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1999年(平成11年)

平成10年神審第47号
    件名
ケミカルタンカー第七松伸丸押船第31青木丸被押バージエーエムビー-ディー1衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年1月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮、工藤民雄、西林眞
    理事官
竹内伸二

    受審人
A 職名:第七松伸丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第31青木丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:第31青木丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
松伸丸…左舷船尾のハンドレールに曲損
バージ…右舷船首が圧壊

    原因
バージ…操船指揮不適切、動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、第31青木丸被押バージェーエムビー-ディー1が、操船指揮が適切でなかったばかりか、動静監視不十分で、錨泊中の第七松伸丸を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月9日14時05分
神戸港
2 船舶の要目
船種船名 ケミカルタンカー第七松伸丸
総トン数 375トン
全長 54.32メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
船種船名 押船第31青木丸 バージエーエムビー-ディー1
総トン数 142トン
全長 30.50メートル 99.30メートル
幅 20.00メートル
深さ 6.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,206キロワット
3 事実の経過
第七松伸丸(以下「松伸丸という。)は、船尾船橋型の油タンカー兼引火性液体物質ばら積船兼液体化学薬品ばら積船で、A受審人ほか5人が乗り組み、ブテンオリゴマーと称する液体化学薬品300キロリットルを載せ、船首1.6メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成9年2月8日13時30分山口県徳山下松港を発し、神戸港に向かった。
翌9日06時30分A受審人は、神戸港に至り、自船から同化学薬品を瀬取りすることになっているタンカーがまだ入港していなかったので、その到着を待つこととし、神戸港第6南防波堤灯台(以下、航路標識の名称に冠する「神戸港」を省略する。)から161度(真方位、以下同じ。)2海里の地点において、右舷錨を投じて錨鎖3節を伸出し、船首楼甲板上約3メートルの高さに黒球を掲げて錨泊した。
A受審人は、当直を維持するまでもないと思い、乗組員に休養をとらせ、自らは自室でテレビを見るなどして待機し、13時51分松伸丸が225度を向いていたとき、ボートデッキに出て周囲を見渡したところ、船尾わずか右2海里に、エーエムビー-ディー1(以下「バージ」という。)を押して南下する第31青木丸(以下「青木丸」という。)を初めて視認するとともに、神戸港沖合に北上中の同タンカーを認めたが、その到着まで一服するつもりで自室に戻った。
そしてA受審人は、14時04分半左舷側のボートデッキに出たとき、船尾方100メートルのところから迫ってくる青木丸被押バージを認めて衝突の危険を感じ、急いで船橋に駆け上がりエアホーンのボタンを押したものの、空気元弁が閉じられていたため、注意喚起信号を行うことができないでいるうち、14時05分前示錨泊地点において、25度に向首した松伸丸の船尾舷側に、バージの右舷船首が、右舷後方から20度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候はほぼ下げ潮の末期であった。
また、青木丸は、2基2軸の鋼製押船で、B及びC両受審人ほか5人が乗り組み、船首2.11メートル船尾2.29メートルの喫水をもって、同月9日13時00分神戸港東部の深江南町の岸壁を発し、第7防波堤東灯台から044度1.8海里の尼崎西宮芦屋港に錨泊しているバージに至り、空倉で船首尾とも2.29メートルの喫水となったバージの船尾凹部に船首を押し付け、船首部両舷の油圧駆動のピンで両船を結合して全長約122メートルで一体となり、同時30分和歌山県和歌山下津港に向かった。
B受審人は、発航後間もなく、VHFにより、錨泊船から有害物質が流出している旨の情報を傍受しながら操舵操船に当たり、やがて西宮防波堤と神戸港第7防波堤との間の水路を通航中、六甲アイランド南方沖合において、事故を起こしていると思われる錨泊船及びその付近にいる巡視船を認め、13時45分第7防波堤東灯台から170度900メートルの地点で針路を205度に定め、機関をほぼ全速力前進にかけ、8.5ノットの押航速力で進行した。
ところで、バージの船体中央部の甲板上にはジブクレーン1基が設置されており、青木丸の操舵室の操舵位置から正船首方の見通しが幾分妨げられることもあって、B受審人は、船舶が輻輳(ふくそう)する港内では、自ら操船に当たるとともに、一等航海士を見張りに就けて航行するのを常としていた。
定針したころB受審人は、まだ神戸港内であったが、視界が良かったうえ、付近に航行している船舶をあまり見掛けなかったことから、出港作業を終えて昇橋していたC受審人に操船を任せても大丈夫と思い、港域外に出るまで引き続き自ら操船の指揮をとることなく、間もなく同人と交替して自室に退き、不急の書類整理に取り掛かった。
単独で船橋当直に就いたC受審人は、舵輪の後方でいすに腰を掛けて手動操舵と見張りに当たり、13時51分右舷船首19度2海里に錨泊中の松伸丸を初めて視認したが、同船が船尾を見せていたことから、一瞥(いちべつ)して明石海峡の方に向かう西行船で、これに急に接近することはないと思い込み、そのまま続航した。
13時54分半C受審人は、波浪観測塔灯から085度900メートルの地点に達したとき、神戸港南方沖合の大阪湾に設置されているのり養殖施設の西側に向けるつもりで針路を230度に転じたところ、松伸丸を正船首1.5海里に見るようになり、同時58分同船に向首したまま1海里に接近したが、左舷前方3海里付近に存在する錨泊船の方を眺めていて、松伸丸に対する動静監視が不十分でこれに気付かず、速やかに転舵して同船を避けなかった。
そして、C受審人は、レーダーにより、のり養殖施設の西側に向首しているのを確かめ、左舷船首方を眺めているうち、14時05分わずか前ふと船首方を見たとき、船首至近に松伸丸の船尾部を認め、急いで左舵一杯をとったが及ばず、青木丸被押パージは、205度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
B受審人は、自室で書類の整理中に衝撃を感じ、急いで船橋に駆け上がって衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
衝突の結果、松伸丸は左舷船尾のハンドレールに曲損を生じ、バージは右舷船首が圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、神戸港において、青木丸被押バージが、操船指揮が適切でなかったばかりか、動静監視不十分で、錨泊中の松伸丸を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
B受審人は、神戸港において、バージを押して出航する場合、自ら操船の指揮をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、付近に航行している船舶をあまり見掛けなかったことから、一等航海士に操船を任せても大丈夫と思い、自室に退き自ら操船指揮をとらなかった職務上の過失により、同航海士が港域内錨泊中の松伸丸を避けることなく進行して同船との衝突を招き、松伸丸の左舷船尾のハンドレールに曲損を生じさせ、バージの右舷船首を圧壊させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、神戸港において、単独で船橋当直に当たり、バージを押して南下中、前路に松伸丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥して松伸丸が船尾を見せていることから西行船で、これに急に接近することはないと思い込み、左舷船首方に存在する錨泊船の方を眺めていて、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、松伸丸が錨泊していることに気付かずに進行して同船との衝突を招き、松伸丸及びバージに前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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