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1999年(平成11年)

平成10年横審第89号
    件名
油送船勇盛丸貨物船ワカユ衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年4月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士、長浜義昭、西村敏和
    理事官
長谷川峯清

    受審人
A 職名:勇盛丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:勇盛丸次席一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
勇盛丸…左舷後部外板に破口
ワカユ…船首部に亀裂を伴う破口

    原因
勇盛丸…狭視界時の航法(速力)不遵守
ワカユ…狭視界時の航法(速力、信号)不遵守

    主文
本件衝突は、勇盛丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、ワカユが、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月3日01時18分
伊豆半島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 油送船勇盛丸 貨物船ワカユ
総トン数 499トン 2,712トン
全長 59.58メートル 86.34メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 1,618キロワット
3 事実の経過
勇盛丸は、主に東京湾、伊勢湾及び大阪湾の各港間に就航する船尾船橋型ケミカルタンカーで、A、B両受審人ほか4人が乗り組み、アクリル酸ブチル約400トンを積み、船首2.40メートル船尾3.70メートルの喫水をもって、平成8年7月2日12時30分名古屋港を発し、千葉港に向かった。
ところで、A受審人は、勇盛丸の船橋当直を自らとB受審人ほか2人の航海士とともに単独3時間交代の4直制で行い、操舵室前面窓枠のところに視界制限航海の注意事項を掲示し、平素から視界制限時及び狭水道通航時又は船舶が輻輳(ふくそう)し、若しくは多数の漁船が操業していて不安を感じたときには報告するよう指示しており、当直航海士から報告があったときには、自ら操船指揮にあたっていた。
翌3日00時00分A受審人は、神子元島の北側海域に至って船橋当直を交代するにあたり、静岡県伊豆地方に濃霧注意報の発表がなく、付近の視界は良好であったことから、平素当直中の注意事項を掲示し、口頭でも告げているので報告があるであろうと思い、視界制限時の報告について特段の指示をしないまま、B受審人に同当直を引き継いで降橋した。
B受審人は、船橋当直交代時に法定の灯火が点灯されていることを確認し、レーダーを6海里レンジで作動させ、00時05分神子元島灯台から357度(真方位、以下同じ。)0.7海里の地点で針路を051度に定め、機関を毎分回転数350の全速力前進にかけ、折からの海潮流に乗じて14.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
B受審人は、00時50分霧のため急に視界が悪くなったものの、様子を見るうち1、2分で視界が回復したのでA受審人に報告せず、01時00分稲取岬灯台から121度5.4海里の地点に達したとき、左舷船首5度6.3海里のところにワカユの白、白2灯を初めて認め、同時05分同船との方位がほとんど変わらないまま4.6海里に接近した状況で、再び霧のために視界が500メートルに制限されたが、前回の霧と同様にすぐに視界が回復するのではないかと思い、A受審人に報告することをちゅうちょし、機関回転数を10回転ばかり下げただけで、ほぼ同一の対地速力で続航した。
01時12分少し前B受審人は、3海里レンジとしたレーダーで左舷船首3度2.0海里にワカユの映像を認め、同船を視認できていたときの状況から判断して同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知ったが、もう少し接近してから衝突を避けるための措置をとっても大丈夫と思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行した。
01時13分B受審人は、更に霧が濃くなって視界が100メートルとなったので、手動操舵として霧中信号を吹鳴したが、依然A受審人に報告せず3海里レンジとしたレーダーを見ながら進行中、同時16分同船が0.5海里に接近したとき、機関の毎分回転数を300に下げて右舵10度をとり、同時18分少し前右舷至近にワカユの灯火を認めて、更に右舵15度とし、機関を全速力後進としたが、効なく、01時18分稲取岬灯台から093度8.0海里の地点において、勇盛丸は、089度に向首し、約11ノットになったとき、その左舷後部にワカユの船首が前方から70度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期にあたり、視程は約100メートルで、付近には051度の方向に3.0ノットの海潮流があった。
A受審人は、衝突の衝撃を感じて昇橋し、事後の措置にあたった。
また、ワカユは、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長C及び三等航海士Dほかフィリピン船員12人が乗り組み、雑貨約1,740トンを積み、船首420メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、同月2日18時38分京浜港横浜区を発し、大阪港に向かった。
C船長は、出航操船にあたって日没時に法定の灯火を点灯し、20時までの自らの船橋当直時間及び腹痛で休んだ次直の一等航海士の同当直時間に、それぞれ操舵手各1人とともに連続して船橋当直に就き、翌3日00時00分伊豆大島灯台北西方5.8海里のところで、次直のD三等航海士に同当直を引き継いで降橋した。
D三等航海士は、自動操舵のまま操舵手1人とともに船橋当直に就き、00時20分伊豆大島灯台から315度5.9海里の地点で、針路を214度に定め、機関を全速力前進にかけ、付近における南西方からの海潮流に抗し、わずかに左方に圧流されながら213度の実航針路と7.8ノットの対地速力で、次第に霧模様となった状況下、操舵手を手動操舵に就けて進行した。
01時00分D三等航海士は、稲取岬灯台から080度9.3海里の地点に達したとき、霧のため視程が100メートルに制限される状態となったが霧中信号を行うことも、安全な速力に減ずることもせずに続航し、同時05分6海里レンジとしたレーダーで、右舷船首12度4.5海里のところに勇盛丸の映像を探知し、レーダープロッティングを行っていたところ、同時12分少し前同船がほぼ同方位2.0海里になったことを認め、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知ったが、もう少し様子を見ようと思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく、引き続き全速力で進行した。
01時15分D三等航海士は、稲取岬灯台から090度8.0海里の地点に達し、3海里レンジとしたレーダーで勇盛丸が右舷船首方0.8海里となったとき、航過距離を広げるよう針路を199度に転じ、左方に圧流されながらほぼ186度の針路で続航中、同時18分少し前同船の白、白、紅3灯を船首至近に認め、右舵一杯、機関停止としたが、効なく、船首が199度を向き、ほぼ7.5ノットの速力で前示のとおり衝突した。
C船長は、衝突の衝撃で目を覚まし、昇橋して事後の措置にあたった。
衝突の結果勇盛丸は左舷後部外板に破口を生じ、ワカユは船首部に亀(き)裂を伴う破口を生じた。

