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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年9月4日01時55分 北海道内浦湾砂原漁港沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第三十八善寶丸
漁船第七千代丸 総トン数 9.7トン 3.19トン 登録長 14.75メートル 8.60メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 120 50 3 事実の経過 第三十八善寶丸(以下「善寶丸」という。)は、はえなわ漁業等に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、えびかご漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成10年9月4日01時45分北海道内浦湾砂原漁港を発し、同湾長万部漁港東方沖合の漁場に向かった。 A受審人は、発航したとき、前部マストのマスト灯、両舷灯及び船尾灯のスイッチを入れて両舷灯と船尾灯を点灯したが、マスト灯が点灯しないまま単独船橋当直に当たり、機関を微速力前進にかけ砂原漁港を北防波堤の内側に沿って東行し、01時52分砂原港北防波堤灯台から074度(真方位、以下同じ。)60メートルの地点に達したとき、針路を同灯台から005度850メートルの、ほたてがい養殖施設東端の標識灯の少し東方に向かう002度に定め、機関を回転数毎分1,200の全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 ところで、善寶丸は速力を9.0ノット以上にすると船首が浮上し、操舵室中央の操舵位置からは左右各舷に20度ばかりの範囲で死角を生じ、船首方を見通すことができなかった。 A受審人は、定針後間もなくマスト灯が点灯していないことに気付き、操舵室左舷後方の航海灯のスイッチに向かってスイッチを入れたり切ったりして、操舵しながらマスト灯の点灯状況を確認したが点灯しなかった。 01時53分A受審人は、砂原港北防波堤灯台から013度300メートルの地点に達したとき、ほぼ正船首550メートルに停留している第七千代丸(以下「千代丸」という。)の紅1灯と作業灯を視認でき、同船が停留していることが分かる状況であったが、前路に他船はいないものと思い、点灯しないマスト灯のスイッチを操作することに気をとられ、船首を左右に振るなどして船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので同船を認めず、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、このことに気付かず、同船を避けることなく続航し、01時55分少し前、ようやくマスト灯の電球切れに気付いてマスト灯を、点灯することをあきらめ、これに代えてレーダーマスト頂部の白色全周灯を点灯した直後、01時55分砂原港北防波堤灯台から006度850メートルの地点において、突然衝撃を感じ、善寶丸の船首が、原針路、原速力のまま、千代丸の左舷船尾に前方から70度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。 また、千代丸は、刺網漁業に従事する船首船橋、船尾機関室型のFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、前日に設置しておいた刺し網を揚網する目的で、船首0.3メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成10年9月4日01時45分砂原漁港を発し、前示衝突地点付近の漁場に向かった。 発航時、B受審人は、操舵室上部に両色灯を点灯して航行し、01時50分前示衝突地点に至って機関を中立運転とし、漁ろうに従事していることを示す灯火を掲げず、船橋後部から船尾機関室囲壁に渡した竹竿に係止した3個の100Wの作業灯を点灯し、船首左舷側の揚網機のドラムの後方に船首方を向いて立ち、舵扱び機関の遠隔操縦によりほぼ停留して刺し網の揚網作業を開始した。 01時53分B受審人は、船首が252度に向いていたとき、船首左舷正横前20度550メートルに、善寶丸の紅、緑2灯を認めることができる状況であったが、自船は上甲板上方に作業灯を3個点灯してほぼ停留しているから、航行船が自船を認めて避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、善寶丸を認めず、その後同船が、衝突のおそれのある態勢で接近したが、このことに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことなく揚網作業を続行中、01時55分少し前、左舷正横付近間近に善寶丸の船首を認め、あわてて機関を前進にかけたが、間に合わず、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、善寶丸は、船首部左舷側外板に亀裂、船首部右舷側外板に擦過傷を生じ、千代丸は、左舷船尾外板及びブルワークに破口を生じで浸水沈没し、B受審人が、海中に投げ出されて善寶丸に救助されたが、左前胸部打撲傷などを負った。同船は引き揚げられたが、廃船処分された。
(原因) 本件衝突は、夜間、北海道内浦湾原漁港沖合において、北上中の善寶丸が、法定灯火を表示せず、かつ、見張り不十分で、ほぼ停留して揚網中の千代丸を避けなかったことによって発生したが、千代丸が法定灯火を表示せず、かつ、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、北海道内浦湾砂原漁港沖合から同湾長万部漁港沖合の漁場に向け内浦湾を北上する場合、操舵位置からは船首方の一部に死角を生ずる状況であったから、前路でほほ停留して刺し網を揚網作業中の千代丸を見落とさないよう、船首を左右に振るなどして船首方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。 ところが、同人は、前路に他船はいないものと思い、点灯しないマスト灯のスイッチを操作することに気をとられ、船首方の死角を補う前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、千代丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けることなく進行して同船との衝突を招き、善寶丸の船首部左舷側外板及び同部右舷側外板にそれぞれ亀裂と擦過傷を生じさせ、千代丸の左舷船尾外板及びブルワークに破口を生じさせて沈没させ、B受審人に左前胸部打撲傷などを負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 B受審人は、夜間、北海道内浦湾砂原漁港沖合において、ほぼ停留して刺し網の揚網作業に従事する場合、北上する善寶丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、上甲板上部に作業灯を3個点灯してほぼ停留しているから、航行船が自船を認めて避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、善寶丸が自船に向首接近していることに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことなく揚網作業を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自身も左前胸部打撲傷などを負うに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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