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1999年(平成11年)

平成10年神審第40号
    件名
引船第二十一明神丸プレジャーボート安原丸衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年2月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明
    理事官
副理事官 山本茂

    受審人
A 職名:第二十一明神丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
明神丸…損傷なし
安原丸…左右両舷外板中央部に亀裂を生じて転覆、機関室に浸水して機関に濡れ損

    原因
明神丸…操船不適切(接舷する際)

    主文
本件衝突は、第二十一明神丸が、係留中の安原丸に反転して接舷する際、操船が不適切で、同船に著しく接近して回頭したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年9月7日08時00分
舞鶴湾
2 船舶の要目
船種船名 引船第二十一明神丸 プレジャーボート安原丸
総トン数 75.64トン 1.34トン
全長 23.50メートル
登録長 6.03メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 588キロワット 17キロワット
3 事実の経過
第二十一明神丸(以下「明神丸」という。)は、舞鶴湾において火力発電所新設工事に従事する鋼製弓船で、R株式会社所有の浚渫(しゅんせつ)船三友二号に対して種々の支援作業を行っていたところ、A受審人ほか1人が乗り組み、作業員4人を同号から同社専用の仮設桟橋に送る目的で、船首1.20メートル船尾2.60メートルの喫水をもって、平成9年9月7日07時54分三本松鼻灯台から347度(真方位、以下同じ。)2,450メートルに錨泊していた同号を発し、南東方約700メートルのところにある同桟橋に向かった。
ところで、この仮設桟橋は、舞鶴湾入口にある南に開いた袋状小湾の湾口部東岸において、約4メートルの渡り板の先端に南北方向に約10メートル、東西方向に約4メートルのポンツーンを西に向け設置したもので、A受審人はこれに明神丸を着桟させるのが初めてであった。
A受審人は、単独で操舵室において操船に当たり、機関を9.0ノットの全速力前進にかけて南下したのち、07時57分半ごろ三本松鼻灯台から355度1,870メートルの地点に至り、左舷前方250メートルばかりに、目的の桟橋西面に南を向けて係留されている安原丸と南面に東を向けて係留されている船外機付き小型ボートとをそれぞれ認め、同桟矯の西側沖で右回頭し、出船左舷付けで安原丸の右舷側に接舷して作業員を降ろすこととした。
A受審人は、桟橋の対岸までの距離が約100メートルあり、この小湾の奥行きも十分にあったが、明神丸の操縦性能が良いことから大丈夫と思い、余裕のある操船ができるよう、十分な回頭水域を確保する針路とすることなく、07時58分同灯台から359度1,920メートルの地点に達したとき、安原丸を右舷側40メートルばかり離して同桟矯にほぼ平行となる000度に針路を定め、機関を微速力前進として減速しながら進行した。
07時59分A受審人は、3ノットの速力で船首が約40メートル離して桟橋南端に並んだとき、機関を中立、右舵一杯として回頭を開始したが約100度回頭したところで自船船首と安原丸船尾との距離が10メートルほどに接近したので、安原丸船体に自船船体を平行にするため、回頭速度を増すこととして機関を半速力前進にかけたところ、前進行き脚が増すとともに回頭惰力がつき過ぎ、急いで機関を中立としたものの、安原丸との角度が20度ばかり開いた状態で、自船船尾が安原丸船首を替わる態勢となったことを認めた。
08時00分少し前A受審人は、あわてて右舵一杯のまま機関を微速力後進としたところ、推進器翼が右旋一体型であったため船尾がさらに左に振れながら後退し、08時00分三本松鼻灯台から000度2,070メートルの地点において、210度を向首した明神丸の左舷船尾角が安原丸の右舷中央部外板に、前方から30度の角度で約2ノットの後退速力をもって衝突した。
当時、天候は曇で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、安原丸は、FRP製プレジャーボートで、R株式会社が三友二号と陸岸との交通用として借り入れ、同社従業員のBが主に船長として乗り組んで運航に当たり、前日の6日に3回ばかり同号と同桟橋間を往復したのち、18時00分ごろ同桟橋西面のほぼ中央付近に船首0.20メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、船首を180度に向いた状態で船首索2本、船尾索1本をとって左舷付けで係留された。そして、翌7日が日曜日であったことから、引き続き無人のまま係留されていたところ、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、明神丸には損傷がなかったが、安原丸は左右両舷外板中央部に亀裂が入るなどの損傷を生じて転覆し、機関室に浸水して機関に濡れ損を生じたが、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、明神丸が舞鶴湾入口付近において、桟橋に係留している安原丸に反転して左舷付けで接舷する際、操船が不適切で、同船に著しく接近して右回頭したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、舞鶴湾入口付近において、桟橋に係留している安原丸の沖合で明神丸を反転させて安原丸に左舷付けで接舷する場合、十分な回頭水域を確保するなど、適切な操船を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、明神丸の操縦性能が良い、ことから大丈夫と思い、十分な回頭水域をもった適切な操船を行わなかった職務上の過失により、安原丸に著しく接近して右回頭を行い、思うような回頭角度が得られず、同船との衝突を招き、安原丸の左右両舷外板中央部に亀裂を生じさせ、転覆させるに至った。

参考図






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