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1999年(平成11年)

平成10年仙審第51号
    件名
貨物船第十一さかき丸貨物船第一東近丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年2月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

供田仁男、高橋昭雄、安藤周二
    理事官
上中拓治

    受審人
A 職名:第十一さかき丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第十一さかき丸次席一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:第一東近丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
さかき丸…右舷船首部に凹損及び擦過傷
東近丸…左舷船首部ブルワークの倒壊と船首甲板上のコンパニオンに凹損

    原因
さかき丸、東近丸…狭視界時の航行(信号・速力)不遵守

    主文
本件衝突は、第十一さかき丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、第一東近丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年6月14日02時50分
岩手県尾埼南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十一さかき丸 貨物船第一東近丸
総トン数 498トン 496トン
全長 73.67メートル
登録長 67.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット 882キロワット
3 事実の経過
第十一さかき丸(以下「さかき丸」という。)は、船尾船橋型の貨物船で、A及びB両受審人ほか3人が乗り組み、缶入りの潤滑油720トンを積み、船首3.50メートル船尾4.05メートルの喫水をもって、平成10年6月12日19時50分千葉港を発し、北海道苫小牧港に向かった。
A受審人は、船橋当直を0時から4時までをB受審人、4時から8時までを一等航海士及び8時から0時までを自ら行う単独制とし、各人が交替時刻の30分前には昇橋することにしており、翌13日23時35分宮城県歌津埼東南東方沖合を北上中、B受審人に当直を引き継いだ。その際、A受審人は、三陸沖合で霧の発生しやすい時期であったが、視界制限時の報告など当直中の注意事項を平素から船橋内に掲示してあるので改めて口頭で指示するまでもないと思い、視界制限状態となったら必ず報告するよう指示することなく、視界が悪くなったら予定針路線にこだわらずに沖出しすることなどを伝えて降橋した。
B受審人は、当直に就いて航行中の動力船の灯火が点灯していることを確かめ、翌14日02時00分首埼灯台から150度(真方位、以下同じ。)2.6海里の地点に達したとき、針路を021度に定めて自動操舵とし、東方からのうねりの影響を受けて左方に2度圧流されながら、機関を全速力前進にかけた12.4ノットの対地速力(以下速力は対地速力である。)で進行した。
02時10分B受審人は、急に霧に見舞われて視程が250メートルに狭められた状態となったものの、この状態をA受審人に報告せず、霧中信号も吹鳴しないで、6海里レンジとしたレーダーによる見張りを行って続航した。
02時36分少し過ぎB受審人は、左舷船首4度5.0海里に第一東近丸(以下「東近丸」という。)と、右舷船首6度4.6海里に第三船の各レーダー映像を初めて認め、両映像の動きを監視していずれも反航態勢にあることを知った。
02時42分少し前B受審人は、東近丸の映像が同方向3.0海里となって同船と著しく接近することとなる事態となったが、安全な速力としないまま、速やかに大角度の右転をするなど同事態を避けるための動作をとらず、第三船共々右舷側に替わすつもりで針路を5度左に転じ、その後同映像がレーダーの船首輝線よりも右側になるよう、小刻みに左転を繰り返して進行した。
02時46分陸中尾埼灯台から135度2.7海里の地点に達したとき、B受審人は、東近丸の映像を右舷船首5度1.4海里に見て針路を008度とし、依然左方に2度圧流されながら続航するうち、同時47分同映像が右舷船首3度1.1海里となって、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、近距離ではあってもなんとか右舷を対して航過できると思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもせず、全速力のまま北上を続けた。
02時48分B受審人は、東近丸の映像がほぼ正船首0.7海里になったので針路を350度に転じ、同船の緑灯を視認できるのではないかと眼を凝らして右舷前方を見張っていたところ、同時49分半右舷船首250メートルに紅灯を認めて驚き、操舵を手動に切り替えて左舵一杯をとったものの、02時50分陸中尾埼灯台から121度2.2海里の地点において、さかき丸は、船首が310度を向いて原速力のまま、その右舷船首部が東近丸の左舷船首部に後方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は250メートルであった。
A受審人は、自室で就寝中、衝突で目覚めるとともにB受審人から報告を受けて直ちに昇橋し、国際VHF電話で東近丸を呼び出したものの、応答がないままそのレーダー映像が遠ざかったので、海上保安庁に通報するなど事後の措置にあたった。
また、東近丸は、船尾船橋型の貨物船で、C受審人及びD指定海難関係人ほか3人が乗り組み、砂1,530トンを積み、船首3.9メートル船尾4.9メートルの喫水をもって、同月13日15時10分青森県むつ小川原港を発し、茨城県鹿島港に向かった。
C受審人は、船橋当直を3時30分から7時30分までを一等航海士、7時30分から11時30分までを同受審人及び11時30分から3時30分までをD指定海難関係人が行う単独制としており、23時30分岩手県明神埼北東方沖合を南下中、D指定海難関係人に当直を引き継いだ。その際、同受審人は、三陸沖合で霧の発生しやすい時期であったが、何か変わったことがあったら起こすように指示したのでそれ以上は言うまでもないと思い、視界が狭められたときには、また、接近する船舶があれば報告するよう指示することなく降橋した。

