日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年長審第14号
    件名
旅客船第二フェリー度島岸壁衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年8月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、原清澄、保田稔
    理事官
上原直

    受審人
A 職名:第二フェリー度島機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
船首防舷材の緩衝用ゴム押さえ損傷、ランプドアの凹損、岸壁の側面に長さ約5メートルにわたる亀裂

    原因
主機減速逆転機の遠隔・機側切替装置に対する点検不十分

    主文
本件岸壁衝突は、主機減速逆転機の点検が不十分で、同機の遠隔・機側切替用兼機側操作用レバーが遠隔操作位置から外れ、同機の遠隔操作が不能となったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月24日09時05分
長崎県度島漁港
2 船舶の要目
船種船名 旅客船第二フェリー度島
総トン数 199トン
全長 34.36メートル
登録長 30.75メートル
幅 8.50メートル
深さ 2.99メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 661キロワット
回転数 毎分900
3 事実の経過
第二フェリー度島は、平成8年1月に竣工した全通一層甲板型の鋼製旅客船兼自動車渡船で、上甲板の船首端から約3分の2の長さの部分を車両甲板として船首端中央部にランプドアを設け、同ドアの付け根の真下に船横長さ約5メートルの船首防舷材を取り付け、車両甲板の後部下方に配置した機関室に減速逆転機付きの主機を据え、上甲板全体を覆う船楼の船首部両舷側にランプドアとウインドラスの各操作盤を設置し、船楼の船首端から8メートルないし11.5メートルの間に配置した操舵室内に主機の遠隔操縦盤を備え、航行区域を限定沿海区域として乗組員4人が乗り組み、僚船1隻とともに、長崎県の度島漁港(本村地区)、飯盛漁港及び平戸港間の定時運航を1日に4便行っていた。
また、主機の減速逆転機は、株式会社神崎高級工機製作所製のYC-850型と称し、上部に前進・後進切替弁、3位置シリンダ、遠隔・機側切替装置等を備え、操舵室で主機の遠隔操縦ハンドルを中立位置から前進方向または後進方向に動かすと、3位置シリンダが空気圧によって前後に移動し、中立位置から前進位置または後進位置となり、同シリンダの動きを遠隔・機側切替装置によって前進・後進切替弁に伝えるようになっていた。
ところで、遠隔・機側切替装置は、3位置シリンダの前後往復運動を前後40度までの回転運動に変える金具A、全長が210ミリメートル(以下「ミリ」という。)で、中間部に縦10ミリ横12ミリ幅30ミリのブロック部分を有する遠隔・機側切替用兼機側操作用レバー(以下「レバー」という。)、内部を貫通したレバーによって回転運動し、前進・後進切替弁駆動用の金具Bと、前進、中立及び後進の各位置を操舵室で表示させるための位置発信器駆動用の連結棒とを接続する金具C、レバーを下向きに引っ張るためのスプリング等から構成され、レバーを垂直にすると中立位置、前方に40度傾けると後進位置、後方に40度傾けると前進位置になり、レバーのブロック部分を金具Aの上部と金具Cの上部とにそれぞれ設けられた溝に嵌(は)め込むと遠隔操作位置であった。
ところが、レバーは、遠隔操作位置にある場合、自重とスプリングによって常時静的な下向きの力を受け、金具A及び金具Cの両溝の底に接するようになっていたものの、竣工以来、遠隔操作位置として両溝に嵌め込まれたままであったので、ブロック部分と両溝のすき間にごみが付着したり、さびが発生したりして同部分が両溝と固着気味となったうえ、前進位置から中立位置となる際及び後進位置から中立位置となる際には、ブロック部分が金具Aの溝の側面から斜め上向きの力を受けるため、いつしか同部分が、レバーの自重とスプリングの押下げ力に抗して両溝から徐々に浮き上がっていた。
一方、A受審人は、本船の竣工以来、本船と僚船に一等機関士あるいは機関長として繰り返し乗り組み、機器の点検・整備や各港での乗船券販売などにあたり、出入港時は車両甲板上の配置について待機することにしていたところ、平成9年10月24日06時30分ごろ度島漁港に停泊中の本船に赴き、第1便としての発航準備にかかり、主機減速逆転機の点検を行ったが、発航前にはいつも操舵室で同機の作動テストを行っていて、同機の遠隔操作に支障をきたしたことがなかったので大丈夫と思い、油だめ内の潤滑油や3位置シリンダに異状がないことを確認した程度で、遠隔・機側切替装置の点検を十分に行うことなく、レバーのブロック部分が金具Aと金具Cの両溝から著しく浮き上がっていることに気付かないで、そのまま放置した。
こうして本船は、A受審人ほか3人が乗り組み、同日07時00分度島漁港を発し、飯盛漁港と平戸港に順に寄り、08時50分飯盛漁港に再び寄って旅客5人と車両1台を乗せ、船首1.6メートル船尾2.9メートルの喫水をもって、同時55分定刻どおりに同漁港を発し、やがて度島漁港内に入り、主機を遠隔操縦として種々に使用しながら、レバーのブロック部分が金具Aと金具Cの両溝から外れかかった状態となって進行した。
09時02分半本船は、速力が3ノットとなって度島港沖A防波堤南灯台から284度(真方位、以下同じ。)27メートルの地点に達したとき、主機を中立運転とし、船長が操舵室で、一等航海士が船楼の船首部右舷側で、一等機関士がランプドアの付け根付近で、A受審人が車両甲板の後部右舷側出入口付近でそれぞれ入港配置に就いて続航し、その後いつものように、船首付け着岸予定の岸壁に向けて左転するためにいったん主機を極微速力前進にかけ、速力が3ノットばかりとなって同時04分同灯台から350度137メートルの地点に達したとき、針路を岸壁にほぼ直角に向首する350度として主機を中立運転に戻したところ、レバーのブロック部分が金具Aと金具Cの両溝から外れ、同時04分半同灯台から350度171メートルの地点に至って船首端部が岸壁まで40メートルばかりとなったとき、行きあしを減ずるために主機を後進にかけようとしたものの、レバーが遠隔操作位置となっていなくて後進にかからなかった。
船長は、直ちに、再度後進を試みたものの不能であったので、主機が後進にかからないから岸壁との衝突の衝撃を緩和するためにランプドアを降ろすように船内放送し、これを聞いた一等航海士がランプドアを降ろし始め、A受審人が機関室に急行してレバーが遠隔操作位置となっていないことを認め、レバーを手動で後進位置にしようとした09時05分度島港沖A防波堤南灯台から350度220メートルの地点において、本船は、同一針路のまま、残速力2ノットばかりで、船首防舷材が岸壁の側面に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、海上は穏やかで、潮候は下げ潮の末期であった。
岸壁衝突の結果、船首防舷材の緩衝用ゴム押さえ損傷、ランプドアの凹損等のほか、岸壁の側面に長さ約5メートルにわたる亀裂(きれつ)を生じたが、のちいずれも修理され、主機減速逆転機に関しては、レバーの分解整備がなされた。

