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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年5月27日08時00分 石川県能登半島西方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第2大勢丸
漁船第十八八幡丸 総トン数 19.43トン
4.9トン 全長 25.00メートル
14.30メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 漁船法馬力数 140 90 3 事実の経過 第2大勢丸(以下「大勢丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成8年5月26日10時30分石川県金沢港を発航し、同港から北方沖合約60海里の漁場に至って操業を始め、翌27日04時00分いか約300キログラムを獲たところで終夜の操業を終え、帰航することとした。 ところで、大勢丸は、同年4月下旬から金沢港を基地とし、毎週土曜日の魚市場休業日と隔週の火曜日の休漁日以外は、10時00分ごろ出航して約6時間で漁場に至り、日没から翌日の日出まで乗組員全員で漁労に従事したのち、基地に戻って水揚げが終われば直ちに出漁するという運航を繰り返しており、また、往復の船橋当直を、A受審人と有資格者の甲板員との2人による3時間交替制としていた。 それで、A受審人は、自分が船橋当直に就いていないときに睡眠をとっていたものの断続した休息であり、1箇月にわたってほぼ連日の操業のなか、当日の漁労を終えたとき、疲労が蓄積し、睡眠不足気味になっていた。 05時00分A受審人は、七ツ島灯台から285度(真方位、以下同じ。)11.7海里の漁場を発進すると同時に、針路を183度に定め、機関を全速力前進にかけ、操舵輪の後方に設けられたいすに腰を掛けて見張りにあたり、10.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。 やがて、A受審人は、07時26分海士埼灯台から344度5.4海里の地点に差し掛かったとき、終夜操業の疲れや睡眠不足から眠気を覚えるようになった。しかし、同人は、間もなく当直交替の時間となるのでそれまで眠気を我慢できるものと思い、次直の甲板員を起こして早めに当直を交替するなどの居眠り運航を防止する措置をとることなく、そのまま当直を続けるうち、いつしか居眠りに陥った。 こうして、A受審人は、07時54分海士埼灯台から279度1.8海里の地点に達したとき、右舷船首3度1.0海里のところに微速力で南下中の第十八八幡丸(以下「八幡丸」という。)を視認することができる状況で、その後その方位が変わらず、同船を追い越す態勢で接近していたが、居眠りしていたのでこのことに気付き得ず、八幡丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けることができないまま続航し、08時00分海士埼灯台から248度2.0海里の地点において、大勢丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首が、八幡丸の左舷中央部に後方から20度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力1の南南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。 また、八幡丸は、小型底びき網漁業従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、ごち網漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日02時50分石川県安部屋漁港を発し、03時45分ごろ同港から北東方沖合約10海里の漁場に至り、トロールにより漁労に従事していることを示す形象物を表示せずに操業を繰り返し、やがて水深約70メートルのところで4回目の掛け回しによるごち網の投入を終え、曳網を開始することとした。 ところで、八幡丸の漁法は、船尾両舷端からそれぞれ延出した直径24ミリメートル長さ約1,450メートルの鉛線を撚り込んだ引索を使用し、長さ約55メートルのごち網を船尾に引いて曳網に約40分間を要するもので、曳網開始の時点では、両引索は船尾から各々45度方向に600メートル出て海底に接し、そのまま同方向に延びて引索の長さの半分のところで90度ばかり内側に屈曲してごち網の網口に至る状態であった。 B受審人は、07時50分海士崎灯台から253度2.0海里の地点で、錨を163度に定め、機関を微速力前進よりやや減じた回転数毎分700にかけ、1.0ノットの対地速力で手動操舵により曳網を開始したとき、左舷船尾方1.7海里に大勢丸を初めて視認した。 07時54分B受審人は、海士埼灯台から251度2.0海里の地点で、左舷船尾23度1.0海里に自船を追い越す態勢の大勢丸を見るようになり、その後その方位が変わらず接近するのを認めたものの、いずれ大勢丸が避航するものと思い、操舵室において同船を見守りながら進行した。 07時59分B受審人は、大勢丸の避航を期待していたところ、その気配がないまま300メートルに接近したがなおも同船が左右どちらかの舷側を替わすものと思い、警告信号を行うことなく、そのころ両引索が船尾からそれぞれ約30度方向に開いた状態で、転舵により横移動するのが困難な状況であったので、そのままの針路、速力で続航した。 こうして、B受審人は、07時59分半少し過ぎ大勢丸との距離が100メートルとなって衝突の危険を感じ、前部甲板で網の手入れをしていた甲板員に大声で避難するよう指示し、50メートルとなったとき汽笛を鳴らしたものの、八幡丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、大勢丸は、船首部に設置したローラが曲損し、八幡丸は、左舷中央部外板なとが破損したがのちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、石川県能登半島西方沖合において、八幡丸を追い越す大勢丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、八幡丸が大勢丸に対して警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、能登半島西方沖合の漁場において、終夜の操業を終えて引き続き単独の船橋当直にあたり、金沢港に向けて帰航中、眠気を催した場合、次直の有資格者の甲板員を起こして早めに当直を交替するなどの居眠り運航を防止する措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、間もなく当直交替の時間となるのでそれまで眠気を我慢できるものと思い、次直の有資格者の甲板員を起こして早めに当直を交替するなどの居眠り運航を防止する措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥ったまま先航する八幡丸の存在に気付かず、その進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、大勢丸の船首部ローラに曲損を、八幡丸の左眩中央部外板などに破損をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、能登半島西方沖合において、トロールにより漁労に従事していることを示す形象物を表示せずに曳網しながら南下中、後方から自船を追い越す態勢の大勢丸を認め、これと衝突のおそれがあることを知り、同船に避航の気配が認められないまま接近する場合、大勢丸に対して速やかに避航を促すよう、警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、なおも同船が左右どちらかの舷側を替わすものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、大勢丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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