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1999年(平成11年)

平成10年長審第73号
    件名
漁船第八十八大生丸漁船信漁丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年5月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

原清澄、保田稔、坂爪靖
    理事官
畑中美秀

    受審人
A 職名:第八十八大生丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:信漁丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大生丸…損傷なし
信漁丸…左舷側中央部外板から上甲板にかけて亀裂を生じて転覆、機器に濡れ損、船長が全身打撲

    原因
大生丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
信漁丸…見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第八十八大生丸が、見張り不十分で、漂泊中の信漁丸を避けなかったことによって発生したが、信漁丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月26日05時45分
長崎県三重式見港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八十八大生丸 漁船信漁丸
総トン数 19.97トン 1.6トン
登録長 16.66メートル 7.49メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 58キロワット
漁船法馬力数 130
3 事実の経過
第八十八大生丸(以下「大生丸Jという。)は、網船、灯船2隻、運搬船2隻及び作業船1隻からなるまき網漁業船団所属の中央船橋型木製漁獲物運搬船で、A受審人及びB指定海難関係人のほか二人が載り組み、平成10年8月25日19時00分長崎県小串漁港を発し、同日22時ごろ同船団が操業中の同県五島列島中通島西岸沖合の漁場に至り、さば、いわしなど約1.5トンを積み取ったのち、水湯げの目的で、船首1.00メートル船尾1.58メートルの喫水をもって、翌26日00時30分漁場を発進し、同県三重式見港に向かった。
A受審人は、航行中の動力船が表示する法定灯火を点灯し、漁場と水揚げ港間の航海時間か短いことから、1人で船橋当直を行うっもりであったが、01時ごろ狭水道通航のため飯ノ瀬戸入口付近でB指定海難関係人を機関操縦配置に就け、飯ノ瀬戸及び若松瀬戸を南下したのち、02時17分五島悼埼灯台から180度(真方位、以下同じ。)800メートルの地点に達したとき、針路を三重式見港港口付近に向く091度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力として手動操舵で進行した。
02時26分半A受審人は、五島長ナ瀬灯標を左舷正横1,600メートルに見るようになったとき、在橋中のB指定海難関係人にしばらくの間船橋当直を行わせることにし、操舵室後部の船横方向に設けた寝台で休息した。
船橋当直を引き継いだB指定海難関係人は、02時45分ごろたまたま昇橋した甲板員と船橋当直を交替して降橋し、自らもしばらくの間休息をとり、05時15分ごろ再び昇橋し、A受審人から引き継いだ針路を確かめたのち、当直中の甲板員と船橋当直を交替し、操舵室の舵輪のやや右側に立ち、周囲の見張りと操船にあたって続航した。
05時35分A受審人は、ノ瀬灯標から266度4.0海里の地点に達したとき、自ら入港操船の指揮を執るため寝台から起き出し、寝台脇の左舷船尾側に装備したGPSプロッターで三重式見港に接近しているのを確かめたのち、高さが約75センチメートルの寝台の縁にB指定海難関係人と2人で寄りかかり、3マイルレンジとしたレーダーと肉眼とでほぼ同時に左舷前方から急接近する反航船を認め、同船の動静監視を続けながら船首方を向いてしばらく同人と雑談をかわし、同船が左舷側至近を航過するのを確認したのち、同時40分ノ瀬灯標から265度3.3海里の地点に達したとき、小用を足すため船尾部に設けた仮設便所に行くことにし、寝台の縁に寄りかかって見張りを行うと操舵室前面の窓枠や船首部の鳥居マストなどで前方の見通しが悪くなるのは知っていたが、反航船の動静監視に気をとられ、また、レーダーの船首輝線を表示させていたこともあって、正船首1,300メートルのところで漂泊中の信漁丸に気付かないまま、前路に他船はいないものと思い、同人に対して周囲の見張りを十分に行い、周囲に他船を認めたときにはその旨を知らせるよう指示することなく、同時40分少し過ぎ同人に船橋当直を委ねて降橋した。
A受審人が降橋したのち、B指定海難関係人は、再び単独の船橋当直を行うこととなったが、A受審人がすでに起きていたことでもあり、20年来の持病の腰痛で長く立っているのが辛いという事情もあったことから、船首尾線よりやや右舷側の寝台の縁に寄りかかった姿勢をとったまま同当直にあたり、不調となっていた海水ポンプのことが気になって、レーダーを活用するとか、体を左右に移動するとかして前路の見張りを十分に行なわなかったので、折から日出直前の薄明時で、前路で作業灯などを点灯して漂泊中の信漁丸に気付かないまま続航した。
大生丸は、05時45分わずか前A受審人が小用を足し終え、昇橋して間もなく、B指定海難関係人が窓枠によって生ずる死角から出た信漁丸を初め視認し、同人から前方に他船がいる旨の報告を受けた同受審人が急ぎ左舵一杯とし、同指定海難関係人が機関を中立、続いて全速力後進にかけたが、及ばず、05時45分ノ瀬灯標から263.5度2.6海里の地点において、原針路、原速力のまま、その左舷船首部が信漁丸の左舷中央部外板に前方から69度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期で、日出は05時51分であった。
また、信漁丸は、刺網漁に従事するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、前日設置した刺網を揚網する目的で、船首0.35メートル船尾0.70メートルの喫水をもって、同月26日04時40分三重式見港を発し、05時05分同港に出入航する船舶の航路筋にあたる前示衝突地点付近に至り、船橋上部のマスト頂部に黄色回転灯1個、右舷船首部の揚網ローラー上方に作業灯1個、全部上甲板上に作業灯1個をそれぞれ点じて揚網作業にかかり、たいなど約90キログラムを獲たのち、同時40分少し前衝突地点で同作業を終え、機関を中立回転として漂泊を始めた。
漂泊後、C受審人は、船首を340度方向に向首させたまま、前部上甲板左舷側で右舷方を向いて腰を下ろし、揚網中に取り外せなかった網にかかった漁獲物の取り外し作業を始め、05時40分左舷船首69度1,300メートルのところに、大生丸を視認でき、その後同船が衝突のおそれがある態勢で自船に向首接近する状況となったが、黄色回転灯や作業灯を掲げていたので、接近する他船は自船を避けてくれるものと思い、漁獲物を取り外すことに熱中し、周囲の見張りを十分に行うことなく、この状況に気付かないで同作業を続行した。
信漁丸は、C受審人が有効な音響による注意喚起信号を行うことも、機関を使用するなどの衝突を避けるための措置をとることもできないまま漂泊中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大生丸は、ほとんど損傷がなかったが、信漁丸は、左舷側中央部外板から上甲板にかけて亀裂を生じて転覆し、機器に濡れ損を生じ、のち修理された。また、C受審人は、転覆した同船に一時閉じ込められ、自力で脱出したものの、全身を打撲した。

