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1999年(平成11年)

平成10年神審第5号
    件名
押船第十八大清丸被押作業船第8太清丸漁船第2金光丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年6月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

西田克史、佐和明、工藤民雄
    理事官
竹内伸二

    受審人
A 職名:第十八大清丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第十八大清丸甲板長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:第2金光丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大清丸被坤作業船…損傷なし
金光丸…前部両舷外板及び操舵室等が損傷、機関等に濡れ損、船長が左腕に打撲傷

    原因
大清丸被押作業船…見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
金光丸…見張り不十分、警告信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第十八大清丸被押作業船第8太清丸が、見張り不十分で、漁労に従事している第2金光丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第2金光丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月12日22時40分
神戸港
2 船舶の要目
船種船名 押船第十八大清丸 作業船第8太清丸
総トン数 19トン 1,174トン
全長 13.45メートル 50.00メートル
幅 19.00メートル
深さ 3.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 323キロワット
船種船名 漁船第2金光丸
総トン数 4.99トン
登録長 11.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
第十八大清丸(以下「大清丸」という。)は、鋼製押船で、A及びB両受審人ほか6人が乗り組み、船首0.8メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、船首2.0メートル船尾2.5メートルの喫水となった、非自航式鋼製作業船第8太清丸(以下「作業船」という。)の船尾凹部に船首部を油圧式のピンにより結合させて全長約63メートルとし、平成8年7月12日09時00分高知県佐喜浜港を発し、神戸港に向かった。
大清丸被押作業船は、これまで高知県内の各港において港湾土木作業に従事していたが、前年の阪神淡路大震災で被害を受けた神戸港の復旧工事に当たるため、同港に回航することとなった。そのため、A受審人は、神戸港内の水路事晴に不案内である前任船長に代わって回航時の船長職を執るために臨時に雇い入れられ、前々10日に同船に乗り組んだものであった。
ところで、作業船の船尾部には、甲板上の高さ約5メートルで長さ約8メートル幅約14メートルの居住区画があって、その屋上の左舷寄りに長さ約2.5メートル幅約4メートルの操舵室が設けられており、同室において、大清丸からキャブタイヤコードにより引き込んだ主機及び舵の遠隔操縦装置を使用して操船に当たることができるようになっていた。そして、同船の船首中央部には、甲板上の高さ約5.6メートルのクレーン機械室があってジブの長さが約34メートルのクレーン1基を備え、ジブの左右両側には、会社名入りの看板が取り付けられて隙間がなく、その先端が操舵室右方の居住区画の屋上に据え付けられた架台にほぼ水平に下ろされていたので、操舵室からの見通しは、機械室及びジブによって妨げられ、右舷船首約10度から右舷正横にかけて死角を生じていた。
A受審人は、船橋当直を自らと引き続き乗船している前任船長とにそれぞれ見張員1人を付けた2直制とし、18時00分友ケ島南方沖合において、見張員のB受審人とともに当直に就き、大清丸に垂直に連掲したマスト灯2個、両舷及び船尾灯並びに作業船の前部にマスト灯1個及び後部に両舷灯をそれぞれ,点灯し、操舵室右舷寄りに設けたいすに腰を掛けて見張りと操船に当たって大阪湾を北上した。
22時04分A受審人は、神戸港第1南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から197度(真方位、以下同じ。)4.0海里の地点に至り、神戸港内の適当なところで錨泊するつもりで、同港第2航路入口付近に向けて針路を027度に定め、機関を全速力前進にかけ、6.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
22時31分A受審人は、南防波堤灯台から174度1.3海里の地点に達したとき、右舷船首18度1.0海里に、漁労に従事する第2金光丸(以下「金光丸」という。)の緑、白2灯及び紅灯のほか作業灯を認めることができ、その後、その方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、付近に他船はいないものと思い、南防波堤灯台及び工事用ブイの各灯火やGPSの船位の表示に注目しながら錨泊場所を探すことに気を取られ、B受審人に対して見張り位置を移動して見張りを行うよう指示するとか、自ら見張り位置を移動するなどして右方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、同船を視認することができず、その進路を避けることなく、同じ針路、速力のまま神戸港港域内を続航した。
一方、B受審人は、船橋当直に就いてしばらくの間、時折、操舵室から出て同室右方の居住区画の屋上に置かれたジブ先端の右側まで移動して見張りを行っていたものの、そのうち気になるような他船も見当たらなくなったので、以後操舵室内において見張りをするようになった。こうして同人は、22時31分右舷船首18度1.0海里に、漁労に従事している金光丸の灯火を認めることができ、その後、その方位がほとんと変わらないまま衝突のおそれがある態勢で接近したが、付近に他船はいないものと思い、ジブ先端の右側まで見張り位置を移動するなど右方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、金光丸に気付かなかった。
22時37分A受審人は、南防波堤灯台から151度1,550メートルの地点で錨泊場所を決めようと機関を止め、GPSで測定した船位を海図に当たってもう少し東寄りに移動することとし、同時39分金光丸が右舷船首38度130メートルに接近していたものの、依然見張りを行っていなかったので、同船に気付かないまま右舵15度をとり、機関を2.5ノットの微速力前進にかけて右転を始めた。
また、B受審人は、A受審人が海図を見ながら間もなく投錨すると言うのを聞いて、休息中の乗組員にこのことを知らせるため操舵室の後側に設けられた外階段を降りて居住区画に向かい、連絡を終えて再び昇橋のため外階段を昇っていたところ、22時40分少し前居住区画の屋上とジブとの隙間から右舷船首至近に金光丸の明るい灯光を目にして大声を上げ、その声でA受審人が直ちに機関を停止としたが及ばず、22時40分南防波堤灯台から142度1,400メートルの地点において、大清丸被押作業船は、約2.0ノットの前進行き脚をもってその船首が044度を向いたとき、作業船の右舷船首部に、金光丸の左舷船首が前方から39度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、金光丸は、小型機船底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.1メ1一トル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日18時00分神戸港内の兵庫区金平町の船だまりを発し、同港沖合の漁場に向かった。
C受審人は、18時15分和田岬沖合に到着して操業を始め、日没時に垂直に連掲した緑、白2灯、両舷灯及び船尾灯のほか数個の作業灯を,点灯してトロールによる操業を繰り返し、5回目の投網を終えて長さ150メートルのワイヤ製の曳網索1本を船尾に引き、22時25分南防波堤灯台から116度1.2海里の地点で、針路を263度に定め、機関を回転数毎分2,600にかけ、2.5ノットの曳網速力で手動操舵により進行した。
22時30分C受審人は、操舵室後方の左舷側に備えられた遠隔操舵装置の舵を中央にして曳網により同針路を保持し、前路に他船を認めなかったのでそのまま後部甲板に赴き、後方を向いて中腰の姿勢で漁獲物の選別作業に取りかかった。
それから間もない22時31分C受審人は、南防波堤灯台から124度1.0海里の地点に達したとき、左舷船首38度1.0海里に北上中の大清丸被押作業船の動力船の灯火を視認できる状況で、その後、その方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、操舵位置を離れる際に前路を一瞥(いちべつ)しただけで航行船はいないものと思い、後部甲板においで漁獲物の選別作業に専念し、周囲の見張りを十分に行わなかったので大清丸被押作業船に気付かず、警告信号を行うことも同船が間近に接近したとき機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
こうして、C受審人は大清丸被押作業船の存在に全く気付かず、同じ針路及び速力で曳網するうち、突然衝撃を感じ、金光丸は、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大清丸被押作業船にはほとんど損傷がなく、金光丸は、大清丸被押作業船に押されるようにして右舷側から横転し、前部両舷外板及び操舵室等が損傷するとともに機関等に濡れ損を生じ、海中に投げ出されたC受審人が左腕に打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、神戸港において、大清丸被押作業船が、見張り不十分で、トロールにより漁労に従事している金光丸の進路を避けなかったことによって発生したが、金光丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、神戸港において、見張員とともに船橋当直に当たる場合、操舵室からでは、前方のクレーン機械室及び操舵室の右側までほぼ水平に下ろされたジブによって右舷船首から右舷正横方にかけて死角を生じていたから、金光丸を見落とすことのないよう、見張員に対して見張り位置を移動して見張りを行うよう指示するとか、自ら見張り位置を移動するなどして右方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、付近に他船はいないものと思い、南防波堤灯台及び工事用ブイの各灯火やGPSの船位の表示に注目しながら錨泊場所を探すことに気を取られ、見張員に対して見張り位置を移動して見張りを行うよう指示するとか、自ら見張り位置を移動するなどして右方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、トロールにより漁労に従事している金光丸に気付かず、その進路を避けないで進行して同船との衝突を招き、金光丸を横転させて同船の前部両舷外板及び操舵室に損傷並びに機関等に濡れ損を生じさせ、C受審人に打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間神戸港において、見張員として船橋当直に当たる場合、前示のとおり死角を生じていたのであるから、金光丸を見落とすことのないよう、ジブ先端の右側まで見張り位置を移動するなどして右方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、付近に他船はいないものと思い、ジブ先端の右側まで見張り位置を移動するなどして右方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、トロールにより漁労に従事している金光丸に気付かずに同船との衝突を招き、前示のとおり金光丸に損傷及び機関等に濡れ損を生じさせ、C受審人を負傷させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、神戸港において、トロールにより漁労に従事して曳網する場合、大清丸被押作業船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操舵位置を離れる際に前路を一瞥しただけで航行船はいないものと思い、後部甲板において漁獲物の選別作業に専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、大清丸被押作業船に気付かず、警告信号を行うことも、同船が間近に接近したとき機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して同船との衝突を招き、前示のとおり自船に損傷及び機関等に濡れ損を生じさせ、自らが負傷するに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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