143度01.3分の地点で、B指定海難関係人が同作業を済ませて昇橋してきたとき、平隠な海上模様でもあったので、同人に単独で船橋当直を行わせることにして針路及び速力を告げ、また、船が増え危ないようなときには起こすよう指示して当直を交替した。その際、同人とは最近3年間相乗船して当直中の見張り船長に報告すべき事項などの指導を適宜行ってきたので、改めて見張りに関しての具体的な指示を与えるまでもないと思い、自ら衝突のおそれがあるかどうかを判断して衝突を避けるための措置をとることができるように接近する他船に関しての報告を十分に指示することなく、操舵室後部のベッドに退いて休息した。
こうして、B指定海難関係人は、船橋前部甲板上の両舷側及び前部マストの両脇に設けられた集魚灯等の設備により一部前方に死角を生じる状況であったので、船橋内左舷寄りで床上約1メートルの架台に上がって船橋上部の見張り窓から見張りながら当直を行っていた。
02時15分B指定海難関係人は、右舷船尾66度3.7海里に第101インソン(以下「イ号」という。)のレーダー映像を初めて探知し、その後、同時45分右舷船尾75度1.6海里のところに同船の明るい集魚灯を視認し、更に03時00分右舷側を0.6海里離して追い抜いていくのを認めた。
03時08分少し前B指定海難関係人は、ほぼ正船首0.6海里のところに集魚灯に照らし出されたイ号の船体を認め、間もなく同船が前路を左方に替わり、同時09分左舷船首6度0.6海里に同船の灯火を視認するようになったとき、機関を停止した同船に接近することを知ったが、速やかにそのことをA受審人に報告せず、同船を離すつもりで自動操舵のまま約10度右方に転じ、同船を無難に航過することになると思い、その後見張り用架台から降りてその動静監視を行わないまま進行した。
ところが、北星丸は、イ号が機関停止に伴い折からの西風の影響を受けて前進惰力で風上に切り上がるとともに海流の影響をも受けて徐々に右回頭しながら移動し、同船と衝突のおそれがある態勢で再び接近する状況となったものの、衝突を避けるための措置がとられず、03時15分わずか前B指定海難関係人が、船首至近にイ号の船体を認め、驚いて機関を中立続いて全速力後進にかけたが及ばず、03時15分北緯39度57分東経142度40分の地点において、原針路、原速力のまま、北星丸の船首部が、イ号の右舷側後部外板に前方から80度の角度で衝突した。
当時、天侯は晴で風力3の西風が吹き、視界は良好であった。
また、イ号は、さんま棒受け網漁業に従事する船体中央部に操舵室が設けられた鋼製漁船で、船長Cほか31人が乗り組み、操業の目的で、船首3.3メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、同年9月22日大韓民国釜山港を発し、同月26日以降三陸沖合の漁場で夜間操業を繰り返していた。
C船長は、当直航海士を伴って操船指揮をとり、翌々11月1日00時30分北緯40度16.7分東経143度04.9分の地点で、航行中の動力船であることを示す灯火及び左右両舷の集魚灯各1基を点灯して適水を開始した。01時00分北緯40度16.7分東経143度00.6分の地点で、針路を220度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、海流の影響を受けて約1.5度左方に圧流されながら11.6ノットの速力で進行し、03時00分左舷側0.6海里離して北星丸を追い抜いたが、このことに気付かなかった。
03時08分少し前C船長は、左舷船尾20度0.6海里離れた北星丸の白、紅、緑3灯及び作業灯の灯火に気付かないまま同船の前路を左方に替わり、間もなく次の操業開始まで漂泊するつもりで機関を停止した。
ところが、03時09分C船長は、ほぼ正船尾方0.6海里のところに北星丸の灯火を認めることができるようになり、そのころ、折からの西風及び海流の影響を受けて徐々に右回頭しながら移動し、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま惰力による回頭を続け、同時14分半右舷正横方近距離に初めて北星丸を視認して衝突の危険を感じ、汽笛で短音を連続して吹鳴したものの効なく、船首が350度を向いたとき、わずかな前進惰力状態のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、北星丸は球状船首部外板を圧壊し、イ号は右舷側後部外板に破口を伴う凹損を生じた。

(原因)
本件衝突は、夜間、宮古港北東方沖合において、漁場から帰航中の北星丸が、動静監視不十分で、自船を追い抜いた後漂泊のため機関を停止し前進惰力で移動中のイ号との衝突を避けるための措置をとらなかったことと、イ号が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
北星丸の運航が適切でなかったのは、船長の無資格の船橋当直者に対する当直に関しての報告及び他船の動静監視についての指示が十分に行われなかったことと、無資格の船橋当直者の接近する他船に関しての船長への報告及びその動静監視が十分に行われなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、宮古港化北東方沖合において、漁場から操業を終えで帰航中、無資格者に船橋当直を行わせる場合、自ら衝突のおそれがあるかどうかを判断して衝突を避けるための措置をとることができるよう、接近する他船に関しての報告を十分に指示すべき注意義務があった。しかし、同人は、最近3年間の相乗船で船橋当直に関しての報告すべき事項や見張りに関して適宜指導してきたので、改めて同報告に関して指示するまでもないと思い、接近する他船に関しての報告を十分に指示しなかった職務上の過失により、無資格の当直者から接近するイ号の報告を受けられず、自ら衝突のおそれがあるかどうかを判断して衝突を避けるための措置をとることができないまま進行してイ号との衝突を招き、北星丸の球状船首部外板を圧壊させ、イ号の右舷側後部外板に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、自船を追い抜き前方で機関を停止したイ号に接近するのを知った際、速やかに船長にその旨を報告しなかったこと及びその後の動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、その後船長から船橋当直に関して一層の指導が行われた点に徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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