(原因)
本件岸壁衝突は、発航時における主機減速逆転機の遠隔・機側切替装置に対する点検が不分で、同機の遠隔・機側切替用兼機側操作用レバーが遠隔操作位置から著しく浮き上がったまま放置され、同機を遠隔操作しながら、長崎県度島漁港の岸壁に船首付けとして接近中、同レバーが遠隔操作位置から外れて同機の遠隔操作不能となり、前進行きあしを止められなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、第1便で発航するにあたって主機減速逆転機を点検する場合、同機は常に遠隔操作され、出入港中は車両甲板上で待機していて同機の直接監視ができないのであるから、同機の遠隔操作に支障をきたすことのないよう、同機の遠隔・機側切替装置に対する点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、竣工以来、発航時はいつも操舵室で同機の作動テストを行っていて、同機の遠隔操作に支障をきたしたことがなかったので大丈夫と思い、油だめ内の潤滑油や3位置シリンダに異状がないことを確かめた程度で、同装置の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、遠隔・機側切替用兼機側操作用レバーが遠隔操作位置から著しく浮き上がったまま放置し、長崎県度島漁港に入航中、同レバーが遠隔操作位置から外れて同機の遠隔操作が不能となり、前進行きあしを止められないで岸壁との衝突を招き、船首防舷材、ランプドア及び岸壁にそれぞれ損傷を生ずるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION