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1999年(平成11年)

平成11年広審第21号
    件名
遊漁船幸福丸遊漁船芳福丸衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年7月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷獎一
    理事官
副理事官 尾崎安則

    受審人
A 職名:幸福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:芳福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
幸福丸…船首部に擦過傷
芳福丸…操舵室及び左舷側トップレールを損傷、船長が頭部に挫傷

    原因
幸福丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
芳福丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、幸福丸が、見張り不十分で、前路に錨泊中の芳福丸を避けなかったことによって発生したが、芳福丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月18日13時40分
豊後水道南方海域
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船幸福丸 遊漁船芳福丸
総トン数 4.1トン 2.0トン
登録長 10.30メートル 7.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 139キロワット 77キロワット
3 事実の経過
幸福丸は、船尾に操舵室を有するFRP製遊漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、釣客9人を乗せてかさご等の流し釣りの目的で、船首0.15メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、平成10年4月18日07時00分愛媛県西浦漁港中泊地区を発し、同時30分ごろ伊予鹿島灯台(以下「鹿島灯台」という。)の西方3.5海里ばかりの、同県横島西方の釣り場に至り、その後適宜潮のぼりを行いながら遊漁を行った。
13時30分A受審人は、流し釣りを終えて帰途に就くこととして機関を徐々に増速し、同時37分鹿島灯台から252度(真方位、以下同じ。)5,500メートルの地点において針路を076度に定めて手動操舵とし、機関を8.0ノットの全速力前進にかけて進行した。
ところで、同船の操舵輪は操舵室の中央に位置し、その前面中央には幅約10センチメートルの窓枠があって、これを挟んでその左右にはそれぞれ1枚の窓ガラスがあり、操舵輪を操作するとき正船首方が同窓枠によって視野が妨げられるほか、航走に伴って若干の船首浮上が発生し、前路の見通しが低下することから、操船にあたっては身体を適宜左右に移動するなどして視野を補うことが必要な状況となっていた。
A受審人は、進行にあたり、左舷方に1隻の漁船を視認したものの、視野を補わずに前路を一瞥(いちべつ)しただけで、船首方に他船はいないものと思い、同方の見張りを十分に行うことなく続航し、このとき正船首740メートルのところに錨泊して釣りを行っている芳福丸に気付かなかった。
A受審人は、その後、操舵輪後方に位置したまま、左舷船首方に見える鹿島灯台と右舷船首方に見る四国本土との中央部を目安に東行し、13時38分芳福丸を正船首490メートルに視認し得る状況となり、その後衝突のおそれのある態勢となって接近したが、依然、見張り不十分で、この態勢に気付かず、同船を避けることなく進行中、同時40分少し前、釣客の叫び声とほほ同時に衝撃を受け、直ちにクラッチを中立としたが効なく、13時40分鹿島灯台から252度4,800メートルの地点において、原針路、原速力のままの幸福丸の船首が芳福丸の左舷中央部に前方から59度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、芳福丸は、船体中央よりやや後方に操舵室を有する、有効な音響設備を装備しないFRP製遊漁船で、B受審人が1人で乗り組み、釣客2人を乗せ、たい釣りなどの目的で、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日12時30分愛媛県西浦漁港中泊地区を発し、横島南方沖合の釣り場に向かった。
B受審人は13時ごろ前示衝突地点に至り、水深約90メートルの海底に、60キログラムの錨を長さ1.5メートルのチェーンを結び、これに長さ200メートル直径16ミリメートルのロープを連結し、その末端を左舷船首のたつに固縛して投錨し、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げないまま、機関を700回転の停止運転として釣りを開始した。
B受審人は右舷船尾部で右舷方を向いて、他の釣客はそれぞれ船首部の左右両舷で甲板上に腰掛けた姿勢で釣りを行い、13時37分船首が315度を向いていたとき、左舷船首59度740メートルのところに幸福丸が自船に向首して接近するのを初認し得る状況となったが、自船は錨泊中なので、接近する他船があれば自船を認めて避けてくれるものと思い、左舷方の見張りを十分に行うことなく釣りに熱中した。
13時38分B受審人は、幸福丸が同一方位のまま490メートルに接近し、その後衝突のおそれのある態勢となって接近したが、依然、見張り不十分で、この態勢に気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく、魚釣りをしながら錨泊を続けた。
13時40分少し前B受審人は、左舷方に機関音を聞き、立ち上って同方を見たとき至近に迫った幸福丸を認めたが、どう対処することもできず前示のとおり衝突した。
衝突の結果、幸福丸は船首部に擦過傷を、芳福丸は操舵室及び左舷側トップレールを損傷し、B受審人が頭部に挫傷を負った。

(原因)
本件衝突は、鹿島灯台西方の海域において、幸福丸が、遊漁を終えて帰航する際、見張り不十分で、前路に錨泊中の芳福丸を避けなかったことによって発生したが、芳福丸が見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、鹿島灯台西方の海域において、遊漁を終えて前路に死角のある状況となって帰航する場合、前路に錨泊する芳福丸を見落とすことがあったから、身体を適宜移動するなどして、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、前路を一瞥しただけで船首方には他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路に錨泊中の芳福丸を避けることなく進行して衝突を招き、幸福丸の船首部に擦過傷を、芳福丸の操舵室及び左舷側トップレールに損傷を生じさせ、B受審人に頭部挫傷を負わすに至った。
B受審人は、鹿島灯台西方の海域において、錨泊して釣りを行う場合、自船に向首して来航する幸福丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、自船は錨泊中なので、接近する他船があれば自船を認めて避けてくれるものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続けて幸福丸との衝突を招き、前示の損傷と負傷を生じさせるに至った。

参考図






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