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1999年(平成11年)

平成10年横審第67号
    件名
引船寿寿丸プレジャーボートエイ衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

西村敏和、半間俊士、長浜義昭
    理事官
関隆彰

    受審人
A 職名:寿寿丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:エイ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
寿寿丸…損傷なし
エイ…右舷中央部外板に亀裂を伴う損傷、同乗者1人が腰部打撲など

    原因
寿寿丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
エイ…注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、寿寿丸が、見張り不十分で、錨泊中のエイを避けなかったことによって発生したが、エイが注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年6月15日10時47分
千葉港千葉第5区
2 船舶の要目
船種船名 引船寿寿丸 プレジャーボートエイ
総トン数 19.42トン
全長 15.65メートル
登録長 14.40メートル 5.14メートル
機関の種類 ディーゼル機 関電気点火機関
出力 220キロワット 100キロワット
3 事実の経過
寿寿丸は、専ら千葉港及び京浜港内において、はしけのえい航に従事する鋼製引船兼交通船で、A受審人が1人で乗り組み、係留場所を移動する目的で、船首0.1メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、平成8年6月15日10時17分千葉港千葉第3区新港ふ頭を発し、同港葛南区に向かった。
発航後、A受審人は、針路を適宜とし、機関を全速力前進にかけ、椅子に腰を掛けて手動操舵に当たり、千葉航路の北側航路外を千葉港第七号灯浮標に向かって西行し、10時29分同灯浮標の400メートル手前にあたる、千葉港丸紅シーバース灯から243.5度(真方位、以下同じ。)550メートルの地点において、針路を船橋第8号灯浮標の少し北右に向く307度に定め、8.0ノットの対地速力で進行した。
ところで、千葉市美浜区の臨海部は、海浜公園となってヨットハーバーなどがあり、北側から順に、マリンスタジアムや幕張メッセがある幕張の浜、検見川の浜及び稲毛の浜が連なり、千葉断葉第5区の検見川の浜及び稲毛の浜の沖合は、ヨットなどの航走が盛んな海域で、千葉港港湾管理者が、ヨットの航走区域を示すため黄色灯浮標6基を設置し、曜日ごとに漁業操業とヨットの航走区域の調整を行っており、当日が土曜日に当たり、毎週土曜日は、漁業操業が行われないことから、6基の灯浮標と検見川の浜及び稲毛の浜によって囲まれる全域で帆走することができ、A受審人は、毎日のように海浜公園沖合を航行していたので、このことをよく知っていた。
定針後、A受審人は、右舷前方の稲毛の浜の沖合に、多数のヨットが集合し、帆走する準備に取り掛かっているのを認め、同ヨット群が帆走を開始して沖合に向かえば、自船の前路を右方から左方に横切ることとなるので、同ヨット群の動静に注意しながら進行した。
10時45分A受審人は、千葉港波浪観測塔灯から074.5度1,500メートルの地点に達したとき、正船首500メートルのところに錨泊中のエイを視認し得る状況であり、その後衝突するおそれのある態勢で接近したが、土曜日は海浜公園沖合では漁船の操業はなく、これまで同海域で錨泊船を見かけたことがなかったことから、前路に他船はいないものと思い、右舷側を帆走中のヨット群の動静に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
こうして、A受審人は、エイを避けないまま続航し、10時47分わずか前、船首至近にエイを初めて認め、直ちに機関を全速力後進続いて右舵をとったが、及ばず、10時47分千葉港波浪観測塔灯から056度1,250メートルの地点において、寿寿丸は、右回頭中の船首が317度を向き、機関が後進にかかって間もなく、その左舷船首部が、エイの右舷中央部に、後方から50度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。また、エイは、最大とう載人員が6人の、電子ホーンを装備したFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、仕事仲間2人を乗せ、釣りと船内清掃の目的で、船首0.1メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日04時30分千葉市花見川河口から2,200メートル上流の定係地を発し、幕張の浜沖合に向かった。
B受審人は、幕張の浜にあるマリンスタジアム沖合の釣り場に至って錨泊し、釣りを始めたが釣果が上がらず、釣り場を移動することにし、07時30分水深約7メートルの前示衝突地点において、船首から重さ15キログラムの錨を投入し、直径16ミリメートルの合成繊維索を20メートル繰り出して、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げずに、再度錨泊し、同乗者1人が船首部で釣りを始めた。
B受審人は、他の同乗者1人と船内の清掃を始め、しばらくして薄日が差すようになったので、船内のソファーマットを取り外して操舵室の屋根に干したり、海中に入って外板に付着したふじつぼや汚れを落とす作業を行い、同作業を終えて船首を幕張メッセの建物に向く007度に向けて錨泊中のエイの操舵室後方に立って休息をとっていたところ、10時46分少し前右舷後方60度300メートルのところに、自船に向首進行する寿寿丸を初めて認め、その後も自船に向首したまま接近したが、寿寿丸は自船の存在に気付いており、もう少し接近してから避航してくれるものと思い、同船に対して自船の存在を知らせるための注意喚起信号を行わなかった。
10時47分わずか前B受審人は、避航の気配がないまま至近に直った寿寿丸に衝突の危険を感じ、急いで電子ホーンを連続吹鳴したが効なく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、寿寿丸は、損傷はなかったが、エイは、右舷中央外板に亀(き)裂を伴う損傷を生じ、同乗者1人か腰部打撲などを負った。

(原因)
本件衝突は、千葉港千葉第5区の海浜公園沖合において、寿寿丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中のエイを避けなかったことによって発生したが、エイが、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、千葉港千葉第5区において、ヨット等が航走する海浜公園沖合を航行する場合、前路に存在する他船を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、土曜日は漁船の操業もなく、これまで同公園沖合で錨油船を見かけたことがなかったことから、前路に他船はいないものと思い、自船の右舷側を帆走中のヨット群の動静に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中のエイに気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を沼き、エイの右舷中央部外板に亀裂を伴う損傷を生じさせ、同乗者に腰部打撲などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、千葉港千葉第5区において、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げずに錨泊中、自船に向首進行する寿寿丸を視認した場合、同船に対して自船の存在を知らせるために、注意喚起信号を行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、寿寿丸は錨泊中の自船の存在に気付いており、そのうち避けてくれるものと思い、注意喚起信号を行わなかった職務上の過失により、自船の存在を知らせることができないまま錨泊を続けて衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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