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1999年(平成11年)

平成10年広審第114号
    件名
貨物船新月丸漁船美幸丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年5月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

横須賀勇一、釜谷獎一、織戸孝治
    理事官
向山裕則

    受審人
A 職名:新月丸次席一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:美幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
新月丸…右舷中央部外板に凹損
美幸丸…船首材を圧壊して浸水

    原因
新月丸…動静監視不十分、船員の常務(新たな危険、衝突回避措置)不遵守(主因)
美幸丸…見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、新月丸が、無難に航過する態勢の美幸丸に対し、動静監視不十分で、転針して新たな衝突のおそれを生じさせたうえ、同船を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、美幸丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年3月19日11時55分
瀬戸内海伊予灘
2 船舶の要目
船種船名 貨物船新月丸 漁船美幸丸
総トン数 499.96トン 4.73トン
全長 68.45メートル
登録長 9.92メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 882キロワット
漁船法馬力数 25
3 事実の経過
新月丸は、専ら、コイル等の鋼材輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、鋼材1,493トンを積載し、船首3.72メートル船尾4.86メートルの喫水をもって、平成10年3月19日09時00分山口県徳山下松港を発し、名古屋港に向かった。
A受審人は、単独で船橋当直中、11時45分天田島灯台から237度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点に達したとき、針路を095度に定め、機関を全速力前進にかけて手動操舵とし、南寄りの強風により7度左方に圧流され、船首振れを伴いながら088度の進路となって9.5ノットの対地速力で進行した。
11時52分A受審人は、天田島灯台から200度1.0海里の地点に達したとき、ほぼ正船首1,400メートルのところに美幸丸が存在し、北西進していたものの、このとき、たまたま自船の船首が左方に振れて右舷船首方に美幸丸を初認したのを一瞥して、同船が西進中で、このまま進行すれば、右舷対右舷で航過するものと思い、その動静に格別気を配らないまま続行した。
11時53分少し過ぎA受審人は、美幸丸を船首左舷10度700メートルに認め得る状況となり、このとき、同船と無難に替わる態勢であったが、船首振れでこのことに気付かず、同船に対する動静監視を十分に行うことなく、このころ左舷船首方に認めた平郡水道第1号灯浮標(以下「第1号灯浮標」という。)の北側を航行して推薦航路に従って北東進しようと、左転して、059度の針路に転じて054度の進路となって進行したところ、その後、美幸丸との方位の変化のないまま接近する態勢となり、新たな衝突のおそれを生じたが、このことに気付かなかった。
11時54分A受審人は、美幸丸が右舷船首26度480メートルに接近したころ、船橋前面の窓ガラスの洗浄を思い立ち、船橋内の洗浄水用の元バルブの操作を行って、この状況に気付かず、同船を避けるための措置をとらないまま進行中、同時55分少し前ふと前方を見たとき至近に同船の船体を認め、あわてて、汽笛を吹鳴したものの、新月丸は、11時55分天田島灯台から171度1,400メートルの地点において、原針路、原速力のまま、新月丸の右舷中央部に、美幸丸の船首が前方から59度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力7の南風が吹き、潮候は高潮時に当たり、視界は良好で、海上は波が高かった。
また、美幸丸は、はえなわ漁業に従事する木製漁船で、B受審人が単独で乗り組み、はえなわ漁業を行う目的で、船首0.6メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日02時30分山口県粭(すくも)島の係留地を発し、山口県八島南方海上の漁場に向かった。
B受審人は、薄明とともに操業を始めたものの、その後、次第に風が強まったので帰航することとし、11時07分八島灯台から172度1.0海里の揚縄地点を発し、針路を鼻繰瀬戸中央に向首する308度に定めて、自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて、南寄りの強風により右方に5度圧流されながら313度の進路となって7.0ノットの対地速力で進行した。
11時52分B受審人は、天田島灯台から155度1.1海里の地点に達したとき、同灯台の西方近くに点在する臼瀬の険礁地を避けるため、針路を298度に転じ303度の進路となって進行したとき、左舷船首23度1,400メートルのところに東進中の新月丸を視認し得る状況となったものの、同船に気付かず、機関室の点検を行い、前路の見張りを十分に行うことなく進行した。
11時53分少し過ぎB受審人は、天田島灯台から161度0.9海里の地点に達したとき、左舷船首33度700メートルのところに、無難に航過する態勢で東進中の新月丸が左転して、新たな衝突のおそれを生じさせたが、機関室の点検に気を取られ、依然、左舷船首方の見張りを十分に行わず、新月丸の左転に気付かず、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとることなく続航中、同時55分わずか前ふと前方を見たとき、同船を船首至近に認めたが、どうすることもできず、美幸丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、新月丸は右舷中央部外板に凹損を生じ、美幸丸は船首材を圧壊して浸水し、僚船に曳航されて山口県上関港に回航された。

(原因)
本件衝突は、荒天時、平郡水道西口において、東進中の新月丸が、無難に航過する態勢で北西進する美幸丸に対して、動静監視不十分で、左転して新たな衝突のおそれを生じさせたうえ、同船を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、美幸丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、新月丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、荒天時、天田島南方海上を平郡水道西口に向け東進中、前路に美幸丸を視認した場合、衝突のおそれを判断できるよう同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、美幸丸を一瞥しただけで、同船が西進しているものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、左転して新たな衝突のおそれを生じさせ、同船を避けるための措置をとらないまま進行して美幸丸との衝突を招き、自船の右舷中央部外板に凹損を生じさせ、美幸丸の船首材を圧壊し浸水させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、荒天時、天田島南方海上を北西進する場合、東進中の新月丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、機関室の点検に気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、新月丸の接近に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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