(原因)
本件衝突は、日出前の薄明時、長崎県三重式見港西方沖合において、大生丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の信漁丸を避けなかったことによって発生したが、信漁丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
大生丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の船橋当直者に対し、前路の見張りを十分に行うように指示しなかったことと、無資格の船橋当直者が前路の見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、日出前の薄明時、長崎県三重式見港西方沖合において、同港に向けて東行中、仮眠を終えて自ら入航操船の指揮を執るため操舵室後部の寝台から起きたのち、小用を足すためにB指定海難関係人に船橋当直を委ねて降橋する場合、同寝台に寄りかかっていると同室前面の窓枠や船首部の鳥居マストなどで前方の見通しが悪くなるから、前路で漂泊中の他船を見落とすことのないよう、同人に対し、上体を左右に動かすなどして前路の見張りを十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、起床後、寝台の縁に寄りかかったまま左舷前方から急接近する反航船の動静監視に気をとられていたこともあって、前路で漂泊中の信漁丸に気付かず、前路に他船はいないものと思い、B指定海難関係人に対し、前路の見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、同人が同船に気付かないまま進行して衝突を招き、自船の左舷船首部に擦過傷を、信漁丸の左舷中央部外板に亀裂などを生じさせるとともに、同船を転覆させ、C受審人に全身打撲を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、日出前の薄明時、長騎県三重式見港西方沖合の漁場において、刺網を揚網したのち、同網から漁獲物の取り外し作業を行う場合、同漁場は同港への出入航船の航路筋にあたっていたのであるから、接近する他船を早期に発見できるよう、周囲の見張りを十分に行う注意義務があった。しかるに、同人は、魚獲物を取り外すことに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する大生丸に気付かないまま同作業を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷と負傷を被るに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規走により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が前路の見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、A受審人が見通しの利く海域において、衝突する5分ばかり前まで在橋していた点に徴し、勧告するまでもない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図(1)

参考図(2)






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