|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年1月8日17時55分 伊良湖水道航路 2 船舶の要目 船種船名
貨物船甲希丸 総トン数 3,748トン 全長 108.96メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 4,471キロワット 3 事実の経過 甲希丸は、船首船橋型混載自動車専用船で、A受審人ほか11人が乗り組み、車両323台を積載し、船首4.40メートル船尾5.65メートルの喫水をもって、平成10年1月8日16時20分愛知県豊橋港を発し、福岡県博多港に向かった。 A受審人は、操船指揮を執って豊橋港港外まで出航した後、降橋してしばらく自室で休息を取り、17時20分立馬埼灯台から321度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点で再び昇橋し、次席一等航海士を操舵に、二等航海士をレーダーによる見張り及び機関の遠隔操作にそれぞれ就け、中山水道から伊良湖水道を通航するための操船指揮にあたった。 17時28分A受審人は、尾張野島灯台から130度1.0海里の地点で、伊勢湾第3号灯浮標の北側0.5海里のところに向首する223度の針路に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの南西方へ流れる潮流及び東風に乗じて222度の実航針路、18.2ノットの対地速力で進行した。 A受審人は、17時36分ごろ伊勢湾第3号灯浮標の北北東方2海里ばかりのところで、伊良湖水道航路に向けて南下している巨大船(以下「巨大船」という。)の進路警戒船から、巨大船の船尾を替わって欲しい旨の要請を受け、その後浮標の北側を通過したころ、南方に同航路に向かっている巨大船とそれに後続する2隻の船舶を認めた。 17時43分A受審人は、神島灯台から331度2.7海里の地点で、巨大船の船尾方を1海里ばかり隔てて替わしたとき、伊良湖水道航路に向けて左転し、同航路の制限速力にするため、機関を港内全速力前進に下げ、123度の実航針路、12.9ノットの対地速力として続航した。 このときA受審人は、巨大船に後続する2隻の船舶を右舷船首3度0.3海里及び正船首少し右0.5海里にそれぞれ認めたが、自船の風圧面積が大きく、速力を11ノット以下に落とすと大きく圧流されて保針が困難であることを認識していたものの、これら2隻の船舶にこれ以上接近することはないと思い、伊良湖水道航路北側の広い海域で、これらの船舶と十分な船間距離が保てるまで減速するなど、同航路内でこれら2隻の先航する船舶が転針したり、減速した際に十分対処できるよう、避航水域を確保するために十分な船間距離を保たないまま進行した。 A受審人は、南東方からのうねりが次第に強まる状況下、17時50分神島灯台から356度1.6海里の地点で、伊良胡水道航路に入航して針路を135度に転じたとき、前示2隻の先航船が正船首少し右に位置し、直前の先航船が0.2海里に接近したので、機関を半速力前進に下げ、折からの強い東風により右方に13度圧流されながら148度の実航針路、9.6ノットの対地速力で、同航路の西側境界線に寄せられる状況となって続航した。 17時54分A受審人は、丸山出シ灯浮標を右舷船首21度300メートルに見る地点に達したとき、直前の先航船が左転して正船首方に接近するようになったので右舵5度をとって避航したところ、その後同灯浮標が正船首至近に迫る状況となり、同時55分少し前同船が左舷側に替わったので135度の針路に戻したとき、同灯浮標が右舷正横に見え、17時55分神島灯台から021度1,700メートルの地点において、135度に向首した甲希丸の右舷船尾部が丸山出シ灯浮標に衝突した。 当時、天候は曇で風力7の東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、付近には南東方に流れる0.9ノットの潮流があった。 A受審人は、丸山出シ灯浮標に衝突したことに気付かないまま、左舷側に替わっていった先航船の前にいた同航船が正船首方に接近するので、左舵5度をとって同船を替わし、そのまま続航して目的地に向かい、博多港で海上保安庁の調査を受け、衝突の事実を知った。 衝突の結果、甲希丸は、右舷船尾部外板に擦過傷を生じ、丸山出シ灯浮標は、レーダー反射器等に損傷を生じた。
(原因) 本件灯浮標衝突は、夜間、強風を左舷側から受ける状況下、先航船に続いて伊良湖水道航路を南下中、丸山出シ灯浮標を航過する際、先航船との船間距離が不十分で、避航水域が確保されないまま、同船を避けようとして右舵をとるとともに、同灯浮標に向けて圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、強風を左舷側から受ける状況下、先航船に続いて伊良湖水道航路を南下する場合、同航路内で先航船が転針したり、減速した際に十分対処できるよう、避航水域を確保するために十分な船間距離を保つべき注意義務があった。しかし、同人は、自船の風圧面積が大きく、速力を11ノット以下に落とすと大きく圧流されて保針が困難であることを認識していたものの、先航船にこれ以上接近することはないと思い、同航路北側の広い海域を航行している間に減速するなどの措置をとらず、十分な船間距離を保って航行しなかった職務上の過失により、同航路内で先航船に接近して避航したとき、強風に圧流されて丸山出シ灯浮標との衝突を招き、甲希丸の右舷船尾部外板に擦過傷を、同灯浮標のレーダー反射器等に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。 |