日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年長審第71号
    件名
油送船福豊丸漁船念力丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年5月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、原清澄、保田稔
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:福豊丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:念力丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
福豊丸…右舷船首部外板に軽微な凹損
念力丸…船首部を圧壊、船長が顔面、両下打撲傷等

    原因
福豊丸…横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
念力丸…見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、福豊丸が、前路を左方に横切る念力丸の進路を避けなかったことによって発生したが、念力丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月22日12時10分
長崎県脇岬港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 油送船福豊丸 漁船念力丸
総トン数 180トン 4.2トン
全長 43.62メートル 12.73メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 588キロワット 169キロワット
3 事実の経過
福豊丸は、航行区域を沿海区域とし、専ら長崎県長崎港で積載したA重油を同県対馬から鹿児島県屋久島間の諸港へ輸送する船尾船型鋼製油送船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首0.40メートル船尾2.60メートルの喫水をもって、平成10年7月22日09時45分熊本県三角港を発し、長崎港に向かった。
11時45分A受審人は、脇岬港南防波堤北灯台(以下「北灯台」という。)から097度(真方位、以下同じ。)4,7海里の地点で、一等航海士と船橋当直を交代して機関員を見張りに就かせ、樺鳥水道経由で目的地に向かうこととし,自動操舵のまま針路を274度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力としたのち、いったん降橋して昼食を済ませ、同時55分ごろ再び昇橋して機関員を昼食のため降橋させ、1人で操舵と見張りに当たって進行した。
12時00分A受審人は、北灯台から101度2.2海里の地点に達したとき、右舷船首6度2.0海里のところに、念力丸を視認し、その後、同船が停泊中であることを知った。
12時07分A受審人は、念力丸を右舷船首13度1,500メートルに見るようになったとき、同船が発進して自船の前路を左方に横切る態勢となり、その後、同船と方位がほとんど変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったのを認めたが、そのうち同船は左転して北右の陸岸沿いに航行していくものと思い、速やかに右転したり、機関を後進にかけて行きあしを止めたりするなどして同船の進路を避けることなく、手動操舵に切り換えただけで、同一針路、同一速力のまま続航した。
福豊丸は、念力丸の進路を避けないで進行中、12時09分同船の方位があまり変わらず420メートルに接近したとき、A受審人が衝突の危険を感じ、機関を全速力後進にかけるとともに短音を鳴らし続けたが、効なく、12時10分北灯台から119度1,100メートルの地点において、原針路のまま、ほとんど行きあしがなくなったとき、その右舷船首部に念力丸の船首が前方から29度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期に当たり、視界は良好であった。
また、念力丸は、船体中央からやや後方に操舵室を設けたFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、あかむつ延縄(はえなわ)漁を行う目的で、同日10時40分長崎県茂木港を発し鹿児島県下甑島東方沖合の漁場に向かう航行の途中、11時20分長崎県脇岬港に寄港して氷約0.5トンを積み込んだのち、船首0.80メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同時50分同港を発航した。
11時57分B受審人は、北灯台から110度400メートルの地点で、行きあしを止めて漂泊し、前部甲板上で氷倉から取り出した氷を食料を入れたクーラーボックスに入れたり、魚倉の中の餌(えさ)に被せたりする作業を行ったのち、操舵室の渡し板の上に立って天窓から顔を出し、12時07分発進して針路を123度に定め、機関を半速力前進より少し下げて7.6ノットの速力とし、手動操舵で進行した。
発進したとき、B受審人は、左舷船首16度1,500メートルのところに、前路を右方に横切る福豊丸を視認でき、その後、同船とほとんど方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが右舷前方の甲ノ瀬を替わすことに気をとられ、周囲の見張りを十分に行うことなく、同船の存在に気付かないまま続航した。
念力丸は、避航する気配を見せないで接近する福豊丸に対し、速やかに警告信号を行うことも、間近に接近したとき機関を後進にかけて行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとることもできないまま、12時09分半わずか前B受審人が甲ノ瀬を右舷側約430メートルに替わして間もなく操舵室の床に降りてGPSプロッターを操作中、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、福豊丸は、右舷船首部外板に軽微な凹損を生じたのみであったが、念力丸は、船首部を圧壊し、のち修里された。また、B受審人は、衝突の衝撃で顔面、両下腿打撲傷等を負った。

(原因)
本件衝突は、長崎県脇岬港東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、樺島水道に向けて西行中の福豊丸が、前路を左方に横切る念力丸の進路を避けなかったことによって発生したが、漁場に向けて東行沖の念力丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、長崎県脇岬港東方沖合において、樺島水道に向けて西行中、右舷前方に漂泊中の念力丸を視認し、その後同船が発進して自船の前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったのを認めた場合、速やかに右転したり、機関を後進にかけて行きあしを止めたりするなどして同船の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうち念力丸が左転して北方の陸岸沿いに航行していくものと思い、同船の進路を避けなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、福豊丸の右舷船首部外板に軽微な凹損を、念力丸の船首部に圧壊を生じさせ、B受審人に顔面、両下腿打撲傷等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、長崎県脇岬港東方沖合において、漂泊状態から発進したのち漁場に向けて東行する場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷前方の甲ノ瀬を替わすことに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左方から衝突のおそれがある態勢で接近する福豊丸に気付かず、速やかに警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもできないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自ら負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION