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1999年(平成11年)

平成11年長審第3号遊漁船祐福丸漁船第二やまと丸衝突事件
    件名
遊漁船祐福丸漁船第二やまと衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年9月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

原清澄、保田稔、坂爪靖
    理事官
畑中美秀

    受審人
A 職名:祐福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第二やまと丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
祐福丸…左舷船首外板破口、推進器曲損
やまと丸…船橋及び機関室上部カバーを圧壊、左舷側中央部外板に破口を生じて機関室に浸水、のち廃船、乗客1人が前頭部割創及び右膝部外側打撲、船長が左大腿部を打撲

    原因
祐福丸…狭い水道の航法(右側通行)不遵守、速力過大、動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
やまと丸…狭い水道の航法(右側通行)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、祐福丸が、狭い水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか、過大な速力のまま航行し、かつ、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第二やまと丸が狭い水道の右側端に寄って航行しなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月10日14時05分
熊本県天草郡五和町通詞島大橋下
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船祐福丸 漁船第二やまと丸
総トン数 3.2トン 0.8トン
全長 11.05メートル
登録長 7.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 136キロワット
漁船法馬力数 18
3 事実の経過
祐福丸は、航行区域を限定沿海区域とするFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、子供2人を含む乗客12人を乗せ、いるかの観察を行なう目的で、船首0.41メートル船尾0.43メートルの喫水をもって、平成9年5月10日12時00分熊本県二江漁港を発し、同時15分ごろ同県天草郡五和町通詞島北方沖合の小亀岩付近に至り、折から遊泳中のいるか群の動きに合わせて移動しながら乗客にいるかを観察させ、その後、昼食をとったのち、13時50分ごろ通詞島北西方2.3海里ばかりの地点を発進し、通詞大橋下を経由することとして帰途に就いた。
ところで、二江漁港と通詞島間の水道は、同漁港(通詞地区)西端から同島に向かって北方に突出する岬でへの字形に屈曲し、同岬が前路を遮って見通しが利かない狭い水道で、同屈曲部に架けられた通詞大橋の通詞島側に1基、二江側に2基それぞれ設置された橋脚により、可航幅が約70メートルと狭められていた。
発進後、A受審人は、肥後延瀬西灯浮標の東方沖に向けて南下し、同灯浮標を右舷側170メートルばかりに見て航過したのち、七通瀬灯標付近から東方に向けて設置された真珠養殖筏に沿って東行し、14時04分二江港2号防波堤灯台から276度(真方位、以下同じ。)1,080メートルの地点(以下「甲点」という。)から237度720メートルの地点に達したとき、針路を通詞大橋二江側の水道中央寄りの橋脚を右舷側に10メートルばかり離すこととなる032度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に抗して18.2ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
14時04分半A受審人は、甲点から258度420メートルの地点に達したとき、右舷船首4度300メートルばかりの通詞大橋東側に、二江漁港(通詞地区)西端の岬の陰から現れ、水道の屈曲部を斜航して北上する第二やまと丸(以下「やまと丸」という。)を初認したが、同船は同漁港で速力が一番遅い船であることを知っていたので、同船の前路を無難に航過できるものと思い、速やかに速力を減じることも、水道の右側端に寄って航行することもなく続航し、同時04分半わずか過ぎ甲点から269度360メートルの地点に達したとき、同船の前路を航過するため、針路を同大橋のほぼ通詞島側橋脚に向く020度に転じ、5度ばかり左方に圧流されながら進行した。
転針後、A受審人は、やまと丸の方位が変わらず、同船と衝突のおそれがある態勢で、互いに接近する状況となったが、依然同船の前路を航過できるものと思い、動静監視を十分に行わなかったので、この状況に気付かず、速やかに機関を停止したり、右舵一杯としたりするなどの衝突を避けるための措置をとることなく原針路、原速力のまま続航中、14時05分わずか前やまと丸が右舷船首方至近に迫ったのを認め、同船の後方を替わそうと急いで右舵一杯としたが、及ばず、14時05分甲点から299度360メートルの地点において、6度ばかり右に回頭したとき、祐福丸の左舷船首部がやまと丸の左舷船首部に前方から45度の角度をもって衝突し、同船を乗り切った。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期で、付近海域にはぼ西南西方に流れる約2.0ノットの潮流があった。
また、やまと丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.27メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、同日14時01分二江漁港(通詞地区)を発し、通詞大橋下を経て通詞島北西岸付近の漁場に向かった。
14時02分半B受審人は、甲地点から355度30メートルの防波堤入口に達したとき、水道に入って航行することとなったが平素から水道を直角に横断する針路をとらないで、水道を斜航する針路をとって航行していて支障がなかったので、今回も大丈夫と思い、速やかに水道の右側端に寄せて航行することなく、針路をほぼ通大橋の通詞島側橋脚に向く302度に定め、機関を4.0ノットの微速力前進にかけて手動操舵とし、折からの潮流で次第に左方に圧流されながら、5.4ノットの対地速力で進行した。
14時04分半B受審人は、甲点から303度280メートルの地点に達したとき、左舷船首86度300メートルのところに岬の陰から現れ、通詞大橋の二江側橋脚に向けて北上中の祐福丸を初認したが同船がわずかに自船の船尾方に向首しているように見えたので、自船を避けて行くものと思って続航した。
14時04分半わずか過ぎB受審人は、通詞大橋直下に達したとき、祐福丸の船首が依然自船の船尾方を向いているように見えたので、原針路、原速力を保ったまま進行し、14時05分わずか前左舵をとって予定の251度針路に転じ終えたのち、同船が自船に気付いているものと思い、機関を中立運転とし、行きあしをほとんど停止して同船を見守るうち、同船が針路を変更しないで自船に迫ってくるのが分かり、危険を感じて機関を全速力後進にかけたが及ばず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、祐福丸は、左舷船首外板破口、推進器曲損などを生じ、やまと丸は、船橋及び機関室上部カバーを圧壊したのみならず、左舷側中央部外板に破口を生じて機関室に浸水し、のち祐福丸は修理されたが、やまと丸は修理費の関係で廃船とされた。また、乗客1人が前頭部割創及び右膝部外側打撲を負い、B受審人は左大腿部を打撲し、海中に投げ出されたが、転覆したやまと丸の船底につかまっているところを僚船に救助された。