(原因)
本件衝突は、夜間、両船が霧のため視界制限状態の静岡県伊豆半島東方沿岸を航行中、北上する勇盛丸が、レーダーで前路に認めたワカユと著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、南下するワカユが、霧中信号を行うことも安全な速力に減ずることもなく、レーダーで前路に認めた勇盛丸と著しく接近することを避けることができない状況になった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
勇盛丸の運航が適切でなかったのは、船長の船橋当直者に対する視界制限時の報告についての指示が励行されなかったことと、同当直者の視界制限時の報告及び措置が適切でなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、霧のため視界制限状態の静岡県伊豆半島稲取岬東方沖合を航行中、反航態勢のワカユと著しく接近することを避けることができない状況となったことを知った場合、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかし、同人は、もう少し接近してから衝突を避けるための措置をとっても大丈夫と思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止める措置をとらなかった職務上の過失により、相手船との距離が0.5海里に接近するまでそのまま進行して衝突を招き、勇盛丸の左舷後部外板に破口を生じさせ、ワカユの船首部に亀裂を伴う破口を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、神子元島北側海域を航行中、次直者に船橋当直を引き継ぐ際、視界制限時の報告について特段の指示をしなかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら、このことは、A受審人が操舵室前面窓枠のところに視界制限航海の注意事項を掲示し、平素から各船橋当直者に対して視界制限時及び狭水道通航時又は船舶が輻輳し、若しくは多数の漁船が操業していて不安を感じたときには報告するよう指示し、部下もこの指示を承知していた点に徴し、同人の職務上の過失とするまでもない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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