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1999年(平成11年)

平成9年広審第98号
    件名
漁船第三十五広隆丸貨物船ロロ・セントサ衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年1月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

織戸孝治、杉崎忠志、黒岩貢
    理事官
前久保勝己

    受審人
A 職名:第三十五広隆丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
広隆丸…右舷船首部に凹損
ロ号…左舷船首部に凹損

    原因
広隆丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
ロ号…横切りの航法(衝突回避惜置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第三十五広隆丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切るロロ・セントサの進路を避けなかったことによって発生したが、ロロ・セントサが、衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月21日15時48分
豊後水道速吸瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十五広隆丸 貨物船ロロ・セントサ
総トン数 199トン 15.375トン
全長 51.71メートル 160.50メートル
幅 7.80メートル 20.75メートル
深さ 3.60メートル 12.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 4,900キロワット
漁船法馬力数 440
3 事実の経過
第三十五広隆丸(以下「広隆丸」という。)は、国内各港間の活魚運搬に従事する船尾船橋型鋼製漁船で、船長B及びA受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.50メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、平成9年5月21日13時30分愛媛県西宇和郡三瓶町の三瓶港を発し、佐世保港に向かった。
ところで広隆丸の船橋当直は、機関長を除く4人による単独3時間4直制で、同当直者は使用海図に記載された針路線に沿って航行し、船長は自らの当直時間帯のほか狭水道航行時に昇橋することとしていた。また、A受審人は、発航前の1週間休暇下船し、三瓶町の自宅で休養を摂った後、発航当日に広隆丸に乗り組んだ。
14時00分A受審人は、発航操船を終えたB船長から当直を引き継ぎ、同時05分伊予小島灯台から232度(真方位、以下同じ。)2.3海里の地点で針路を265度に定め、自動操舵により機関を全速力前進にかけ11.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
A受審人は、15時26分ごろ佐田岬の手前約2海里の地点に至り、視界良好、航行に慣れた海域、且つ、周囲に他船を認めなかったので、船橋両舷の出入口扉を閉めてラジオのスイッチを入れ、操舵スタンド後方の椅子に腰をかけ、同スタンドに右肘を付いて寄り懸かり、左方に向いた姿勢となって当直に当たっていた。
15時40分佐田岬灯台から237度1.6海里に達したとき、A受審人は、右舷船首38度2海里のところに前路を左方に横切る態勢で速吸瀬戸を南下中のロロ・セントサ(以下「ロ号」という。)が存在し、その後同船のコンパス方位に明確な変化がなく衝突のおそれがある態勢で接近していたが、周囲の見張りを十分に行うことなく続航し、このことに気付かなかった。
こうしてA受審人は、右転するなどロ号の進路を避けることなく進行中15時48分、広隆丸は、佐田岬灯台から251度3海里の地点で、原針路、原速力のまま、その右舷船首部がロ号の左舷船首部に後方から40度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力1の北西風が吹き、視界は良好で、速吸瀬戸はほぼ憩流時であった。
自室で休息中のB船長は、衝撃を感じて異常に気付き、昇橋したところでロ号との衝突を知り、事後の措置に当たった。
また、ロ号は、船首船橋型鋼製自動車運搬船で、船長Cほか19人が乗り組み、自動車部品等2,304トンを積載し、船首5.25メートル船尾5.40メートルの喫水をもって、同日12時22分山口県三田尻中関港を発し、タイ王国バンコク港に向かった。
C船長は、発航時から操船指揮に当たって速吸瀬戸に向けて進行し、15時31分佐田岬灯台から293度4.1海里の地点で、針路を148度に定め、手動操舵により機関を全速力前進にかけ13.5ノットの速力で進行中、左舷方4.6海里ばかりのところに西行する広隆丸を初認し、このとき同船が同瀬戸を西航して横断するのか、右転して同瀬戸を北上するのかが不明で、自船の喫水が浅く、運動性能が若干低下していたことから、同時32分とりあえず平均速力0.3ノットの機関用意を令して続航した。
15時35分佐田岬灯台から287度3.5海里の地点で、C船長は、広隆丸が、依然、西行を続け、速吸瀬戸を横断する模様であるのを認め、同船との航過距離を隔てるため、右舵10度を命じて右転を開始したが、このころ広隆丸の船首振れを見て同船がわずかに右転を開始したものと思い、直ちに舵を戻し針路を158度に転じて進行した。
15時40分C船長は、佐田岬灯台から274度3.1海里の地点に違したとき、広隆丸を左舷船首35度2海里のところに視認し、同船のコンパス方位に明確な変化がなく衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め、避航を促す目的で汽笛を吹鳴するとともにVHF無線電話で呼掛けを行ったものの、なおも避航の動作が認められず、広隆丸が適切な避航動作をとっていないことが明らかになったが、同船において避航することを期待し、同時42分同船と方位の変化がないまま1.5海里に接近したが、自船の操縦性能を考慮して針路、速力の保持から離れ直ちに右転するなど広隆丸との衝突を避けるための動作をとることなく続航中、15時45分佐田岬灯台から256度2.7海里ばかりの地点で、近距離に迫った広隆丸との衝突の危険を感じて、右舵一杯をとり針路を225度に転じたとき、ロ号は、約7.0ノットの速力で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、広隆丸は右舷船首部に凹損を生じ、ロ号は左舷船首部に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、速吸瀬戸において、両船が互いに針路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、広隆丸が、見張り不十分でく前路を左方に横切るロ号の進路を避けなかったことによって発生したが、ロ号が、広隆丸において適切な避航動作をとっていないことが明らかになった際、右転するなと衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、速吸瀬戸を西行する場合、前路を左方に横切るロ号を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操舵スタンド後方の椅子に腰をかけ、同スタンドに右肘を付いて寄り懸かって左方に向いた姿勢で当直に当たり、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ロ号に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、ロ号の左舷船首及び広隆丸の右舷船首部に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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