日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年神審第27号
    件名
漁船第1満潮丸漁船第五栄福丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年2月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、清重隆彦、西林眞
    理事官
中谷啓二

    受審人
A 職名:第1満潮丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第五栄福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
満潮丸…損傷なし
栄福丸…沈没し、のち廃船

    原因
満潮丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
栄福丸…警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第1満潮丸が、見張り不十分で、漂泊中の第五栄福丸を避けなかったことによって発生したが第五栄福丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年8月24日06時15分
青森県八戸港沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第1満潮丸 漁船第五栄福丸
総トン数 6.92トン 2.12トン
登録長 10.50メートル 8.73メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70 35
3 事実の経過
第1満潮丸(以下「満潮丸」という。)は、漁場を日本海、津軽海峡及び太平洋側八戸港沖合などと変えながら、いか一本釣り漁に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.6メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成8年8月23日17時00分、当時基地としていた青森県八戸港を発し、同港沖合漁場に至って操業を行い、翌24日04時30分いか約550キログラムを獲てこれを打ち切り、鮫角灯台から015度(真方位、以下同じ。)15.5海里の地点を発進して八戸港への帰途に就いた。
発進時A受審人は、GPSプロッタによって船位を確認のうえ、針路を鮫魚に向首する195度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの風及び潮流により左方に3度ばかり圧流されながら7,8ノットの対地速力で進行した。
06時00分A受審人は、鮫角灯台から023度3.8海里の地点に差し掛かったころ、前部甲板上に残されていた漁獲物等を片付けることとし、4海里レンジとしたレーダーをのぞき、肉眼で前方を一瞥(いちべつ)したが、当時海上に高さ約3メートルのうねりが存在したこともあって、船首方向わずか左約2海里のところで漂泊していた第五栄福丸(以下「栄福丸」という。)を見落としたまま作業を開始した。
A受審人は、いつものように鮫角に近づいたところで、八戸港入口に向く針路に立て直すつもりで、前路に他船を認めなかったのでしばらくは大丈夫と思い、前部甲板上において後方を向き、散らばっていた漁獲物を拾い集めて木箱に詰める作業を続けていたところ、06時11分正船首わずか左1,000メートルのところで漂拍して一本釣りをしている栄福丸を視認でき、その後その方位が変わらないまま衝突のおそれがある態勢で接近したが、見張り不十分でこれに気付かず、同船を避けることなく進行した。
こうして、満潮丸は、原針路、原速力のまま続航中、06時15分鮫角灯台から035度1.9海里の地点において、その船首が、栄福丸の右舷船首付近に前方から49度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、栄福丸は、FRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、ひらめなどの一本釣り漁に従事する目的で、船首0.4メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日05時00分八戸港内の鮫地区を発し、同港沖合漁場に向かった。
05時30分ごろB受審人は、前示衝突地点付近に至って機関を中立とし、船首部からパラシュート型シーアンカーを投入して索具を約15メートル延出し、折からの風によって船首をほぼ326度に向けた状態で漂泊して漁を始めた。
06時11分B受審人は、操舵室の右舷側に立って釣りを行っていたとき、右舷船首約50度1,000メートルのところに、自船に船首を向けて来航する満潮丸を初めて認めた。
B受審人は、引き続き満潮丸の接近状況を監視していたところ、その後同船の方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近し、自船に近づいても避航の気配を示さなかったが、漁模様を聞くために近づいてくるものと思い、操舵室に装備されていたサイレンなどによって警告信号を行わず、更に間近に接近しても機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらないでいるうち、06時15分わずか前、相手船が依然速力を落とさないまま至近に迫ってきたので、ようやく危険を感じて大声で叫んだが効なく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、満潮丸には損傷がなく、栄福丸は左舷側に転覆したが、満潮丸によって八戸港に曳航されている途中沈没し、のち引き揚げられたものの廃船とされた。B受審人は転覆時海中に投げ出されたが、満潮丸に救助された。

(原因)
本件衝突は、八戸港東方沖合において、満潮丸が、見張り不十分で、前路で漂泊して一本釣り中の栄福丸を避けなかったことによって発生したが、栄福丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、単独で操船して八戸沖合漁場から同港へ向けて航行する場合、前路において漂泊中の栄福丸を見落とすことがないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、レーダー及び肉眼で前路を確かめたとき他船の存在を認めなかったことから、しばらくは大丈夫と思い、前部甲板上で作業を続けて前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中の栄福丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、栄福丸を転覆させたのち沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第51条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、八戸港沖合漁場において、パラシュート型シーアンカーを投じ、漂泊して一本釣り中、右舷方から衝突のおそれがある態勢で接近する満潮丸を視認し、その後同船に避航の気配が認められない場合、装備していた音響信号装置により警告信号を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、同船が漁模様を聞くために自船に接近しているものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、衝突を招き、自船に前示のとおりの損害を生じさせた。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第順第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION