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1999年(平成11年)

平成10年横審第90号
    件名
漁船丸夕丸漁船八左衛門丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年5月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士、長浜義昭、西村敏和
    理事官
藤江哲三

    受審人
A 職名:丸夕丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:八左衛門丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
丸夕丸…船首部に擦過傷
八左衛門丸…右舷側中央部に破損、操舵室を圧懐機関の濡損

    原因
丸夕丸…動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
八左衛門丸…船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、丸夕丸が、動静監視不十分で、停留中の八左衛門丸を避けなかったことによって発生したが、八左衛門丸が、衝突を避けるための措置が十分でなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年2月22日11時03分
神奈川県三崎港
2 船舶の要目
船種船名 漁船丸夕丸 漁船八左衛門丸
総トン数 19トン 1.44トン
全長 22.90メートル
登録長 7.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 35キロワット
漁船法馬力数 190
3 事実の経過
丸夕丸は、定置漁僕に従事する軽合金製漁船で、A受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成10年2月22日02時00分神奈川県毘沙門漁港を発し、同県藤沢市江ノ島西方に設置した定置網で網起こしを行い、同県三崎港で水揚げしたのち、次いで毘沙門漁港南方沖合に設置した定置網で網起こしを行い、漁獲物約200キログラムを積み、水揚げのため、10時50分安房埼灯台から090度(真方位、以下同じ。)1.6海里のところを発し、再度三埼港に向かった。
ところで、三崎港は、神奈川県三浦半島の南端に位置し、その南側の城ヶ島との間に挟まれた水域である三崎本港とその北方の諸磯、油壷、小網代の3湾から成っている。三崎本港はそのほぼ中央部に南北に通じる城ヶ島大橋が架かり、両岸に魚市場、物湯場、水産試験場、造船所などの施設があり、同橋東側の北岸に通り矢物揚場とその前面に浅瀬が、同南岸の北側には岩場が点在する浅瀬がそれぞれ広がっていて、両浅瀬の間には東西に伸びる可航幅約80メートルの水路が形成されていた。
発進後A受審人は、乗組員に漁獲物整理の作業を行わせ、自身は一人で操舵室の中央に立って手動操舵に就き、機関を全速力前進の回転数毎分1,200にかけ、10.0ノットの対地速力で西行し、11時00分少し過ぎ三崎港東口に至り、安房埼灯台から027度580メートルの地点で、針路を城ヶ島大橋の橋脚を船首目標として港内の水路に沿う298度に定め、機関を回転数毎分1,000に下げ、9.0ノットの対地速力で進行した。
11時01分少し前A受審人は、安房埼灯台から013度600メートルの地点に達したとき、正船首600メートルのところに、スパンカを張って北方を向いた態勢の八左衛門丸を初認したが、一見して北方に進行しているように見えたことから、そのうち自船の右舷側方に替わるものと思い、八左衛門丸の動静監視を行うことなく、定置網を新替えするために現在作成中の網のことを考えながら進行し、停留している同船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、停留中の同船を避けないまま続航中、11時03分安房埼灯台から336度960メートルの地点において、甲板上で作業をしていた甲板員の叫び声を聞いた直後に衝撃を受け、丸夕丸は原針路、原速力のまま、その船首が八左衛門丸の右舷側中央部に直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力4の北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
また、八左衛門丸は、たこつぼ漁等に従事するFRP製漁船で、B受審人が一人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日08時30分定係地である城ヶ島大橋西側の城ヶ島物揚場を発し、城ヶ島南方沖合0.5海里ばかりの漁場に向かったが、同漁場では潮流が強かったので操業を取り止め、三崎港に仕掛けたたこつぼを引き揚げるために同港内に向かった。
三崎港内に戻ったB受審人は、09時15分から城ヶ島大橋東側の水路の南側にあたる、安房埼灯台から330度900メートルの地点付近でたこつぼの引揚げを行って操業を終えたが、平素、港内での操業を終えた後、他船の通航の邪魔にならない通り矢物揚場の南側に移って停留し、たこつぼの清掃をしていたことから、当日も同清掃を行うこととし、同時45分安房埼灯台から338度970メートルの地点に移り、スパンカを張って風上に向首し、機関を中立運転とした状態で停留し、たこつぼの清掃を始めた。
B受審人は、風で圧流されることから機関を使用して風上にのぼり、これを4回繰り返しながらたこつぼの清掃を続け、11時00分には前示衝突地点付近で船首が028度を向いてほぼ停留しており、同時02分少し過ぎ右舷正横200メートルのところに自船に向けて来航する丸夕丸を初めて認め、このままでは衝突のおそれがあったので同船を避けることとし、機関を微速力前進にかけてわずかに風上に移動したが、スパンカを張って停留している自船を避けてくれるものと思い、丸夕丸の進行方向から十分に遠ざかるなど、衝突を避けるための措置をとることなく、028度に向首して機関を中立運転とし、停留してたこつぼの清掃を再開した直後、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、丸夕丸は船首部に擦過傷を生じたのみであったが、八左衛門丸は右舷側中央部に破損、操舵室を圧壊する損傷及び機関の濡損を生じ、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、三崎港において、同港東口から入航中の丸夕丸が、動静監視不十分で、前路で停留中の八左衛門丸を避けなかったことによって発生したが、八左衛門丸が、衝突を避けるための措置が十分でなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、三崎港において、同港東口から入航中、前路にスパンカを張って北方を向いている八左衛門丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、一見して同船は北方に進行しているように見えたことから、そのうち自船の右舷側方に替わるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、八左衛門丸が停留していることに気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、丸夕丸の船首部に擦過傷並びに八左衛門丸の右舷側中央部に破損、操舵室を圧壊する損傷及び機関の濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、三崎港において、たこつぼを清掃するために停留中、右舷正横に自船に向けて来航する丸夕丸を認め、衝突のおそれがあったので同船を避けようとした場合、同船の進行方向から十分に遠ざかるなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、スパンカを張って停留している自船を避けてくれるものと思い、わずかに風上に移動しただけで、停留を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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