|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年10月8日05時33分 長崎県西彼杵郡崎戸町平島コモダ湾 2 船舶の要目 船種船名 漁船第六十七多福丸
漁船常栄丸 総トン数 6.6トン 5.24トン 全長 14.91メートル 登録長
10.98メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 300キロワット 漁船法馬力数 70 3 事実の経過 第六十七多福丸(以下「多福丸」という。)は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、平成9年10月8日03時40分航行中の動力船が表示する法定灯火を、点灯して長崎県平島漁港を発し、同漁港の南方6海里ばかりの漁場に向かい、かわはぎなどの雑魚300キログラムを獲て操業を終え、船首0.70メートル船尾1.05メートルの喫水をもって、同日05時18分ごろ漁場を発進して帰途に就いた。 A受審人は、05時30分少し過ぎ平島灯台から161度(真方位、以下同じ。)2,200メートルの地点において、針路を007度に定めて手動操舵とし、機関回転数を毎分1,600の半速力前進より少し下げ、15.0ノットの対地速力で進行し、同時31分右舷船首3度1,050メートルのところに、常栄丸の紅灯1個を初めて認め、同船とば互いに左舷を対して航過するものと考えて続航した。 05時32分少し過ぎA受審人は、右舷船首6度480メートルに、常栄丸の紅、緑2灯を認める状況となったので、右舵10度をとって右転し、間もなく同船の紅灯1個だけを認めるようになったところから、針路を原針路に戻して常栄丸の紅灯を視認しながら進行した。 多福丸は、原針路、原速力で続航中、05時33分わずか前A受審人が急に左転して前路に進出する常栄丸を認めたものの、どうすることもできず、05時33分平島灯台から132度1,230メートルの地点において、その船首が常栄丸の右舷船首部に前方から30度の角度をもって衝突した。 当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。 また、常栄丸、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人と同人の妻で甲板員のCと2人で乗り組み、伊勢海老漁の目的で、船首0.68メートル船尾1.60メートルの喫水をもって、同日05時25分平島漁港を発し、同漁港の東方4海里ばかりの漁場に向かった。 ところで、常栄丸は、B受審人が昭和51年3月に新造船として購入したところ、当初からマスト灯及び船尾灯を設置してなく、同人は、夜間航行するにはこれらの灯火を設備しなくてはならないことを知っていたものの、僚船の中にはこれらの灯火を備えない船もいたところから、同灯火を備えないまま操業に従事していた。また、平成7年ごろB受審人は、両色灯の木製台への取付けが緩んでいるのに気付き、応急措置としてビニールテープを巻いてこれを固定したものの、その際、右方に5度ばかりに偏位して紅、緑2灯の視認できる範囲が右舷船首3度から7度の範囲となっていることに気付かないまま、操業を続けていた。 B受審人は、05時30分平島灯台から098度1,050メートルの地点において、針路を平島南端の菰崎(こもさき)と名乗瀬(なのせ)のほぼ中間に向く192度に定め、機関を全速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力として手動操舵で進行した。 05時31分半B受審人は、左舷船首2度1,050メートルのところに多福丸の白、紅、緑3灯を視認することができる状況であったものの、左方の菰崎の確認に気をとられ、接近する同船に気付かないまま続航し、同時32分少し過ぎ右舷船首1度480メートルのところに、多福丸の白、紅、緑3灯を初めて視認したが、自船の左側には陸岸が迫り、同船が正船首やや右舷側に見えるような気がしたところから、同船は左転して自船の右舷側を航過して行くものと思い、速やかに右転して同船を避けることことなく進行した。 常栄丸は、原針路、原速力を保ったまま続航中、05時33分わずか前B受審人が、多福丸を船首至近に認める状況となり、いくぶん自船の右舷船首方に位置するように見えたところから、慌てて左舵一杯として同船の前路に進出し、船首が35度ばかり左回頭したとき、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、多福丸は、船首部を圧壊し、常栄丸は、右舷船首部外板に破口を生じたが、のちいずれも修理された。また、A受審人は額に裂傷を、B受審人は右口角部に裂傷などを、C甲板員は頭部に外傷をそれぞれ負った。
(航法の適用) 本件は、夜間、ほぼ行き会い状態で互いに接近する両船が衝突したものであるが適用すべき航法について検討する。 多福丸側においては、航行中の動力船が表示すべき法定灯火を点灯していたところであり、何ら言及すべき点は存在しない。 しかしながら、常栄丸側においては、マスト灯火及び船尾灯を点灯していなかったばかりか、両色灯が船首船尾線に対して5度右偏した状態に設置されていたので、両船がほとんど真向かいに行き会う状況においては、多福丸からは紅灯のみが視認される状況にあり、同船が紅、緑2灯を同時に見るのは同船が右舷船首3度から7度の範囲から接近する場合であり、夜間、ほとんど真向かいに行き会う状況にある本件の場合において、多福丸側に対し正当な航法判断を求めることは困難な状況にあったと言える。 したがって、本件については、行会い船の航法を適用することはできず、海上衝突予防法第39条を適用して船員の常務によって律するのが相当である。
(原因) 本件衝突は、夜間、長崎県西彼杵郡崎戸平島のコモダ湾において、常栄丸が、航行中の動力船が表示する法定灯火を点灯しなかったばかりか、白、紅、緑3灯を表示して接近する多福丸に対し、速やかに右転する措置をとらず、同船の前路に進出したことによって発生したものである。
(受審人の所為) B受審人は、夜間、長崎県西彼杵郡崎戸町平島のコモダ湾において、白、紅、緑3灯を表示して接近する多福丸を視認した場合、互いに著しく接近することのないよう速やかに右転してを同船を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷側には陸岸が迫り、多福丸が正船首やや右舷側に見えるような気がしたところから、同船が左転して自船の右舷側を航過して行くものと思い、速やかに右転して同船を避けなかった職務上の過失により、針路を左方に転じて同船の前路に進出し、同船との衝突を招き、自船の右舷船首部破口、多福丸の船首部圧壊などの損傷を生じさせ、同人及び同人の妻並びにA受審人に負傷を被らせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規走により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
|