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1999年(平成11年)

平成10年横審第110号
    件名
漁船第六初徳丸漁船正一丸衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:第六初徳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:正一丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
初徳丸…左舷後部から操舵室付近までに損傷、甲板員が右肩などに軽傷
正一丸…船首部に損傷

    原因
正一丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因) 
初徳丸…見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、正一丸が、見張り不十分で、停留中の第六初徳丸を避けなかったことによって発生したが、第六初徳丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月11日05時30分
茨城県大津港南方海域
2 船舶の要目
船種船名 漁船第六初徳丸 漁船正一丸
総トン数 4.94トン 4.90トン
登録長 11.75メートル 11.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 264キロワット 404キロワット
3 事実の経過
第六初徳丸(以下「初徳丸」という。)は、全長が12メートル以上の、モーターサイレンを装備し、ひき網漁業等に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、しらすひき網漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成9年10月11日04時55分茨城県大津港を発し、航行中の動力船の灯火を掲げて同港南方海域の漁場に向かった。
A受審人は、発航時から1人で操船に当たって陸岸沿いに南下し、日出前の薄明時で周囲が明るくなり、遠方まで見通せる状況となったことから法定の灯火を消灯して進行した。
A受審人は、漁場に達して機関を停止し、05時25分大津岬灯台から207度(真方位、以下同じ。)8.0海里の地点で160度に向首して停留を開始したが、このころ左舷船尾42度1.5海里に自船に向首して来る正一丸を認め得る状況であったものの、停留している自船に向かってくる船舶はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わず、正一丸を見落としたまま魚群探索を開始した。
こうして、A受審人は、05時28分正一丸6同方向1,100メートルに接近したが、これに気付かないまま、警告信号を行わず、その後更に接近したが、機関を前進にかけるなど、衝突を避けるための措置をとることもなく停留中、同時30分わずか前至近に迫った正一丸を初めて認め、機関を前進にかけたが及ばず、05時30分大津岬灯台から207度8.0海里の地点において、初徳丸は、160度に向首したままわずかに前進し、その左舷後部に正一丸の船首部が後方から42度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、日出時刻は05時40分であった。
また、正一丸は、全長が14.5メートルの、モーターサイレンを装備し、ひき網漁業等に従事するFRP製漁船で、B受審人が弟と2人で乗り組み、しらすひき網漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日05時00分大津港を発し、航行中の動力船の灯火を掲げて同港南方海域の漁場に向かった。
ところで、正一丸は、機関回転数毎分2,450の全速力前進で23ノットの対地速力となり、同速力が15ないし18ノットのとき、船首が浮上することにより、船首両舷各10度の間に死角が生じ、平素B受審人は、船首を左右に振るなどして前方の見張りを行っていた。
B受審人は、離岸後1人で操船に当たり、05時05分同港南防波堤南端を替わったところにあたる、大津岬灯台から236度1.1海里の地点で、針路を漁場に向けて202度に定め、機関を毎分回転数2,200として19.0ノットの対地速力で手動操舵により南下し、その後周囲が明るくなり、遠方まで見通せる状況となったことから法定の灯火を消灯して進行した。
05時22分B受審人は、大津岬灯台から209度5.6海里の地点に至り、漁場が近くなったので対地速力を17.5ノットに減じ、同一針路で続航しながら魚群探索を開始し、同時25分同灯台から208度6.6海里の地点に達したとき、正船首1.5海里のところに停留中の初徳丸を認めることができ、その後同船と衝突のおそれがある状況で接近したが、魚群探索などに気をとられ、同探索中は前方の死角を無くすよう対地速力を14ノット以下に減ずるなど、前路の見張りを十分に行うことなく、同船に気付かず、停留中の同船を避けないまま進行中、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、初徳丸は、左舷後部から操舵室付近までに損傷を、正一丸は、船首部に損傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理され、初徳丸甲板員が右肩などに軽傷を負った。

(原因)
本件衝突は、茨城県大津港南方海域の漁場において、漁場に向けて航行中の正一丸が、見張り不十分で、停留中の初徳丸を避けなかったことによって発生したが、初徳丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、茨城県大津港南方海域の漁場に向けて17.5ノットの対地速力で航行する場合、15ないし18ノットの対地速力で航走すると、船首浮上により船首に死魚が生ずることを知っていたのであるから、前路で停留中の初徳丸を見落とさないよう、対地速力を14ノット以下に減ずるなどして、前路の見張りを十分に行うべき注注意義務があった。しかし、同人は、漁場が近くなって魚群探索などに気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、初徳丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、初徳丸の左舷後部から操舵室付近までに損傷を、正一丸の船首部に損傷をそれぞれ生じさせ、また、初徳丸甲板員の右肩などに軽傷を負わせるに至った。
A受審人は、茨城県大津港南方海域の漁場に達して停留する場合、自船に向首してくる正一丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。
しかし、同人は、停留している自船に向かってくる船舶はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正一丸を見落としたまま、機関を前進にかけるなどして、衝突を避けるための措置をとらず、停留を続けて衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。

参考図






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