02時34分少し前D指定海難関係人は、陸中尾埼灯台から064度3.3海里の地点に達し、右舷船首2度6.0海里にさかき丸のレーダー映像を初めて認めたころ、霧模様となり視程が1.5海里に狭められた状態となったものの、報告するように指示されていなかったので、この状態をC受審人に報告せず、霧中信号を吹鳴しないで、6海里レンジとしたレーダーによる見張りを行って続航した。
02時42分少し前D指定海難関係人は、さかき丸の映像が同方向3.0海里となって同船と著しく接近することとなる事態となったが、このことについてもC受審人に報告せず、安全な速力とすることや速やかに大角度の右転をするなど同事態を避けるための動作がとられないまま、左舷を対して航過するつもりで針路を5度右に転じ、続いて同時43分再び5度右転して南下を続けた。
02時44分陸中尾埼灯台から084度2.5海里の地点で、D指定海難関係人は、さかき丸の映像を左舷船首9度2.1海里に見るようになったとき、更に5度右転して針路を210度とし、依然右方に2度圧流されながら進行したところ、同時46分少し前霧に見舞われ、視程が250メートルに狭められた状態のなかを続航した。
02時47分D指定海難関係人は、さかき丸の映像が左舷船首19度1.1海里となって、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止める措置もとられず、全速力のまま進行した。
02時49分半D指定海難関係人は、左舷船首250メートルにさかき丸の緑灯を認め、操舵を手動に切り替えて右舵一杯をとったものの、東近丸は、船首が250度を向いて原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突後、D指定海難関係人は、さかき丸の国際VHF電話による呼び掛けに応じることも、衝突したことをC受審人に報告することもせず、針路を元に戻して南下を続け、03時30分一等航海士に当直を引き継いで休息した。
C受審人は、07時30分濃霧の中で一等航海士と交替して当直中、08時25分霧が晴れたとき、船体の損傷を発見し、D指定海難関係人に事情を質して衝突したことを知り、海上保安庁に通報するなどの事後の措置にあたった。
衝突の結果、さかき丸は右舷船首部に凹損及び擦過傷を生じ、東近丸は左舷船首部ブルワークの倒壊と船首甲板上のコンパニオンに凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、さかき丸及び東近丸の両船が、霧による視界制限状態の三陸沖合を航行中、北上するさかき丸が、霧中信号を吹鳴せず、レーダーで正横より前方に探知した東近丸と著しく接近することとなる事態となった際、安全な速力としないまま、速やかに大角度の右転をするなど同事態を避けるための動作をとらず、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じ行きあしを止めなかったことと、南下する東近丸が、霧中信号を吹鳴せず、レーダーで正横より前方に探知したさかき丸と著しく接近することとなる事態となった際、安全な速力としないまま、速やかに大角度の右転をするなど同事態を避けるための動作をとらず、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
さかき丸の運航が適切でなかったのは、船長の船橋当直者に対する視界制限時の報告についての指示が十分に行われなかったことと、船橋当直者の視界制限時の船長への報告及び措置が適切に行われなかったこととによるものである。
東近丸の運航が適切でなかったのは、船長の船橋当直者に対する視界制限時の報告についての指示が十分に行われなかったことと、船橋当直者の視界制限時の船長への報告が適切に行われなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、三陸沖合を北上中、部下に船橋当直を委ねる場合、霧の発生しやすい時期であったから、視界制限状態となったら必ず船長に報告するよう指示すべき注意義務があった。しかし、同人は、視界制限時の報告など当直中の注意事項を平素から船橋内に掲示してあるので改めて口頭で指示するまでもないと思い、視界制限状態となったら必ず船長に報告するよう指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者から視界制限状態となったときの報告を受けられず、自ら操船の指揮を執れないまま東近丸との衝突を招き、さかき丸に右舷船首部の凹損及び擦過傷を、東近丸に左舷船首部ブルワークの倒壊と船首甲板上のコンパニオンの凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、霧による視界制限状態の三陸沖合を北上中、レーダーで正横より前方に探知した東近丸と著しく接近することを避けることができない状況となった場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかし、同人は、近距離ではあってもなんとか右舷を対して航過できると思い、針路を呆つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、東近丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、三陸沖合を南下中、無資格の部下に船橋当直を行わせる場合、霧の発生しやすい時期であったから、視界が狭められたときには船長に報告するよう指示すべき注意義務があった。しかし、同人は、何か変わったことがあったら起こすように指示したのでそれ以上は言うまでもないと思い、視界が狭められたときには船長に報告するよう指示しなかった職務上の過失により、当直者から霧模様となったことの報告を受けられず、自ら操船の指揮を執れないままさかき丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
D指定海難関係人が、夜間、単独で船橋当直に就いて三陸沖合を南下中、霧模様となった際、直ちにその旨を船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
D指定海難関係人に対しては、安全運航についての指導が行われた点に徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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