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1999年(平成11年)

平成10年門審第97号
    件名
貨物船福栄丸漁船進栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年9月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

阿部能正、供田仁男、清水正男
    理事官
伊東由人

    受審人
A 職名:福栄丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:進栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
福栄丸…右舷中央部付近に凹損
進栄丸…船首上部が大破、船長が約3週間の通院加療を要する右上肩打撲など

    原因
福栄丸…動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
進栄丸…動静監視不十分、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、福栄丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る進栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、進栄丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月26日15時30分
周防灘西部
2 船舶の要目
船種船名 貨物船福栄丸 漁船進栄丸
総トン数 195トン 4.55トン
全長 54.45メートル
登録長 11.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 404キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
福栄丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長C及びA受審人ほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首1.0メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成9年8月26日12時40分関門港若松区を発し、広島港に向かった。
ところで、福栄丸の船橋当直は、00時から06時までと12時から18時までをA受審人、06時から12時までと18時から24時までをC船長がそれぞれ担当する単独2直制をとっていた。
A受審人は、発航時からC船長と共に船橋当直に就いて関門海峡を東行し、13時52分同海峡東口において、同船長が降橋したことから単独で当直に当たって周防灘を東行し、15時07分本山灯標から215度(真方位、以下同じ。)1,700メートルの地点で、針路を095度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.2ノットの対地速力(以下速力は対地速力である。)で進行した。
A受審人は、15時25分亀ケ瀬灯標から164度3.2海里の地点に達したとき、右舷船首15度1.6海里のところに前路を左方に横切る進栄丸を初めて視認したが、同船の速力が速いように感じたことから、前方を無難に替わるものと思い、衝突のおそれがあるかどうかをコンパスの方位変化を確かめるなどして、その動静監視を行うことなく、続航した。
A受審人は、その後進栄丸の方位がほとんど変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近したものの、依然動静監視不十分で、これに気付かず、進栄丸の進路を避けることなく、進行し、15時29分半わずか過ぎ同船が右舷船首15度200メートルに迫ったとき、ようやく衝突の危険を感じ、動操舵に切り替えて左舵一杯を取ったけれども、とき既に遅く、15時30分亀ケ瀬灯標から150度3.6海里の地点において、福栄丸は、075度を向き、原速力のまま、その右舷中央部付近に、進栄丸の右舷船首が前方から55度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南西の風が吹き、視界は良好であった。
衝突を知ったC船長は、ただちに昇橋して事後の処理に当たった。
また、進栄丸は、底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日05時30分山口県宇部岬漁港を発し、同港南東方沖合10海里付近の漁場に至って操業を行い、100キログラムの漁獲を得て、15時20分亀ケ瀬灯標から146度5.0海里の地点を発進して帰途に就いた。
発進直後、B受審人は、針路を320度に定めて自動操舵とし、8.5ノットの速力で進行したところ、15時25分亀ケ瀬灯標から146.5度4.3海里の地点に達したとき、左舷船首30度1.6海里のところに福栄丸を初めて視認し、同船が前路を右方に向かって航行していることから、福栄丸を無難に航過させることとして、同船の方に向けて左転し、針路を310度に転じたところ、福栄丸を左舷船首20度に認める状況となったが、左転したから大丈夫と思い、その後その動静監視を十分に行うことなく、自動操舵としたまま操舵室を離れて船尾甲板に赴き、漁具の片付けを始めた。
B受審人は、その後福栄丸の方位がほとんど変わらないまま、衝突のおそれがある態勢で接近したものの、依然として動静監視不十分で、これに気付かずに漁具の片付けを続け、15時29分同船が避航動作をとらないまま570メートルに迫ったにもかかわらず、機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらずに同じ針路、速力で続航し、同時30分わずか前福栄丸を船首至近に認めたけれども、どうすることもできず、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、福栄丸は右舷中央部付近に長さ40センチメートル幅40センチメートル深さ5センチメートルの凹損を生じ、進栄丸は船首上部が大破したが、のち修理された。また、B受審人は、約3週間の通院加療を要する右上肩打撲などを負った。

(原因)
本件衝突は、周防灘西部において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、福栄丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る進栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、進栄丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、単独で船橋当直に就き、周防灘西部を東行中、前路を左方に横切る進栄丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、方位の変化を確かめるなど、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船の速力が速いように感じたことから、前方を無難に替わるものと思い、動静監視を十分行わなかった職務上の過失により、進栄丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けないまま進行して、進栄丸との衝突を招き、福栄丸の右舷中央部付近に凹損を生じさせ、進栄丸の船首上部を大破させ、B受審人に右上肩打撲などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、単独で乗り組んで操船に当たり、周防灘西部を漁場から宇部岬漁港に向かって北上中、左舷船首方から接近する福栄丸を認め、同船を無難に航過させることとして同船の方に向けて転針した場合、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左転したから大丈夫であろうと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、福栄丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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