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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年8月31日22時10分 兵庫県津居山港沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船千鳥丸
プレジャーボートはつか 総トン数 77トン 全長 34.10メートル 登録長
5.69メートル 機関の種類 ディーゼル機関
電気点火機関 出力 507キロワット 55キロワット 3 事実の経過 千鳥丸は、沖合底びき網漁に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、同乗者1人を乗せ、解禁となるはたはた漁の目的で、船首1.00メートル船尾2.50メートルの喫水をもって、平成9年8月31日21時45分僚船4隻に続いて兵庫県津居山港を発し、隠岐諸島島後東南東沖の漁場に向かった。 A受審人は、発航操船に引き続き単独で船橋当直に当たり、22時03分猿ケ城灯台から026度(真方位、以下同じ。)1,400メートルの地点に至り、針路を325度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、先航する僚船の船尾灯を右舷前方に見ながら90ノットの対地速力で進行した。 ところで、A受審人は、操舵スタンドの後方に立った状態では、船首楼に遮られて前方の見通しを妨げられ、正船首から両舷各7度の範囲に死角を生じることから、平素船首を左右に振るなどして死角を補う前方の見張りを行っていた。 22時07分A受審人は、猿ケ城灯台から000度1.2海里の地点で、正船首830メートルに錨泊しているはつかの集魚灯を視認することができる状況で衝突のおそれがあったが、前方には先航する僚船以外の船舶はいないものと思い、操舵スタンドの右舷後方に立ったまま、船首を左右に振るなどして前方の見張りを十分に行わなかったので、死角の範囲に入っていたはつかの灯火を視認することができず、同船を避けることなく津居山港沖合を北上した。 こうして、A受審人は、同じ針路及び速力で続航中、22時09分はつかが正船首280メートルに存在していることに依然気付かず、22時10分猿ケ城灯台から350度1.6海里の地点において、千鳥丸は、原針路、原速力のまま、はつかの左舷船尾に後方から20度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で、風はほとんどなく、視界は良好であった。 また、はつかは、船外機付きのFRP製プレジャーボートで、専ら遊漁の手段として使用されていたところ、B受審人が1人で乗り組み、釣り仲間の友人1人を乗せ、いか及びあじを釣る目的で、船首尾とも0.4メートルの喫水をもって、同31日19時00分津居山港を発し、同港沖合の釣り場に向かった。 B受審人は、19時20分猿ケ城灯台の北方1.7海里付近に至り、錨泊して釣りを行ったが釣果がなかったので、21時00分前示衝突地点に移動し、船首から重さ15キログラムの四つ目錨を水深60メートルの海底に下ろし、直径12ミリメートルのクレモナロープの錨索を70メートル延出して錨泊した。そして、船首部には甲板上高さ2メートルに500ワットの、また、操舵室両舷側壁にも甲板上70センチメートルの高さに右舷には500ワット、左舷には300ワットのそれぞれ半球型傘付き集魚灯を点灯し、錨泊灯を点灯しないまま、操舵室横の左舷船尾で、同舷方及び船尾方にそれぞれ釣竿1本を出して再び釣りを開始した。 その後、B受審人は、津居山港から出航する漁船がいつもより多いので、釣り再開後しばらくは、時折、周囲の見張りを行っていたがそれらの漁船が自船のはるか陸岸寄りを航過して行くことから、錨泊地点は漁船の通航路を外れているので大丈夫と思い、釣りに専念するようになった。 22時07分B受審人は、船首が305度を向いていたとき、左舷船尾20度830メートルに、点灯していた作業灯で全体が明るい千鳥丸を視認できる状況となり、自船に向首接近してきたが、釣りに気を奪われて周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、その後、有効な音響信号により注意喚起を行うことなく釣りを続けた。 B受審人は、22時09分半至近を航過した漁船の航走波によって船体が動揺したので顔を上げて周囲を見たところ、左舷船尾140メートルのところから迫ってくる千鳥丸の灯火を初めて認め、自船の存在を知らせるため急いで操舵室左舷側壁の集魚灯を同船に向けたものの、直進してくるので衝突の危険を感じ、同時10分わずか前友人とともに海中に飛び込み、はつかは、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、千鳥丸は船首に擦過傷を生じ、はつかは操舵室左舷上部を破損して右舷側に転覆したうえ、右舷船底中央に破口を生じ、千鳥丸によって津居山港に引き付けられたが、のち修理費の都合で廃船となった。また、B受審人は、友人とともに千鳥丸に救助された。
(原因) 本件衝突は、夜間、津居山沖合において、北上する千鳥丸が、見張り不十分で、前路に錨泊中のはつかを避けなかったことによって発生したが、はつかが、見張り不十分で、有効な音響信号により注意喚起を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、津居山港沖合において、僚船に続いて漁場に向け北上する場合、前路に錨泊しているはつかの灯火を見落とすことがないよう、船首を左右に振るなどして死角を補う前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、前方には先航する僚船以外の船舶はいないものと思い、船首を左右に振るなどして死角を補う前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のはつかの存在に気付かず、これを避けることなく進行して同船との衝突を招き、千鳥丸の船首に擦過傷を生じさせ、はつかの操舵室左舷上部を破損して転覆させたうえ、右舷船底中央に破口を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。 B受審人は、夜間、津居山港沖合において、錨泊して釣りをする場合、自船に向首接近する千鳥丸の灯火を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、錨泊地点は漁船の通航路から外れているので大丈夫と思い、釣りに専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、千鳥丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、有効な音響信号により注意喚起を行わないまま釣りを続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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