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1999年(平成11年)

平成10年広審第73号
    件名
プレジャーボート片山丸防波堤衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年5月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

横須賀勇一、釜谷獎一、黒岩貢
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:片山丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:片山丸同乗者 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部を圧壊、のち売却処分、同乗者1人が脳挫傷により死亡、船長が両大腿打撲、同乗者1人が右大腿骨骨折等

    原因
水路調査不十分、速力不適切

    主文
本件防波堤衝突は、水路調査が十分でなかったこと及び安全な速力としなかったことによって発生したものである。
受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年6月16日01時00分
瀬戸内海岡山県西大寺港
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート片山丸
全長 8.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 128キロワット
3 事実の経過
片山丸は、レーダーを装備しないFRP製プレジャーボートで、A受審人が船長として乗り組み、友人のB受審人及びC(昭和8年8月1日生)の2人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.5メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成8年6月15日16時30分岡山県西大寺港内の吉井川上流にある係留地を発し、香川県小豆島橘浦沖合の釣り場に至り釣りを行ったのち、翌16日00時ころ同地を発進し、帰途についた。
ところで、西大寺港は、岡山水道内奥の吉井川河口にある南方に向け開口する河川港で、同河口付近中央部は干潟となっており、同河口左岸の西幸西側は、喫水の浅い船舶であれば通航できるものの、喫水の深い船舶は、同河口右岸の九蟠側に築造された長さ650メートルのほぼ南北方に延びる防波堤(以下「防波堤」という。)と同干潟との間の幅20ないし50メートルの狭い水路を航行していた。
また、防波堤は、その南端で逆L字型に折れて60メートルばかり西方に延び、以前、屈曲部に設置されていた灯柱が平成3年に廃止され、新たに逆L字の西端に同じ灯質の西大寺港九蟠東1号防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)が設置されていたが、防波堤に照明設備がなかったことから、夜間、河口から前示水路に入る船舶の運航者は、十分に減速して防波堤を確認しながら航行することを必要とする海域であった。
A受審人は、以前より釣り仲間であるB受審人及びC同乗者とともに各人が所有するプレジャーボートを交互に乗り換えながら月に何度か西幸西側を通航して魚釣りに出かけていたところ、今回新しく購入した片山丸が以前のものより喫水が深かったことから、試運転を兼ねた今回の魚釣りで数年ぶりに九蟠側の前示水路を通航することとなったが、発航に先立ち、水路状況が変わっていることはあるまいと思い、漁業協同組合などを通じて水路調査を十分に行うことなく、また、釣り場に向かうとき、同水路を通航して南下したときも、昼間であったため灯台の位置は気に留めず、防波堤灯台が以前たは異なる地点に設置されていたことに気付かなかった。
こうして、A受審人は、帰途に就くに当たり、前示水域の航行に慣れているB受審人に操船を任せることとなったが、同人に、前示水路状況の変更について知らせることができないまま、まもなく操舵席横の椅子に腰掛けて休息をとった。
B受審人は、初めて操船する新艇であったことから、釣り場を発進した当初、操船に慣れるまで減速して航行し、00時57分少し過ぎ米埼灯台から001度(真方位、以下同じ。)1,670メートルの地点に達したとき、針路を防波堤灯台の灯光を船首目標とする313度に定め、24.8ノットの全速力前進にかけ、手動操舵により進行した。
B受審人もまた、A受審人と同様、防波堤灯台の変更に気付いておらず、船首目標の灯台が逆L字型防波堤の角にあるものと考え、防波堤灯台の灯光の約30メートル手前で右転するつもりで続航し、00時59分防波堤灯合から133度700メートルの地点に達したとき、減速することとしたが、西幸西側からいつも見ていた水路なので大丈夫と思い、防波堤を視認して安全に水路に入ることができるよう、十分に減速することなく、20.5ノットに減じただけで進行した。
B受審人は、同時59分50秒防波堤灯台から133度140メートルの地点に達したとき、防波堤角の南東端付近に照明設備がなく、月及び星明かりのない暗闇であったものの、右舷25度80メートル付近に防波堤灯台の灯光に照らされた防波堤の南東端を視認することができる状況であったが、依然、安全な速力にしなかったので、急速に防波堤に接近して、これを認めるいとまもないまま、同時59分50秒わずか過ぎ防波堤東側至近をこれに並航し航過するつもりで右転を始めた。
片山丸は、防波堤に著しく接近する態勢で回頭中、01時00分防波堤灯台から106度60メートルの地点において、015度を向いたとき原速力のまま、その船首が防波堤南側面に衝突した。
当時、天候は晴で風はなく、視程は約1,500メートルで、潮候は下げ潮の初期で、月出は05時02分であった。
衝突の結果、防波堤には損傷がなく、片山丸は船首部を圧壊し、のち売却処分され、C同乗者が脳挫傷により死亡したほか、A受審人が両大腿打撲を負い、B受審人が右大腿骨骨折等を負った。

(原因)
本件防波堤衝突は、吉井川河口の西大寺港内において、九蟠側防波堤付近の狭い水路を数年ぶりに航行しようとした際、水路調査が不十分であったこと、及び夜間、同水路に入る際、安全な速力とせず、防波堤南端に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、吉井川河口にある西大寺港内において、防波堤付近の狭い水路を喫水の深い新艇で試運転を兼ねて数年ぶりに通航する場合、水路状況の変更をあらかじめ知ることができるよう、十分な水路調査を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、水路状況が変わっていることはあるまいと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、水路状況の変更を知らないまま発航し、防波堤南端に向首進行して衝突を招き、船首部を圧壊させ、同乗者1人を脳挫傷により死亡させ、B受審人に右大腿骨骨折等の負傷をさせ、自身も両大腿打撲の負傷をするに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、夜間、防波堤南東端付近の干潟により航行水域が制限された狭い水路に入る場合、防波堤付近には照明設備がなかったから、防波堤を視認して安全に水路に入ることができるよう、安全な速力とするべき注意義務があった。しかるに、同人は、いつも見ていた水路なので大丈夫と思い、安全な速力としなかった職務上の過失により、前示の損傷を生じさせ及び死傷を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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