|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年11月10日17時45分 周防灘 2 船舶の要目 船種船名 貨物船第拾八明神丸
プレジャーボート壱孝 総トン数 148トン 登録長 43.17メートル 11.39メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
404キロワット 264キロワット 3 事実の経過 第拾八明神丸(以下「明神丸」という。)は専ら瀬戸内海各港間の貨物運送にに従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人が2人で乗り組み、空倉のまま、船首0.4メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成8年11月10日11時05分新居浜港を発し、上関海峡経由で徳山下松港に向かった。 A受審人は、B指定海難関係人と25年ほど乗り合わせ、航海当直も適宜交代しながら行っていたものの、上関海峡など狭い水道では同人の当直中であっても自ら昇橋して操船に当たることにしており、出港後単独の当直に就いて安芸灘から伊予灘に入り、16時ごろには航行中の動力船の灯火を表示して西行し、上関海峡を北上して17時36分周防筏瀬灯標から192度(真方位、以下同じ。)600メートルの地点に達したとき、針路を大水無瀬島灯台の少し南に向首する305度に定めて自動操舵とし、機関を10.0ノットの全速力前進にかけて進行した。 17時40分A受審人は、狭い水域から広い水域に出たことから、上関海峡辺りから昇橋していたB指定海難関係人と当直を交代したが、その際、単独の航海当直経験の豊富な同人に特に指示することもあるまいと思い、周囲の見張りを十分に行うよう指示することなく降橋した。 当直を交代したころB指定海難関係人は、船首方に反航船を認め、これに注意して続航したところ、17時42分周防牛島灯標から099度1海里の地点に達したとき、左舷船首81度1,500メートル前路を右方に横切る壱孝の白、緑2灯を視認し得る状況となり、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、船首方の反航船に気を取られ、左舷方の見張りを十分に行っていなかったので壱孝に気付かず、A受審人に報告しなかったことから、明神丸は、警告信号を行うことができないまま進行した。 17時44分B指定海難関係人は、周防牛島灯標から088度1,400メートルの地点に至ったとき、壱孝がほぼ同方位530メートルに接近していたが、依然、これに気付かず、同船との衝突を避けるための協力動作をとることもできないまま、船首方の反航船を右舷側にかわすため295度として続航中、同時45分少し前左舷正横至近に迫った壱孝の灯火にようやく気付き、汽笛を吹鳴して探照灯を照射し、機関を半速力後進としたが及ばず、17時45分明神丸は、周防牛島灯標から081度1,100メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その左舷船首部に、壱孝の右舷船首が後方から45度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力4の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。 A受審人は、食事の準備中、汽笛の吹鳴を聞くとともに、機関音が変わったので急ぎ昇橋して衝突を知り、事後の措置に当たった。 また、壱孝は船体中央部に操舵室を有するFRP製のプレジャーボートで、C受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日07時15山口県平生港定係地を発し、佐田岬北方の釣り場に向かい、8時間ばかり同地で魚釣りをしたのち、16時45分佐田岬灯台から352度12.6海里の地点を発進し、日没が近かったことから航行中の動力船の灯火を表示して帰途に就いた。 ところで、C受審人は、月に4ないし5回壱孝に乗り、同県祝島や平郡島沖合に出かけていたものの、今まで日没までには定係港に帰ることにしており、当日も早めに帰途に就く予定が釣りが好調であったためつい時間を忘れ、日没直前まで釣りを続けた結果初めての夜間航行を経験することとなった。 C受審人は、日没後の薄明の中、鼻繰瀬戸を北上して、17時40分半周防牛島灯標から160度1.2海里の地点に達し、牛島東端の平茂鼻に並航したとき、針路を円岩灯標の灯火に向く009度に定め、機関を全速力前進より少し減じた17.0ノットとし、船首方向からの風で操舵室前の風防ガラスに波しぶきがかかり、前方が見えにくい状況の下、手動操舵により進行した。 17時42分C受審人は、右舷船首35度1,500メートルに前路を左方に横切る明神丸の白、白、紅3灯を視認し得る状況となり、その後、衝突のおそれのある態勢で接近したしたが、夜間航行に不慣れであったうえ、前方が見えにくかったため、進行方向の見張りのみに気を取られ、周囲の見張りを十分に行っていなかうたので、明神丸に気付かず、同船の進路を避けないまま続航した。 17時45分少し前C受審人は、突然、船首至近に明神丸の船体を認め、急ぎ左舵一杯としたが及ばず、壱孝は、原速力のまま、340度を向首したとき前示のとおり衝突した。 衝突の結果、明神丸は、左舷船首部に擦過傷を生じ、壱孝は、右舷船首部に亀裂を生じたが、のち修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、平生港沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、壱孝が、見張り不十分で、前路を左方に横切る明神丸の進路を避けなかったことによって発生したが、明神丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。 明神丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の当直者に対し、見張りを十分に行うよう指示しなかったことと、当直者が見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) C受審人は、夜間、平生港沖合を航行する場合、右方から接近する明神丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操舵室前面の風防ガラスに波しぶきがかかり、船首方向が見えにくい状況であったため、同方向の見張りのみに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、明神丸の接近に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、自船の右舷船首部に亀裂を、明神丸の左舷船首部に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、平生港沖合において、無資格の部下に単独の船橋当直を行わせる場合、他船の接近について報告を得ることができるよう、周囲の見張りを十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、単独の当直経験の豊富な当直者に特に指示することもあるまいと思い、周囲の見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、当直者が壱孝の接近に気付かず、同人からの報告が得られなかったため、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもできないまま同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、夜間、平生港沖合を航行する際、見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
|