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1999年(平成11年)

平成10年広審第10号
    件名
漁船長栄丸漁船第二かいせい丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年5月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

黒岩貢、釜谷獎一、横須賀勇一
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:長栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第二かいせい丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
長栄丸…船首部に亀裂
かいせい丸…右舷船首部に破口

    原因
長栄丸…見張り不十分、各種船間の航法(衝突回避措置)不遵守(主因)
かいせい丸…見張り不十分、警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、長栄丸が、見張り不十分で、漁労に従事する第二かいせい丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第二かいせい丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年6月13日13時50分
安芸灘
2 船舶の要目
船種船名 漁船長栄丸 漁船第二かいせい丸
総トン数 9.7トン 4.4トン
登録長 14.82メートル 10.53メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120 15
3 事実の経過
長栄丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成9年6月13日04時00分広島県鹿老渡島北方沖合の錨地を発し、同島東方沖合1海里ばかりの漁場に至り、1ノットばかりの速力で引き縄による一本釣り漁を開始した。
A受審人は、十数回の引き縄により太刀魚50キログラムを漁獲したのち、同県豊島漁港への帰途に就くこととし、13時38分安芸センガイ瀬灯標から063度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点において、針路を063度に定め、機関を12.0ノットの半速力前進にかけて手動操舵により進行した。
帰途に就いたころA受審人は、操舵室の右舷側に立って前路の見張りを行ったものの、近くに他船を見かけなかったことから、操舵室内に入ってプロッタにより帰港地までの距離を測っていたところ、13時48分安芸センガイ瀬灯標から063度3.3海里の地点に達したとき、正船首750メートルに、漁労中であることを示す形象物を掲げ、ほぼ停止状態で揚網中の第二かいせい丸(以下「かいせい丸」という。)を視認し得る状況となり、その後同船に向け衝突のおそれのある態勢で接近したが、前路に他船はいないものと思い、プロッタの操作に気を奪われ、見張りを十分に行っていなかったので、かいせい丸に気付かず、漁労に従事する同船の進路を避けないまま続航中、13時50分長栄丸は、安芸センガイ瀬灯標から063度3.7海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が、かいせい丸の右舷前部にほぼ真横から衝突し、同船に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期であった。
また、かいせい丸は、小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日07時00分同県音戸漁港を発し、倉橋島亀ヶ首東方の漁場に向かった。08時ごろ漁場に着いたB受審人は、漁労中であることを示す形象物を掲げ、先端に漁網を取り付けた長さ250メートルの曳索を船尾から延出し、約3.0ノットの速力で25分ほど曳網したのち揚網するという方法で操業を開始した。
13時24分B受審人は、当日第7回目の曳網を亀ヶ首の東方1,500メートルばかりの地点から南東方に向けて開始し、13時48分前示衝突地点付近に達したとき操業を中断して揚網することとし、巻取機の操作のため右舷側を背にして同機の脇に立ち、船首を153度に向けて機関を微速力前進にかけ、対水速力がない状態で揚網作業を開始した。
そのころB受審人は、右舷正横740メートルに自船に向けて来航する長栄丸を視認し得る状況となり、その後同船が自船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近したが、揚網作業に気を奪われ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、長栄丸に気付かず、警告信号を行わないで揚網中、かいせい丸は、153度を向いたまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、長栄丸は、船首部に亀裂を生じ、かいせい丸は、右舷船首部に破口を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、安芸灘において、長栄丸が、見張り不十分で、漁労に従事するかいせい丸の進路を避けなかったことによって発生したが、かいせい丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、倉橋島沖合を航行する場合、正船首方で漁労に従事するかいせい丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、かいせい丸への接近に気付かず、漁労に従事する同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、長栄丸の船首部に亀裂を、かいせい丸の右舷船首部に破口をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、倉橋島沖合で漁労に従事する場合、自船に向首接近する長栄丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、揚網作業に気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、長栄丸の接近に気付かず、警告信号を行うことなく揚網作業を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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