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1999年(平成11年)

平成10年門審第76号
    件名
漁船第二十八長漁丸漁船新海丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年8月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

供田仁男、宮田義憲、西山烝一
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:第二十八長漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:新海丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
長漁丸…左舷船首部外板に擦過傷
新海丸…右舷船尾部船底外板に裂傷、機関等が濡損

    原因
長漁丸…動静監視不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
新海丸…見張り不十分、警告信号不履行、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

    二審請求者
理事官千手末年

    主文
本件衝突は、新海丸を追い越す第二十八長漁丸が、動静監視不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、新海丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月16日21時50分
宮崎港北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八長 漁丸漁船新海丸
総トン数 19.00トン 4.3トン
全長 11.95メートル
登録長 19.29メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190 50
3 事実の経過
第二十八長漁丸(以下「長漁丸」という。)は、船体後部に操舵室を設け、中型まき網漁業船団に属して専ら漁獲物の運搬に従事するFRP製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み、船首0.6メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成9年7月16日18時05分水揚げのために寄港していた宮崎県門川漁港を発し、船団が操業する都井岬北方の漁場に向かった。
A受審人は、離岸操船ののち自ら船橋当直に就き、18時40分半細島灯台から102度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点において、針路を194度に定め、機関を9.5ノット(対地速力、以下同じ。)の全速力前進にかけて日向灘を南下した。
A受審人は、平素から水揚げ港、漁場間の往復航海中の船橋当直を甲板部員にも交代で行わせており、21時30分宮崎港内防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から051度6.6海里の地点に達したとき、漁場までの単独の当直をB指定海難関係人に委ねることとした。
その際、A受審人は、B指定海難関係人が長年一緒に乗船して当直経験が豊富なので改めて指示するまでもないと思い、他船を認めたならば動静監視を行い、接近するときには報告するよう十分に指示することなく、同人と交代して操舵室内後部の寝台で就寝した。
B指定海難関係人は、自動操舵のまま同一針路、速力で当直を引き継ぎ、航行中の動力船の灯火が点灯していることを確かめ、操舵室内右舷側の台に腰掛けて見張りを行ううち、21時36分左舷船首1度1.5海里に底びき網を曳網中の新海丸が表示する緑、白2灯と船尾灯とを初めて視認たが、まだ距離があるように見えたことから、同船の動静を十分に監視せず、折から右舷前方に広がる宮崎港周辺の夜景を眺めながら進行した。
21時47分B指定海難関係人は、新海丸が左舷船首1度600メートルになり、その後同船を追い越す態勢で接近するのを認め得る状況となったものの、依然として動静監視を十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、A受審人に報告することができなかった。
こうして、長漁丸は、A受審人による操船が行われないまま、新海丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまで同船の進路を避けることなく南下を続け、21時50分わずか前B指定海難関係人が船首至近に迫った新海丸の船体を認めて手動操舵で右舵一杯をとったものの、舵効が現れないうち、21時50分防波堤灯台から077度4.5海里の地点において、原針路、原速力で、その球状船首部の左舷側が新海丸の右舷船尾部船底に後方から1度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、視界は良好であった。
A受審人は、衝突の衝撃で目覚め、事後の措置にあたった。
また、新海丸は、船体の中央部に操舵室を設け、汽笛を装備したFRP製漁船で、C受審人ほか1人が乗り組み、底びき網漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日1700分宮崎県川南漁港を発し、同時40分宮崎港北東方沖合の漁場に至って待機したのち、操業に取り掛かった。
C受審人は、20時00分防波堤灯台から043度8.6海里の地点において、投網作業を終えると同時に針路を195度に定め、機関を3.0ノットの曳網速力にかけ、船尾端から網の先端までの距離を約215メートルとして曳網を開始し、航行中の動力船の灯火に加えて操舵室上部の後部マストにトロールにより漁労に従事していることを示す緑、白の全周灯を掲げ、単独の船橋当直に就いて操舵室内でいすに腰掛け、手動操舵にあたって宮崎港北東方沖合を南下した。
21時47分C受審人は、防波堤灯台から075度4.6海里の地点に達したとき、右舷船尾2度600メートルに長漁丸の表示する白、紅及び緑3灯を視認できる状況であったが、漁労に従事していることを示す灯火を掲げた自船を他船が避けてくれるものと思い、後方の見張りを十分に行っていなかったので、これを見落とし、その後同船が自船を追い越す態勢で接近することに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近しても転舵するなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行した。
21時50分わずか前C受審人は、揚網に備えて反転しようとしたとき、長漁丸の機関音を聞いて後方を振り向き、至近に迫った同船の船体を認めたものの、どうすることもできず、新海丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、長漁丸は左舷船首部外板に擦過傷を生じ、新海丸は右舷船尾部船底外板に裂傷を生じたほか、長漁丸の球状船首部にすくい上げられ、左舷側に傾斜して瞬時に転覆し、機関等が濡損を被ったが、同船により宮崎港に曳航されたのち修理され、C受審人及び甲板員は長漁丸に救助された。

(原因)
本件衝突は、夜間、宮崎港北東方沖合において、底びき網を曳網中の新海丸を追い越す長漁丸が、動静監視不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、新海丸が、後方の見張りが不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
長漁丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対して他船を認めたならば動静監視を行い、接近するときには報告するよう十分に指示しなかったことと、同当直者が、新海丸の動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、漁場に向けて宮崎港北東方沖合を南下中、船橋当直を無資格の甲板員に委ねる場合、他船を認めたならば動静監視を行い、接近するときには報告するよう十分に指示すべき注意義務があった。しかし、同人は、同甲板員が長年一緒に乗船して当直経験が豊富なので改めて指示するまでもないと思い、他船を認めたならば動静監視を行い、接近するときには報告するよう十分に指示しなかった職務上の過失により、当直者が新海丸の動静監視を十分に行わず、同船を追い越す態勢で接近していることの報告を受けられないまま、その進路を避けることなく進行して衝突を招き、長漁丸に左舷船首部外板の擦過傷を、新海丸に右舷船尾部船底外板の裂傷をそれぞれ生じさせたほか、同船を転覆させて機関等に濡損を被らせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、底びき網を曳網して宮崎港北東方沖合を南下する場合、後方から接近する他船を見落とすことのないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、漁労に従事していることを示す灯火を掲げた自船を他船が避けてくれるものと思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により自船を追い越す態勢で接近する長漁丸に気付かず、警告信号を行うことも、更に接近しても転舵するなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、漁場に向けて宮崎港化東方沖合を南下中、単独で船橋当直に就き、前路に新海丸が表示する緑、白2灯と船尾灯とを視認した際、同船に対する動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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