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1999年(平成11年)

平成11年長審第25号
    件名
瀬渡船幸生丸漁船和丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年9月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、安部雅生、原清澄
    理事官
畑中美秀

    受審人
A 職名:幸生丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:和丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
幸生丸…船尾船底外板の擦過傷、推進器欠損
和丸…左舷船首部を大破して廃船、船長が左肩骨折、頸椎捻挫

    原因
幸生丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
和丸…動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、幸生丸が見張り不十分で、漂泊中の和丸を避けなかったことによって発生したが、和丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年1月28日14時20分
長崎県松島水道南口
2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船幸生丸 漁船和丸
総トン数 6.2トン 0.4トン
全長 16.70メートル
登録長 12.44メートル 4.59メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 364キロワット 11キロワット
3 事実の経過
幸生丸は、専ら長崎県西彼杵郡大瀬戸町松島周辺の瀬や磯に釣り客を送迎する瀬渡し業務に従事し、船体中央やや後方に操舵室を設け、同室内とその上方にそれぞれ操縦席があるFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、瀬渡し客を収容する目的で、船首0.60メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、平成10年1月28日13時45分同町瀬戸福島郷の係留地を発した。
A受審人は、松島水道北口から松島を反時計回りで同島沿いに進行し、同島西方沖合の角島で7人の釣り客を収容したのち松島南岸に沿って東行し、14時15分同水道南口東側の頭島から南方に拡延する瀬に設置された頭島南灯台(以下「南灯台」という。)の直下北側の同灯台管理用船着き場に至り、釣り客3人を収容し、合計10人の釣り客を乗せ、14時18分帰途に就いた。
ところで、幸生丸は、増速すると船首が浮上し、操舵室内の操縦席に腰掛けた状態では、船首先端に設けた平均幅が1メートル強で、2メートルばかり突き出した瀬渡し板などによって視野が遮られ、船首方10度ばかりの範囲に死角を生ずる状態となるので、平素、A受審人は、釣り客収容などの離着岸時のみ周囲に囲壁の無い操舵室上方の操縦席で、航行時は速力が速く風が当たるので操舵室内の操縦席で、それぞれ操船に当たり、同室内で操船する際には、必要に応じて船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを行っていた。
帰途に就いたA受審人は、頭島西方の瀬を50メートルばかり隔てて航過できるように右回頭して機関を増速しながら進行し、14時18分半少し過ぎ南灯台から314度(真方位、以下同じ。)250メートルの地点に達し、機関を23.0ノットの全速力前進にかけ、針路を337度に定めたとき、正船首950メートルのところに漂泊中の和丸を視認することができ、その後衝突のおそれがある態勢で同船に向首接近する状況となったが頭島に向けて東行中に松島水道方面を一べつしたとき、和丸が小型で波間に紛れるかしていて、同水道方面に他船を見掛けなかったところから、前路に他船はいないものと思い、船首を左右に振って前方を確認したり、操舵室上方の操縦席で操船したりするなど、船首死角を補う見張りを十分に行うことなく、この状況に気付かずに操舵室内の操縦席に腰掛けたまま続航した。
こうして幸生丸は、漂泊している和丸を避けずに進行中、14時20分南灯台から332度1,200メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首が和丸の左舷船首部に後方から27度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は低潮時であった。
また、和丸は、松島周辺で一本釣り漁業に従事する和船型FRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、かさごなどを獲る目的で、船首尾とも0.15メートルの喫水をもって、同日08時ごろ大瀬戸町雪浦下釜郷の係留地を発した。
08時10分B受審人は、松島東岸沖のナデ碆付近の釣り場に至り、手釣りで操業を始め、その後同碆周辺を転々と場所を変えながら操業したのち、14時05分多数の船舶が近くを通航する松島水道南口の前示衝突地点に移動し、パラシュート型シーアンカー(以下「パラアンカー」という。)を投じ、アンカーロープを約10メートル延出して船首端に固縛し、折からの風に船首を立てて漂泊を始め、船尾端右舷側に前方を向いて腰掛け、再び手釣りを始めた。
ところで、和丸は、乾舷が低く、船首付近に高さ約1.8メートルの細い木製マストがあるのみで、汽笛の装備が無く、その代用となる信号設備もないことから、B受審人は、平素は自船に向首接近する他船があれば、パラアンカーを絞って、自らが早めに避ける措置を講じていた。
14時15分ごろB受審人は、幸生丸が南灯台に接近するのを認め、同船を見慣れていたので、同船が南灯台の瀬で釣り客を収容したのち、いずれ自船の近くを北上することを知ったが、平素から幸生丸及び他の瀬渡し船が漂泊中の自船を避けてくれていたことから、幸生丸が漂泊中の自船を避けて通過して行くものと思い、幸生丸に対する動静監視を十分に行うことなく、その後同船が衝突のおそれがある態勢で自船に向首接近する状況となったことに気付かないまま釣りに没頭中、同時20分わずか前ふと左舷船尾方を見たところ、幸生丸が至近に迫っているのを認め、衝突を避けるため船外機を始動しようとしたものの、あわてていて始動することができず、立ち上がって海中に飛び込もうとしたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、幸生丸は、船尾船底外板の擦過傷と推進器の欠損を生じ、和丸は、左舷船首部を大破するなどして廃船となり、B受審人が、左肩骨折、頸椎捻挫などを負った。

(原因)
本件衝突は、長崎県松島水道南口付近において、北上中の幸生丸が、見張り不十分で、漂泊中の和丸を避けなかったことによって発生したが和丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、長崎県松島水道南口付近を東行して頭島から南方に拡延する瀬に至り、同瀬で釣り客を収容したのち、同水道を船首が浮上した状態で北上する場合、船首方に死角を生じて前方を見通せなかったから、前路の他船を見落とさないよう、船首を左右に振って前方を確認したり、操舵室上方の操縦席で操船したりするなどの船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、同瀬に向けて東行中、同水道方面に他船を見掛けなかったところから、前路に他船はいないものと思い、船首死角を補う見張りを十分行わなかった職務上の過失により、和丸の存在に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、幸生丸に推進器の欠損などを、和丸に左舷船首部大破などの廃船となる損傷をそれぞれ生じさせ、B受審人に左肩骨折などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、長崎県松島水道南口付近の多数の船舶が通航する海域において、手釣りによる操業を行うため、パラアンカーを投じて漂泊中、頭島南方に拡延する瀬に向かう幸生丸を認めた場合、いずれ同船が自船の近くを北上することを知っていたのであるから、幸生丸に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、平素、幸生丸や他の瀬渡し船が漂泊中の自船を避けてくれていたことから、いずれ幸生丸が自船を避けて通過して行くものと思い、幸生丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、釣りに没頭していて同船が自船に向首したまま接近する状況となったことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに衝突を招き、前示の損傷等を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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