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1999年(平成11年)

平成11年仙審第20号
    件名
貨物船恵和丸貨物船興榮丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年9月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

上野延之、長谷川峯清、内山欽郎
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:恵和丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:興榮丸船長 海技免状:三級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
恵和丸…左舷後部及び左舷船尾部に凹損
興榮丸…船首部右舷側ブルワーク及び同部外板に凹損

    原因
恵和丸…警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守
興榮丸…見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

    主文
本件衝突は、恵和丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、興榮丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年1月8日07時36分
青森県むつ小川原港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船恵和丸 貨物船興榮丸
総トン数 698トン 499トン
全長 76.714メートル
登録長 69.63メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 1,029キロワット
3 事実の経過
恵和丸は、主に北海道から京浜までの諸港間のばら積み貨物の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、スラグ2,020トンを積載し、船首4.32メートル船尾528メートルの喫水をもって、平成10年1月6日15時00分茨城県鹿島港を発し、北海道釧路港に向かった。
翌々8日01時30分A受審人は、冬型の気圧配置が続き、青森県に強風波浪注意報が発表されていて北西の風及び波浪の増勢により航行が困難になったことから天候が回復するまで避泊することとし、むつ小川原港新納屋南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から152度(真方位、以下同じ。)2.0海里の地点に投錨した。
07時00分A受審人は、風浪が弱まり、付近に避泊していた他の船が次々に抜錨して行き、北西方1海里のところに錨泊中の興榮丸を残すのみとなったとき、抜錨用意を令して自ら操舵操船に当たり、同時18分抜錨し、機関を半速力前進にかけ、右回頭を行い、同時25分半南防波堤灯台から161度1.6海里の地点で、レーダーによりむつ小川原港石油輸送用係留浮標灯(以下「係留浮標灯」という。)を前方2.8海里に探知し、針路を019度に定め、機関を半速力前進のまま6.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
07時27分A受審人は、南防波堤灯台から156度1.5海里の地点に達したとき、左舷船首40度930メートルに興榮丸が抜錨して右回頭を始めたのを認め、同時32分同灯台から139度1.2海里の地点で、同船が同方向500メートルのところを徐々に増速及び小角度で右転しながら避航の気配を見せないまま衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めたが、自船の存在を知らせるため汽笛で長音一声を吹鳴し、そのうち興榮丸が避航すると思い、警告信号を行わず、その後速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとることなく、動静を監視しながら続航した。
07時33分半A受審人は、興榮丸が300メートルに接近したので、再び長音一声を吹鳴し、同時35分少し過ぎ興榮丸が依然小角度で右転を続けて左舷船首方至近に迫ったので、右舵一杯としたが及ばず、07時36分南防波堤灯台から120度1.1海里の地点において、恵和丸は、070度を向いて原速力のまま、その左舷船尾部に興榮丸の船首が後方から20度の角度で衝突した。
当時、天候が曇で風力4の北西風が吹き、潮侯は上げ潮の中央期であった。
また、興榮丸は、国内各港間を不定期に就航する船尾船橋型の鋼製貨物船で、B受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま海水バラスト665トンを載せ、船首1.70メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、同月7日07時00分青森県八戸港を発し、同県尻屋岬港に向かった。
10時40分B受審人は、冬型の気圧配置が続き、青森県に強風波浪注意報が発表されていて北西の風及び波浪の増勢により航行が困難になったことから天候が回復するまで避泊することとし、南防波堤灯台から155度1.0海里の地点に投錨した。
翌8日07時00分B受審人は、風浪が弱まり、周囲を一瞥して南東方1海里の左舷後方に錨泊中の恵和丸以外に他船を見なかったことから、接近する他の船はいないと思い、その後後方の見張りを十分に行うことなく、同時18分恵和丸が抜錨したのを気付かないで抜錨用意を令し、同時27分抜錨し、船橋の窓や出入り口の戸を閉め切って機関長を船橋での機関操作に当てて自ら操舵操船に就き、針路を060度に向けるよう右舵をとり、機関を微速力前進にかけ、その後徐々に増速しながら平均4.3ノットの速力により小角度で右転を始めた。
07時32分B受審人は、南防波堤灯台から134度1,780メートルの地点に達したとき、右舷船尾方500メートルのところに恵和丸が衝突のおそれのある態勢で接近しているのを認め得る状況であったが、依然接近する他の船はいないと思い、後方の見張りを十分に行うことなく、これに気付かないまま、警告信号を行わず、その後ほとんど方位の変化が認められないまま互いに接近したが、速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとらないまま小角度で右転を続け、同時36分少し前右舷正横後至近に迫った恵和丸を初めて認め、汽笛を吹鳴し続けながら左舵一杯、機関を全速力後進としたが及ばず、興榮丸は、050度に向いて2.0ノットの速力に下がったとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、恵和丸は、左舷後部及び左舷船尾部に凹損を、興榮丸は、船首部右舷側ブルワーク及び同部外板に凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、むつ小川原港の東方沖合において、北上中の恵和丸と抜錨して徐々に増速及び小角度で右転中の興榮丸とが、互いに衝突のおそれのある態勢で接近した際、恵和丸が、警告信号を行わず、速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとらなかったことと、興榮丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、むつ小川原港の東方沖合を北上中、左舷船首方に抜錨して徐々に増速及び小角度で右転しながら接近する興榮丸を認めた場合、同船と衝突しないよう、速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうち興榮丸が避航すると思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、興榮丸との衝突を招き、恵和丸の左舷後部及び左舷船尾部並びに興榮丸の船首部右舷側ブルワーク及び同部外板にそれぞれ凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、むつ小川原港の東方沖合において、抜錨して徐々に増速及び右転しながら港外に向かう場合、後方から接近する恵和丸を見落とさないよう、後方の見張りを十分行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、抜錨前周囲を一瞥して左舷後方に錨泊中の恵和丸以外に他船を見なかったことから、接近する他の船はいないと思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、恵和丸を見落とし、同船との衝突を避けるための措置をとらないまま小角度で右転を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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