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1999年(平成11年)

平成10年横審第61号
    件名
貨物船第二あおば丸漁船熊野丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年2月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

猪俣貞稔、勝又三郎、河本和夫
    理事官
長谷川峯清

    受審人
A 職名:第二あおば丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:熊野丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
あおば丸…損傷なし
熊野丸…右舷船首部ハンドレールを損傷、前部マストを折損

    原因
熊野丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
あおば丸…警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、熊野丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第二あおば丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第二あおば丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月10日03時40分
千葉県布良鼻(めらばな)沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二 あおば丸漁船熊野丸
総トン数 499トン 4.6トン
全長 75.97メートル 13.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 279キロワット
3 事実の経過
第二あおば丸(以下「あおば丸」という。)は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、砂1,540トンを積載し、船首3.84メートル船尾446メートルの喫水をもって、平成9年11月8日12時50分北海道白老港を発し、木更津港に向かい、翌々10日03時10分野島埼灯台から180度(真方位、以下同じ。)2.2海里の地点において、航行中の法定灯火を表示し、針路を270度に定め、機関を全速力前進にかけ、13ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
A受審人は、03時30分布良鼻灯台から198度3.2海里の地点で、船橋当直に就き、左舷船首25度1.4海里のところに熊野丸の白、緑2灯を初めて認め、同船が洲埼方面に向けて北上しているのを見ながら、同時31分同灯台から203度3.3海里の地点で、浦賀水道航路に向ける314度に針路を転じたところ、同時32分同船を左舷船首65度1海里に見るようになり、同船が自船の前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していたが、警告信号を行わずに続航した。
03時38分A受審人は、熊野丸が避航動作をとらずに、方位が変らないまま500メートルばかりに接近し、同船の動作のみでは衝突を避けることができなし状況になったことを知ったが、漁船は小回りがきくから、そのうち自船の船尾に向けるであろうと思い、速やかに右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらず、依然同針路、同速力で進行中、同時40分少し前熊野丸が左舷船首至近に迫ったとき、ようやく衝突の危険を感じ、機関停止、右舵15度をとったが、及ばず、03時40分布良鼻灯台から238度3.1海里の地点において、あおば丸は、330度を向いたその左舷船首部が、熊野丸の右舷船首部に後方から約18度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、海上は平穏であった。
また、熊野丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.1メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、同月9日15時305千葉県富浦漁港を出て、布良鼻の南方沖合漁場において、夜間操業を行い、キンメダイ約60キログラムを漁獲して操業を打ち切り、翌10日03時14分布良鼻灯台から193度7海里の地点を発し、航行中の法定灯火を表示して帰途に就き、針路を348度に定め、機関を半速力前進にかけ、12ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
B受審人は、踏み台の上に立ち操舵室天井の開口部から顔を出して見張りに当たり、自船の船首を州埼灯台に向けていて右舷側方は陸岸に近寄っていたことから、浦賀水道航路を南下してくる大型船の航路筋にあたる左舷船首方を注視しながら続航した。
03時32分B受審人は、布良鼻灯台から216度3.9海里の地点に達したとき、右舷船首81度1海里のところに北上中のあおば丸を視認することができ、その後同船が自船の前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、大型船の航路筋にあたる左舷船首方に気を奪われ、右舷側方の見張りが不十分となり、あおば丸の接近に気付かず、同船の進路を避けずに進行中、同時40分わずか前右舷正横前至近に迫ったあおば丸を初めて認め、急いで機関中立としたが及ばず、同針路、同速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、あおば丸に損傷はなかったが、熊野丸は右舷船首部ハンドレールを損傷したほか前部マストを折損し、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、両船が布良鼻沖合を浦賀水道航路に向け航行中、熊野丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切るあおば丸の進路を避けなかったことによって発生したが、あおば丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、布良鼻沖合を浦賀水道航路に向けて東京湾に入湾する場合、航行船の針路が収束する水域であるから、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、自船の針路が右舷側陸岸に近寄っていることから、大型船の航路筋にあたる左舷船首方に気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切る態勢で接近するあおば丸に気付かず、その進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、熊野丸の右舷船首部ハンドレールを損傷したほか前部マストを折損するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、布良鼻沖合を浦賀水道航路に向け航行中、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢の熊野丸を認め、同船が避航措置をとらないまま接近し、同船の避航動作のみでは衝突を避けることができない状況になったことを知った場合、速やかに右転するなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、漁船は小回りがきくから、そのうち自船の船尾に向けるであろうと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行して熊野丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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