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1999年(平成11年)

平成10年横審第85号
    件名
引船第6三協丸作業船第661良成丸引船列衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年2月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

長浜義昭、猪俣貞稔、河本和夫
    理事官
西田克史

    受審人
A 職名:第6三協丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
三協丸…浚渫船及びD号には損傷なし
良成丸…左舷側から転覆し、機関等に濡れ損

    原因
三協丸…動静監視不十分、船員の常務(前路進出)不遵守

    主文
本件衝突は、第661良成丸引船列の港内移動を支援中の第6三協丸が、動静監視不十分で、同引船列の前路に進出したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年1月25日07時00分
名古屋港
2 船舶の要目
船種船名 引船第6三協丸
総トン数 16トン
全長 13.46メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 316キロワット
船種船名 作業船第661良成丸 浚渫(しゅんせつ)船第661良成丸 土運バージD-15
登録長 9.50メートル
全長 11.0メートル 70.0メートル 66.5メートル
幅 26.0メートル 15.0メートル
深さ 5.0メートル 5.0メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 95キロワット
3 事実の経過
第6三協丸(以下「三協丸」という。)は、非自航式鋼製浚渫船第661良成丸(以下「浚渫船」という。)の港内移動や、土運バージの差し替えなど浚渫船の支援作業に専ら従事する鋼製引船で、名古屋港第4区の金城埠(ふ)頭82号岸壁(以下、岸壁の名称については「金城埠頭」を省略する。)前面20メートルの水域に、同岸壁に沿う北北西方に向首しスパッド2本を降ろして停泊している浚渫船の左舷前部に接舷中のところ、A受審人が単独で乗り組み、船首0.90メートル船尾2,00メートルの喫水をもって、平成10年1月25日06時30分発進して作業を開始した。
ところで、A受審人は、浚渫土砂を積み終えた土運バージを浚渫船から引き離し、別の土運バージを押航してきた押船に連結したのち、82号岸壁北側の81号岸壁前面100メートルの水域に浚渫船を移動する作業に従事することになっていた。
こうしてA受審人は、浚渫船の左舷側後部に接舷していた浚渫土砂満載の土運バージを82号岸壁の南西500メートルの水域まで引き出して押船に連結し、綱取りのため同土運バージに同乗していた浚渫船の作業員(以下「作業員」という。)1名を移乗させたころ、作業船第661良成丸(以下「良成丸」という。)が、空倉の非自航式鋼製土運バージD-15(以下「D号」という。)を左舷側後部に新たに接舷させた浚渫船を曳(えい)航する態勢に入ったのを認め、06時54分自船も支援するため浚渫船に向かった。
A受審人は、操舵室中央の操舵輪と同室右舷側の主機遠隔操縦装置の間に立って操船にあたり、06時57分移動を開始した浚渫船の右舷側前部に船首を付け、作業員を同船に移乗させるとともに、浚渫船の船首を左方に押して回頭支援を行い、同時59分少し過ぎ同支援を終え、良成丸の船首を回ってD号の接舷している浚渫船左舷側の船首に曳航索をとって曳航支援することとし、同時59分半名港西大橋橋梁灯(C3灯)より146度(真方位、以下同じ。)1,400メートルの82号岸壁の上屋北西端(以下「上屋北西端」という。)から293度80メートルの地点において、良成丸引船列を左舷側に5メートル離す326度の針路とし、機関を回転数毎分700にかけ6.0ノットの対地速力で、同引船列に沿って手動操舵により進行した。
A受審人は、良成丸引船列の前方を回って浚渫船の左舷船首に向かうつもりで左舷船首至近に良成丸を認めながら進行し、その後操舵室左舷側の開放中の出入口に認めるようになった良成丸の操舵室が後方にかわって見えなくなったので、同引船列の速力が自船より大幅に遅いことから十分に良成丸をかわしたものと思い、07時00分わずか前上屋北西端から309度145メートルの地点において、操舵室左舷側に移動し良成丸を目視して同引船列の前路を無難に航過することができるかどうか確認するなどの動静監視を行うことなく、同引船列の左方に出ようと左舵15度をとって良成丸の前路に進出し、07時00分上屋北西端から306度155メートルの地点において、281度に向首し、原速力のままの三協丸の左舷側前部が、良成丸の船首に後方から45度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
また、良成丸は、浚渫船専属の鋼製作業船で、浚渫船の右舷側に接舷中のところ、三協丸とともに浚渫船の港内移動作業を行うこととし、船長Bが単独で乗り組み、船首0.55メートル船尾1.25メートルの喫水をもって、同日06時50分曳航準備を開始し、後部甲板上に設置された曳航用フックから伸出した直径80ミリメートル長さ約40メートルの合成繊維製曳航索を、D号を左舷側後部に接舷させ、作業員7人を乗せ、船首尾とも280メートルの等喫水となった浚渫船の右舷船首にとって引船列をなし、同時55分曳航を開始した。
良成丸引船列は、その後三協丸の支援を受けてゆっくりと左回頭し、06時59分少し過ぎ上屋北西端から300度120メートルの地点において、326度の針路に定めて手動操舵とし、やがて三協丸が浚渫船の左舷船首に曵索をとって曳航支援するのを待ちながら1.5ノットの曳航速力で進行中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、三協丸、浚渫船及びD号には損傷がなかったものの、良成丸が、自船正船首のタイヤフェンダーと三協丸左舷側前部のタイヤフェンダーが互いに噛(か)み込んだまま、三協丸に押されて左転し、浚渫船を横引きする状態となって左舷側から転覆し、機関等に濡れ損を生じたが、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、名古屋港第4区の金城埠頭前面の水域において、良成丸引船列の港内移動を支援中の三協丸が、支援態勢を変更するために同引船列の船首方向を回って反対舷に赴く際、動静監視不十分で、同引船列の前路に進出したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、名古屋港第4区の金城埠頭前面の水域において、良成丸引船列の港内移動を支援中、支援態勢を変更するために同引船列の船首方向を回って反対舷に赴く場合、目視して前路を無難に航過することができるかどうか確認するなど同引船列に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、同引船列の速力が自船より大幅に遅いので大丈夫と思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同引船列を目視することなく、左転し同引船列の前路に進出して衝突を招き、良成丸が転覆して機関等に濡れ損を生じるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図1

参考図2






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