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1999年(平成11年)

平成11年函審第5号
    件名
漁船第58共栄丸防波堤衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年4月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、大山繁樹、古川隆一
    理事官
熊谷孝徳

    受審人
A 職名:第58共栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
左舷船首部を圧壊、同外板に破口を伴う凹損、船長が約1週間の通院加療を要する前額部挫傷及び胸背部打撲挫傷、作業員4人が約1週間から1か月の通院加療を要する助骨骨折、頭部及び腰部打撲傷

    原因
船位確認不十分

    主文
本件防波堤衝突は、船位の確認が不十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月1日04時00分
北海道網走市能取漁港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第58共栄丸
総トン数 3.6トン
登録長 10.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70
3 事実の経過
第58共栄丸(以下「共栄丸」という。)は内水面漁業のほたて貝養殖漁業に従事する、船首船橋型のFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、作業員6人を乗せ、ほたて貝の種苗が付着している円筒形の網を揚げる目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成10年9月1日03時54分北海道網走市能取漁港能取地区(以下「能取地区」という。)を僚船1隻とともに発し、能取湖北東部にある区画漁業権漁場に向かった。
ところで、能取地区は、網走市北方のオホーツク海に面して東西に延びる海岸に開口している、東西約4海里、南北約5海里の楕円形をした能取湖の北西部の湖岸にあり、船だまり入口から154度(真方位、以下同じ。)方向に幅約25メートル長さ380メートル水深2メートルの水路が設けられ、これに続いて同方向に幅が約75メートルに広げられて長さが350メートルとなり、防砂堤が、水路の両側に沿ってそれぞれ構築され(以下、北側の防砂堤を「船だまり防砂堤」、南側の防砂堤を「沖防砂堤」という。)、水路の出口沖合に設けられた東西に延びる長さ85メートルの島防波堤が出口を東西に分け、東口の水路の幅が約70メートル、西口の水路の幅が約50メートルとなっていた。また、同防波堤東端から南東200メートルばかりに1隻の漁船が錨泊してポンプで陸上の養殖水槽に湖水を送水していた。
A受審人は、出航する時はいつも、船だまり防砂堤水路を南下したのち、広くなった沖防砂堤水路の左側端に寄せて進行し、左側の沖防砂堤突端を航過したとき、左舵少しをとって水路東口の島防砂堤東端を替わしたのち大角度に右転し、前示錨泊船の周囲に浮いている送水管を固定するロープと島防波堤東端との間を通って区画漁業権漁場に向かっていた。
A受審人は、発航時、霧雨により視界が制限される状況であったが、レーダーを休止したまま、航行中の動力船が示す所定の灯火のほか操舵室上部のサーチライトを点灯し、機関を極微速力前進にかけて船だまりを南下したのち、03時57分船だまり防砂堤水路の入口に達したとき、針路を154度に定め、機関を微速力前進にかけて5.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、定針後間もなくサーチライトを左舷方に向けて左側の防砂堤を照射して南下し、03時59分船だまり防砂堤水路の南端に達したとき、機関を半速力前進に増速したところ、先航する僚船の進行波の影響を受けて、右方に2度圧流されながら12.0ノットの対地速力で続航するうち、やがてサーチライトで見えていた左側の防砂堤が黒影となって見えにくくなったが、依然、レーダーを休止していたので、水路の右側端に寄って進行していることに気付かなかった。
04時00分少し前A受審人は、右側の沖防砂堤突端の手前50メートルばかりの地点に達したとき、左側の沖防砂堤の黒影が見えなくなったことから、左側の沖防砂堤突端を航過し、島防波堤東端の少し手前の右転予定地点に達したものと思い、レーダーで船位を確認することも、サーチライトを前向きにして島防波堤を確認することも行わずに、04時00分わずか前右舵10度をとり、機関を約14ノットの全速力前進に増速して右転中、前部上甲板にいた作業員の叫び声を聞き、驚いて機関を中立としたが、間に合わず、04時00分能取岬灯台から252度5.5海里の地点において、186度に向首した共栄丸の船首が、島防波堤西端に左舷後方から71度の角度で衝突した。
当時、天候は霧雨で風力2の北風が吹き、潮候はほぼ低潮時で、視程は約1,000メートルであった。
衝突の結果、共栄丸は、左舷船首部を圧壊し、同外板に破口を伴う凹損などの損傷を生じたが、僚船に引かれて能取地区に帰港し、のち修理された。また、A受審人は、約1週間の通院加療を要する前額部挫傷及び胸背部打撲挫傷を負い、作業員4人は、約1週間から1か月の通院加療を要する助骨骨折、頭部及び腰部打撲傷などを負った。

(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、霧雨で視界が制限された北海道能取湖の能取漁港能取地区の水路を南下し、同水路東口から出航する際、船位の確認が不十分で、同水路出口の沖合の島防波堤西端に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、霧雨で視界が制限された北海道能取湖の能取漁港能取地区の水路東口から出航する場合、同水路出口の沖合の島防波堤を無難に替わすよう、右転する前にレーダーを使用して船位を十分に確認、すべき注意義務があった。ところが、同人は、水路の左側の防砂堤の黒影が見えなくなったことから、左側の沖防砂堤突端を航過して島防波堤東端手前の右転地点に達したものと思い、船位を十分に確認しなかった職務上の過失により、島防波堤との衝突を招き、共栄丸に左舷船首部圧壊及び同外板に破口を伴う凹損などの損傷を生じさせ、自身の前額部に挫傷及び胸背部に打撲挫傷を負い、作業員4人に助骨骨折、頭部及び腰部打撲傷などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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