(原因)
本件衝突は、熊本県二江漁港と同港沖合の通詞島間の屈曲した見通しの利かない狭い水道において、祐福丸が同水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか、過大な速力のまま航行し、かつ、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、やまと丸が、速やかに同水道の右側端に寄って航行しなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、熊本県二江漁港と同港沖合の通詞島間の屈曲した見通しの利かない峡い水道において、通詞大橋の西側を北上中、同大橋東側を斜航して北上するやまと丸を視認した場合、同船と著しく接近することのないよう、速やかに速力を減じ、同水道の右側端に寄って航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、やまと丸が同港で速力が一番遅い船であることを知っていたので、同船の前路を無難に航過できるものと思い、速やかに速力を減じることも、同水道の右側端に寄って航行することもしなかった職務上の過失により、やまと丸に著しく接近したのち、同船の前路を航過しようと転舵進行して衝突を招き、自船の左舷船首部外板破口、やまと丸の左舷側中央部外板破口などを生じさせ、乗客1人に右膝部外側打撲傷、B受審人に左大腿打撲傷などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同去第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、熊本県二江漁港と同港沖合の通詞島間の屈曲した見通しの利かない狭い水道を西行しようとする場合、東行する他船と危険な関係に陥らないよう、速やかに同水道の右側端に寄って航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素から同水道を斜航する針路をとって航行していて支障がなかったので大丈夫と思い、速やかに同水道の右側端に寄って航行しなかった職務上の過失により、祐福丸に著しく接近して同船との衝突を招き、前示損傷と障害を生ずるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図(1)

参考図(2)






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